押し入れの向こうは異世界でした   作:Brooks

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第380話 観光のはずだったニャ

 

 レヴァニア王国の王都にあるルネスタ商館は、朝から金属の音で満ちていた。

 

 倉庫の戸が開け放たれ、奥には鉄材と銅を置く場所が空けられている。

 

 リュシアが手をかざすと、指先の前に靄が広がった。

 

 靄が晴れた床に、鉄材と銅の木箱が並ぶ。

 

 理央も手を伸ばし、今日売る分の高級ポーションを収納から取り出した。

 

 木箱の中で瓶が触れ合い、澄んだ音を立てる。

 

「この分だけですね」

 

「ええ。残りは入れたままよ」

 

 港で荷を下ろした時、ナジムたちは積荷帳面と実物を照らし合わせ、飛行船で運んできた品をすべて確かめていた。

 

 その後、王都まで運ぶ貨物はリュシアと理央の収納へ移された。

 

 今日商館へ出すのは、ここで売る分だけだ。

 

 関税担当者は帳面を開き、鉄材の束を見比べていた。

 

「到着時に全部確認したのに、ここでも数えるんですね」

 

 理央が声を落とす。

 

「港で確認したのは、運んできた荷全体だ。今日は王都で売る分の数量を確かめる」

 

 ナジムは担当者の指先を追いながら答えた。

 

「帳面と合わなければ、先へ進められないからな」

 

「そういうものなんですね」

 

 担当者が鉄材の数を読み上げる。

 

 ナジムは一つずつ帳面に記し、最後に顔を上げた。

 

「鉄材は一致しています。銅もお願いします」

 

 銅の束が木箱から取り出され、同じように確かめられた。

 

 確認の間、リュシアはルネスタと向かい合っている。

 

「ポーションは、まずこの本数を店に置いてみたいね」

 

「はい。実際に使った方の反応を見て、次の便を考えます」

 

「鉄と銅は工房へ声をかけておこう。待っている親方もいる」

 

「必要な量がまとまれば、次の輸送に合わせられます」

 

 関税担当者がポーションの箱を開けた。

 

 布に包まれた瓶が一列ずつ並び、光を受けて淡く輝く。

 

「こちらは、今日店へ出す分です」

 

 リュシアが告げる。

 

 担当者は瓶を数え、ナジムが帳面へ転記した。

 

 最後の一本を確かめ終えると、担当者は蓋を戻した。

 

「本日の売却分は確認できました」

 

「ありがとうございます」

 

 ナジムが帳面を閉じる。

 

 ルネスタは、商館の者たちが木箱を棚へ運ぶのを見届けた。

 

「これで店に並べられる。ようやく客の顔が見られるね」

 

「運んだ品が、必要な人の手に渡るところまで見届けたいです」

 

 リュシアは最後の箱の位置を直し、袖についた木屑を払った。

 

「荷の方はひと区切りね」

 

「商談は続けますが、二人は出ても大丈夫ですよ」

 

 ナジムが帳面を抱えたまま言った。

 

 レイニャは、開いた窓から通りを覗いていた。

 

 荷車の車輪が石畳を鳴らし、店先から聞き慣れない呼び声が上がる。

 

 焼いたパンの甘い匂いに、香辛料の刺激が混じっていた。

 

「こっちのパン、甘い匂いがするニャ」

 

「さっきの串焼きも気になります」

 

「理央は食べることばっかりニャ?」

 

「レイニャも匂いを追ってますよ」

 

「これは街の調査ニャ」

 

 レイニャは胸を張ったが、鼻先は窓の外へ向いたままだった。

 

 リュシアが笑う。

 

「戻る時間だけ守れば、街を見てきていいよ」

 

「本当にいいんですか?」

 

「せっかくレヴァニアの王都まで来たんだから。ルネスタとの話は続くし、ナジムも確認をまとめてくれる」

 

「夕方までに戻るニャ」

 

「約束ね」

 

 理央はレイニャと顔を見合わせた。

 

「今日は、レイニャが歌いたくなるものを探すんでしたよね」

 

「理央が面白いと思うものもニャ」

 

「両方見つけましょう」

 

「じゃあ、まずは市場ニャ」

 

「はい」

 

 

 

 市場の通りへ出ると、焼き菓子の甘い匂いが風に乗ってきた。

 

 色鮮やかな布の下で、果物売りが客を呼び止めている。

 

 籠には、理央が名前を知らない赤い実や、拳ほどもある黄色い果実が積まれていた。

 

 レイニャは歩くたびに立ち止まり、売り手の声や、店先で鳴る楽器へ耳を向ける。

 

 理央は値段札を見てから品物を眺め、同じ布でも織り目や色糸の違いを確かめていた。

 

「この模様、細かいですね」

 

「こっちの青は、空の色みたいニャ」

 

「値段は隣のお店の方が少し安いです」

 

「買うの?」

 

「まだ決めてません」

 

「理央は見つけるのが早いニャ」

 

「レイニャは、音の方を見つけるのが早いです」

 

 レイニャが返事をしようとした時、耳がぴたりと横へ向いた。

 

 人の声と荷車の音に混じって、カン、と短い音がする。

 

 続けて、カン、ガリッ。

 

「今の、聞こえましたか?」

 

「鍛冶屋じゃないですか」

 

 理央は通りの先を見た。

 

 この辺りには、金属を扱う店もいくつかある。

 

「鍛冶屋なら、もっと怒ってる音するニャ」

 

「怒ってる音?」

 

「火を使って叩く音は、もっと大きいニャ。今のは、隠れて削ってるみたい」

 

 レイニャは人通りの少ない横道を指した。

 

 市場の喧騒が、曲がり角の向こうで急に遠くなる。

 

 狭い路地の頭上には洗濯物が渡され、壁際に樽と空箱が寄せられていた。

 

 その奥に、古びた倉庫が見える。

 

「扉が閉まっていますね」

 

「窓も板でふさいであるニャ」

 

 倉庫の脇には、泥のついた木箱が置かれていた。

 

 周りの箱より新しく、泥もまだ乾ききっていない。

 

 レイニャの耳が、また音を拾う。

 

 今度は倉庫の下から、金属をこするような音がした。

 

「地下に何かあるのかもしれません」

 

「見てみるだけニャ」

 

「近づきすぎないでくださいね」

 

 二人が路地の角から様子をうかがっていると、入口から男がやってきた。

 

 男は大きな布袋を抱え、誰も見ていないか確かめるように辺りを見回す。

 

 理央とレイニャは、軒の陰へ身を寄せた。

 

 男は倉庫の扉には触れなかった。

 

 泥のついた木箱を横へずらすと、その下から鉄板が現れる。

 

 鉄板を持ち上げた男の足元に、地下へ続く階段が口を開けた。

 

 男は袋を抱えたまま降りていき、最後に鉄板が閉じる。

 

 路地に音が戻るまで、二人は動かなかった。

 

「見たのは、木箱と鉄板と階段です」

 

 理央が息をひそめて言う。

 

「地下に何人いるかは、まだ聞いただけニャ」

 

 レイニャは帳面を開き、見たことには目の印、聞いた音には耳の印をつけた。

 

 階段の下から、複数の足音が重なる。

 

 カン、カン、と金属を叩く音が、また聞こえ始めた。

 

 それに混じって、低い声が階段を上がってくる。

 

「二十枚」

 

「明日の朝までに五十だ」

 

「型がもう駄目だ」

 

「表の銀をもう少し増やせ」

 

「見た目が同じならいい」

 

「王都の中では使うな」

 

「荷は明日の西門だ」

 

 理央はレイニャを見た。

 

「偽銀貨を作っているんでしょうか」

 

「まだ耳ニャ」

 

 レイニャは「二十枚」と「五十」の横にも耳の印をつけた。

 

 その時、地下の音が止んだ。

 

 階段の上で、誰かが息を呑む気配がした。

 

「上がってくるニャ」

 

 二人は顔を見合わせ、路地の奥へ走った。

 

 

 

 路地を抜けた二人は、すぐ近くの乾物屋へ飛び込んだ。

 

 店の中には、干した魚と香辛料の匂いがこもっている。

 

 店主が、籠を抱えたまま目を上げた。

 

「いらっしゃい。何をお探しで?」

 

「見てるだけです」

 

 理央は並んだ袋を眺めるふりをした。

 

 外を通り過ぎる足音が、店先で止まった。

 

 地下から出てきた男が、入口から二人を見ている。

 

「さっきの路地にいたな」

 

 理央の喉が詰まる。

 

 レイニャは干し果物の籠へ顔を向けたまま、男に答えた。

 

「吟遊詩人ニャ。王都を見て回ってるところ」

 

「歌い手か」

 

「まだ歌は作ってないニャ」

 

「それで何を見てる」

 

「この果物、どんな歌に合うか考えてたニャ」

 

 男は二人をしばらく見た。

 

 理央は干し果物の値札を読んでいるふりを続けた。

 

「中央市場へ行けば菓子もある」

 

 男はそう言い残し、通りへ消えた。

 

 レイニャは、男の足音が遠ざかってから、ようやく肩の力を抜いた。

 

「今の、歌になりそうですか」

 

「まだニャ」

 

 店主が小さく笑う。

 

「吟遊詩人なら、あの古い倉庫の話を歌にするのかい」

 

 理央は袋から顔を上げた。

 

「ご存じなんですか?」

 

「昔は金属を扱う店だったよ。ずいぶん前に閉めたはずだがね」

 

「今も荷車が来るんですか」

 

「夜に西門へ向かう荷車を見たって話は聞くよ。同じ印の箱が積んであったとか」

 

 店主は乾物の袋を並べ直した。

 

「噂だ。中身までは知らない」

 

 レイニャは帳面を開き、店主から聞いた荷車の話の横にも耳の印をつけた。

 

「おじいさん、これを一つください」

 

 レイニャが、干し果物の籠から小さな一片を選んだ。

 

「それは酸っぱいよ」

 

「大丈夫ニャ」

 

「本当に?」

 

「吟遊詩人は、何でも味わってみるニャ」

 

 代金を払って店を出ると、レイニャはさっそく干し果物をかじった。

 

 耳が横に倒れる。

 

「……酸っぱいニャ」

 

「お店の人の言った通りですね」

 

「でも、買ったからには食べるニャ」

 

 レイニャは、残りを小袋へしまった。

 

「商館へ戻りましょう」

 

「報告するニャ」

 

 二人は市場の人波へ戻り、来た道を急いだ。

 

 

 

 商館へ戻ると、ルネスタとリュシアはまだ話を続けていた。

 

 ナジムが顔を上げ、レイニャの帳面に気づく。

 

「裏通りの倉庫で、男が木箱の下から地下へ入りました」

 

 理央は、路地で見たことを順に伝えた。

 

「地下からは金属を叩く音と、二十枚、五十枚、銀を増やせという声が聞こえました」

 

「銀貨の製造か」

 

 ルネスタが眉を寄せる。

 

「偽銀貨かもしれません。でも、実物は見ていません」

 

 レイニャは帳面を開き、目の印と耳の印を示した。

 

「見たことはこっちニャ。聞いただけのことは、こっち」

 

「分けてくれたのは助かる」

 

 ナジムは帳面を見て頷いた。

 

「今の段階では、偽銀貨と決めつけない方がいい。西門へ出る荷の記録を調べる」

 

「夜に西門へ向かう荷車の噂なら、私も聞いている」

 

 ルネスタは腕を組み、少し考えた。

 

「荷札があっても、中身まで同じとは限らない。まずは箱の印を探してみよう」

 

 ナジムは調べる帳面を手元へ引き寄せた。

 

 リュシアは二人を見た。

 

「倉庫へ戻るのはなし。誰かを追いかけるのもだめ。箱に触らないこと」

 

「分かりました」

 

「地下にも入らないニャ」

 

「そこは当然です」

 

「約束ですよ」

 

 リュシアは念を押してから、少し表情を緩めた。

 

「あとは私たちに任せて、中央市場を見ておいで」

 

「今度こそ観光ですね」

 

「そうニャ。市場で理央の好きそうなものを探すニャ」

 

 二人は頷き、商館を後にした。

 

 

 

 中央市場へ戻ると、焼き菓子の屋台の前に人だかりができていた。

 

 甘い匂いに誘われて近づいた理央の耳に、少年の声が飛び込む。

 

「仕事をした報酬なんだ。偽物なんて知らないよ」

 

「この銀貨は使えない」

 

 菓子屋の主人が、少年の手から銀貨を受け取った。

 

 少年は十二、三歳ほどに見えた。

 

 駆けつけた衛兵が一枚を確かめ、短く息を吐く。

 

「またか」

 

 理央はレイニャを見た。

 

 レイニャも、先ほど地下から聞こえた言葉を思い出したように、耳を立てている。

 

「朝、荷物を運んだんです」

 

 少年は衛兵に向かって言った。

 

「手伝ったら、これをもらっただけだよ」

 

「誰から?」

 

「帽子をかぶった男。声が低かった。二頭立ての荷車で来た」

 

 理央は少年の前にしゃがんだ。

 

「荷車に、何か印はありましたか?」

 

「箱に三角があった。真ん中に線が一本」

 

「箱は、いくつくらい?」

 

「二十個より多かったと思う」

 

 少年は悔しそうに銀貨を握った。

 

「一緒に働いたのは、僕を入れて四人か五人。みんな同じ銀貨をもらった」

 

「また来いって言われたの?」

 

「明日の朝も来いって」

 

 レイニャは少年の手元を見た。

 

「仕事をしただけなのに、困ったニャ」

 

「僕、捕まるの?」

 

「君は仕事の報酬を受け取ったんでしょう」

 

 理央は答えたが、衛兵の顔を見て言葉を選んだ。

 

「この子を、仕事場へ連れていくわけにはいきません」

 

「当然ニャ。紙に描いてもらうニャ」

 

 レイニャは少年の前に紙を置いた。

 

「場所を描いてもらえますか。覚えている範囲でいいんです」

 

 少年は、菓子屋から借りた紙に道を描き始めた。

 

 最初の角、壊れた水桶、壁の欠けたところ。

 

 レイニャは横から、目印になりそうなものを尋ねる。

 

「大きな木はあった?」

 

「葉っぱが半分落ちた木ならあったよ」

 

「そこを曲がると?」

 

「古い染料倉庫」

 

 理央が、紙とレイニャの帳面を見比べた。

 

「さっきの金属倉庫とは別の場所ですね」

 

「作る場所と、荷を集める場所が違うのかもしれないニャ」

 

「まだ分かりません。でも、同じ事件なら役割が分かれている可能性があります」

 

 少年の指が、描いた道を押さえている。

 

 その時、市場の入口から衛兵が駆け込んできた。

 

「西門だ。荷車から銀貨がこぼれた」

 

 紙を受け取った衛兵の表情が変わる。

 

「すぐ来てくれ。現場で話す」

 

 理央は、レイニャと並んで立ち上がった。

 

 市場の人波が割れ、衛兵たちが西門へ向かう。

 

 二人も、その後を追った。

 

 

 

 西門の近くには、衛兵と荷車が集まっていた。

 

 一台の荷車が横倒しになり、荷台からこぼれた銀貨が石畳を埋めている。

 

 馬は別の衛兵に預けられ、御者は腕を押さえられていた。

 

 荷台に残った木箱には、三角の中へ一本線を引いた印がある。

 

「少年の話と同じ印です」

 

 理央が告げる。

 

 衛兵は地面の銀貨を拾い、菓子屋で見たものと並べた。

 

「細工も同じだ。これだけあれば、もう見間違いとは言えない」

 

 レイニャは散らばった銀貨に近づきかけ、衛兵の制止で足を止めた。

 

「触らない方がいいニャ」

 

「そうですね」

 

「逃げた荷車は?」

 

 理央の問いに、衛兵は西の街道へ視線を向けた。

 

「別の一台も逃げた。途中で荷を捨てていったらしい」

 

 御者が連行される。

 

「商館へ知らせを走らせろ。ナジムとリュシアにもだ」

 

 衛兵隊は二人を伴い、最初の倉庫へ向かった。

 

 古い扉の前で、先頭の衛兵が手を上げる。

 

 別の者たちが路地の出口を押さえ、扉を開ける準備をした。

 

「中に人がいるニャ」

 

 レイニャが耳を向ける。

 

 階段の下から、複数の足音が重なって聞こえた。

 

「全員、距離を取れ」

 

 衛兵が合図し、扉が押し開かれる。

 

 暗い階段の奥で、誰かが走った。

 

「逃げるぞ!」

 

 衛兵たちが地下へ降りていく。

 

 理央とレイニャも、その後に続いた。

 

 倉庫の地下には炉と作業台が並び、銀色の円盤が床に散っていた。

 

 壁際には、さっきの印をつけた箱がいくつも積み上がっている。

 

「煙だ!」

 

 奥から煙が流れ出し、視界をふさいだ。

 

 衛兵の声が途切れ、足音がいくつも別の方向へ散っていく。

 

「こっちにもいるニャ」

 

 レイニャは煙の向こうへ耳を澄ませた。

 

 

 

 煙の向こうから、地面を擦るような足音が続いていた。

 

 レイニャは耳を向ける。

 

「右へ曲がって、それから下へ行ったニャ」

 

「ここに穴がある!」

 

 衛兵の声が響いた。

 

 壁際の古い鉄格子が持ち上げられ、その下に暗い穴が口を開けていた。

 

 理央は膝をついて、穴の中を覗き込む。

 

 古い排水路の入口らしい。

 

 しゃがんで中を見た瞬間、理央の《世界地図》に細い線が浮かんだ。

 

 穴から奥へ、さらに地上へ続く経路がつながっていく。

 

「この先に出口があります。路地の向こうへ抜ける道です」

 

「衛兵に伝えて。先回りできる」

 

 レイニャの声が煙の中で鋭く響く。

 

 理央は通路の方向を告げた。

 

 衛兵たちが二手に分かれ、ひと組が排水路を進み、もうひと組が地上の出口へ走る。

 

 煙の向こうで、靴音が急に近づいた。

 

「理央!」

 

 レイニャの手が伸びる。

 

 男が煙を割って、理央へ向かってきた。

 

 理央は反射的に腕を上げた。

 

「《重力》!」

 

 男の身体だけが重くなり、床へ押し戻された。

 

 衛兵が駆け寄り、男の腕を背へ回した。

 

 理央は、男が動かなくなったのを見てから手を下ろした。

 

 指先が震えている。

 

 レイニャは何も言わず、その手を握った。

 

 理央は息を吸い、握り返す。

 

 衛兵から知らせを受けたリュシアが、少し遅れて地下へ入ってきた。

 

「無事でよかった」

 

 リュシアは二人の顔を確かめ、肩へ手を置いた。

 

「話は後。今はここから出よう」

 

 排水路の出口でも、逃げた男たちを押さえたと衛兵が報告した。

 

 

 

 倉庫の外へ出た頃には、路地の入口まで衛兵が塞いでいた。

 

 押収された道具が、倉庫前の布の上に並べられている。

 

 炉、型、削るための道具。

 

 銀色の円盤は、菓子屋で見た偽銀貨と同じ大きさだった。

 

 箱には、三角の中に一本線を引いた印がある。

 

 ナジムとルネスタも商館から駆けつけ、衛兵の説明を聞いていた。

 

「この帳面に、作った枚数や運んだ数が書いてあるそうです」

 

 ナジムがページをめくる。

 

 数字と短い符号が並ぶ中で、ひとつの記載に目が止まった。

 

「北・灯台・七」

 

「それだけですか?」

 

 理央が覗き込む。

 

「他は枚数と荷の記録ばかりだ」

 

 衛兵が別の証拠品を差し出した。

 

 木札には、同じ三角と一本線の印が焼きつけられている。

 

 その隣に、七の文字があった。

 

「この王都で灯台と言うと、海の灯台ではないかもしれない」

 

 ルネスタが札を見た。

 

「北に古い見張り塔がある。そう呼ぶ人もいるんだ」

 

「北の見張り塔……」

 

 理央は木札にある七を、帳面へ写し取った。

 

「七番の荷かニャ」

 

「七番目の場所かもしれません」

 

「それとも、別の意味?」

 

 理央は答えず、帳面の「北・灯台・七」の横に耳の印をつけた。

 

 レイニャの耳が、北の方を向いている。

 

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