押し入れの向こうは異世界でした   作:Brooks

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第407話 初めての領収書

 

 理央はノートの頁を開いたまま、机へ置いた服地を指先で撫でた。

 

 北で残した基準片は、朝の窓から入る光の下でも、折り目の所だけ細く光っている。

 

 隣へ毛布の見本を出すと、同じ羊毛から作ったとは思えない厚みになった。

 

 こちらを子どもたちへ届け、薄い方は服を仕立てる人へ渡す。

 

 そこまでは、昨日の共同商館で話ができた。

 

「澪さん、染料って、どこで買えばいいんでしょう」

 

 向かいの机で書類を揃えていた澪が、顔を上げた。

 

 江古田の新事務所には、商館の厨房から流れてきたような湯気も、食器の音もない。

 

 窓を少し開けておくと、道路を走る車の音に、遠くの電車の音が重なって届いた。

 

 春の光が机を斜めに照らし、理央のノートには、窓枠の影が掛かっている。

 

「手芸店か、通販でしょうか。今まで使った分より、たくさん要りますよね」

 

「はい。毛布も服地も、続けて作るなら」

 

 理央は携帯で調べていた画面を、澪へ向けた。

 

 20g入り、50g入りと並んだ袋は、最初に見た時には、ずいぶん使えそうに思えた。

 

 だが、試験片の横へ毛布の枚数を書く欄を作ってみると、その袋だけで本番まで済む気がしなくなる。

 

「孤児院の必要数は、これからですよね」

 

「人数だけでなく、洗っている間の分も聞いてもらっています」

 

「じゃあ、たぶん、この袋をいっぱい……」

 

 理央は言いかけて、画面を下へ送った。

 

 家庭用ではない物を探すと、今度は500gや1kgの容器が出てくる。

 

 袋から缶へ変わっただけで、買物の難しさまで大きくなった。

 

「いっぱい買って、合わなかったら困りますね」

 

「まず試す分を買って、その結果で本番の量を決めましょう。何色にします?」

 

 理央は毛布の見本を手前へ引いた。

 

 真っ白なら、手元にある基準品のままでいい。

 

 けれど、子どもが自分の毛布を選ぶ時のことを考えると、違う色も置きたかった。

 

「水色と、薄い赤色がいいと思います。暗い色ばかりにしないで、2色なら、使う方も選べますし」

 

「真っ白より、日々の汚れも気になりにくいでしょうか」

 

「はい。どちらかがなくなった時も、次に同じ色を作れるようにしたいです」

 

 理央は頁の上へ2つの色を書き、線を引いてから、服地の方へ手を移した。

 

「こっちは、濃紺とチャコールグレーと黒で」

 

「仕事着にも使いやすそうですね」

 

 濃紺の横には、リュシアに見せる、と書き添えた。

 

 色が違えば欲しいと言われた布は、まだ机の上で淡いままだ。

 

 理央は検索欄へ羊毛用と加え、表示された水色の見本を指した。

 

「こういう色です」

 

「こっちの方が、毛布には柔らかそうですけど」

 

 澪が隣を指したので、理央は2つの画像を切り替えて見た。

 

 どちらも水色と書いてあるのに、片方は緑が近く、もう片方は青が強い。

 

「……水色って、1色じゃないんですね」

 

「薄い青、と思ってました」

 

「私もです」

 

 理央が別の頁を開くと、また違う水色が増えた。

 

 もう携帯を傾けても、どれが近いのか分からない。

 

 画面の明るさを変えかけた手を止め、彼女は机の毛布を見た。

 

「実物で比べたいです。染料も、羊毛に使える物を聞いてから決めたいですし」

 

 澪は自分の携帯でも探し、浅草の染料専門店の案内を開いた。

 

 法人の大口だけでなく、個人や小分けの相談にも対応しているという。

 

「ここなら、いきなり大きな缶を買わなくてもよさそうです」

 

「私たちみたいな試作でも、聞けますかね」

 

「聞いてみましょう。私も染料のことは詳しくないですから」

 

 理央は試作する素材と欲しい色をまとめ、澪と一緒に店へ電話を掛けた。

 

 小分けの相談ができると聞いてから、店の場所をノートへ書き留める。

 

 買う物の欄は、まだ空けておいた。

 

 画面にある水色の画像を閉じ、理央は毛布と服地の基準片を、相談に持っていく紙の上へ並べた。

 

 

 

 毛布を包んで鞄へ入れた所で、澪が封筒を持ってきた。

 

 理央は、それも店へ持参する資料かと思って受け取る。

 

 口を開いた途端、中に並んだ1万円札が見えた。

 

「……これ、何ですか」

 

「染料を買うお金です」

 

 理央は封筒を閉じ、もう一度、開けた。

 

 紙幣は減っていないし、見間違いでもなかった。

 

「私が持つんですか」

 

「はい。今日は理央ちゃんが、試作に使う物を選びますから」

 

「これ、会社のお金ですよね」

 

「会社のお金です」

 

 澪の返事があまりに普通なので、理央は封筒を机へ戻した。

 

 包んだ毛布より、こちらの方が置く時に気を使った。

 

「先に、一緒に数えましょう。10万円です」

 

 理央は席へ座り直し、紙幣を机の空いている所へ出した。

 

 10枚を数え、端を揃えてから、澪が見ている前でもう一度数える。

 

 自分の買物なら、携帯に表示された残高を見れば済むことが多い。

 

 今は、指先で1枚送るたび、預かるという言葉がはっきりしてくる。

 

「全部使う、という意味じゃないですからね」

 

「分かってます。それは、分かってます」

 

 理央は封筒へ戻しながら答えたが、澪が続けようとすると、今度はペンを持った。

 

 買う物は店で相談して決め、支払ったら会社宛の領収書と明細を受け取る。

 

 戻った時に、残った現金と一緒に渡す。

 

 聞いた内容をノートへ書くと、やること自体は短かった。

 

「領収書の宛名は、合同会社押入商会ですね」

 

「はい」

 

 経理の整理を手伝った時にも、その名前の書かれた紙は何枚も見た。

 

 日付や金額を確かめ、明細と揃えて綴じたこともある。

 

 それでも、自分が店の人へ頼んで受け取るのだと思うと、ノートに書いた会社名を、もう一度読みたくなった。

 

「もし、どれを買えばいいか分からなくなったら」

 

「店の方に聞きましょう」

 

「それでも決められなかったら」

 

「その場で私にも聞いてください。今日は一緒に行きます」

 

 理央は澪の顔を見てから、封筒の口を折った。

 

 1人で専門店へ行き、何万円も使って帰るわけではない。

 

 そこには安心したのに、鞄へしまう場所は、なかなか決められなかった。

 

 財布の隣へ入れかけて、手を引く。

 

「混ざると怖いので、こっちにします」

 

 自分の財布と離れた内ポケットへ封筒を入れ、ファスナーを閉めた。

 

 もう一度、上から触って入っていることを確かめる。

 

 澪はその手を見ていたが、急かさず、机に置いた相談用の紙をまとめてくれた。

 

「電車代は、どっちのお金ですか」

 

「仕事で行く分ですから、会社へ精算します。今日はそれぞれのICカードを使って、交通費は別に残しましょう。この封筒は染料用で」

 

「お昼は?」

 

「いつものお昼なら、自分のお金です」

 

「……境目が難しいです」

 

「私も、迷ったら分けて書いてます」

 

 理央は交通費の欄を別に作り、自分の財布を取り出した。

 

 中にICカードがあることを確かめると、澪が小さく笑う。

 

「そっちは、普段も持ってますよね」

 

「今日は、普段の方まで分からなくなりそうなので」

 

 鞄を肩へ掛けると、いつもより紐が重く感じた。

 

 基準片もノートも入っているが、理央の手は、自然に内ポケットの上へ戻る。

 

 澪が照明を消す間、事務所の入口で待ち、扉が施錠されたのを見てから、一緒に駅へ歩き出した。

 

 さっき窓越しに聞いた電車の音が、今度は、行く先の方から聞こえていた。

 

 

 

 電車を乗り継いで浅草へ着く頃には、理央の手は、鞄の紐を持つ所へ落ち着いていた。

 

 改札でICカードを使う時だけ、自分の財布を出し、封筒の入ったポケットには触らない。

 

 澪の隣で階段を上がると、地上の光が駅の灯りより白く見えた。

 

 外は晴れていたが、建物の陰を抜ける風はまだ冷たい。

 

 人の多い方から道を分かれ、携帯に出した地図を見ながら歩くと、店先に荷物を置く人や、台車を押す人が増えてきた。

 

 理央は澪と、通る人の邪魔にならない壁際へ寄った。

 

「ここですね」

 

 電話で聞いた店名を入口で確かめ、澪が扉を開ける。

 

 中は、手芸店で見かけるような、完成品を並べた場所ではなかった。

 

 棚の容器には色名と番号が付き、足元には発送する箱が重ねてある。

 

 奥で電話に応じている声が聞こえ、カウンターには、見本帳と小分けの容器が置かれていた。

 

 紙と段ボールの匂いが、外を歩いている時より近い。

 

 青い物を買いに来たはずなのに、棚にある容器は、みんな似た形だった。

 

 理央は蓋の色で探すのをやめ、相談の紙を手元へ出した。

 

「先ほど、小分けの染料でお電話した者です」

 

 店員が応じ、カウンターの空いた所へ案内してくれる。

 

 澪は隣へ立ち、理央が鞄を置けるよう、少しだけ横へ寄った。

 

 そこで初めて、理央は鞄の紐を離した。

 

「羊毛を使った毛布と服地の試作をしています。毛布は水色と薄い赤色で、服地は、濃紺とチャコールグレーと黒を考えています」

 

 持参した基準片を出すと、店員は、触ってもよいか尋ねてから、薄い布の端を持ち上げた。

 

 毛布の方は少し押し、厚みの違いを見ている。

 

「仕上がりは、こういう物ですね。お色は、こちらを見ながら伺いましょうか」

 

 見本帳が開かれ、理央は、水色の並ぶ頁へ目を落とした。

 

 携帯で見た時より、違いがよく分かる。

 

 その分、選ぶのが簡単になったわけではなかった。

 

 淡くても緑へ寄った物、青を感じる物、灰色を含んでいるように見える物が、同じ頁に並んでいた。

 

「この辺ですかね」

 

 理央が指した所へ、澪も顔を寄せる。

 

「毛布なら、こっちもきれいです」

 

「そっちだと、青が強くないですか」

 

「では、これでしょうか」

 

 澪が次を指したので、理央は見本帳から顔を上げた。

 

「候補、増えてます」

 

「減らすつもりだったんですけど」

 

 店員が、比べたい色の頁を見やすく押さえてくれた。

 

 理央はその上へ、自分の指を戻す。

 

 白い毛布の横に置いた時、色が強く見えすぎない物がよかった。

 

 離れて眺め、もう一度近づいて、青と緑の間で迷っていた指を止めた。

 

「まず、この色を目標にしたいです」

 

 店員は番号を控え、薄い赤色の方も開いた。

 

 理央が毛布の上へ片手を置くと、澪が今度は、先に彼女を見る。

 

「候補は、理央ちゃんが選んでください」

 

「さっきも私が……あ、でも、これもいいですね」

 

 言いかけた理央の指が2つ目へ動き、澪の口元が緩んだ。

 

 彼女は自分で増やした候補を見比べ、最初に選んだ淡い方を残した。

 

 店員にその番号を伝えてから、服地の3色へ移る。

 

 濃紺は黒に近くても、折った所で青が見える色を選び、チャコールグレーは、明るい灰色と離して比べた。

 

「制服にも使いたいので、次に作る時も、なるべく同じ色にしたいです」

 

「それでしたら、使う染料と配合を残していただくのがいいですね。仕上がりの見本も取っておくと、後で比べられます」

 

 理央はノートを開き、選んだ番号の横へ、布の見本を残すと書いた。

 

 原料や織り方の控えだけでは、店へ来た時のこの色は伝えられない。

 

「選んだ色を試作と比べたいんですが、小さい見本を持ち帰れますか」

 

「はい。お選びの5色を用意します」

 

 理央は礼を言い、ノートへ番号を書く欄とは別に、色票を添える所を空けた。

 

 店員は毛布の端を戻し、改めて、薄い服地の方へ目を向けた。

 

「羊毛でしたら、糸を染めますか。それとも生地になってからですか」

 

 理央はペンを浮かせたまま、自分のノートの工程欄へ視線を移した。

 

 

 

「どっちでもなくて、一度溶かします」

 

 理央が答えると、店員の手が見本帳の上で止まった。

 

 隣にいた澪も、基準片を包み直す手を止めている。

 

「……羊毛を、ですか?」

 

「はい。溶かして、必要な成分だけにして、そこへ染料を混ぜてから、繊維に戻します」

 

「繊維に……戻す?」

 

「それを糸にして、布にします」

 

 店員は、カウンターに載っている布を、もう一度見た。

 

 理央も同じ物へ目を落とし、どこが足りなかったのか、工程を頭の中で辿る。

 

 北では、繊維を揃える所までできたら、次は撚りや織り方を聞かれた。

 

 今、止まっているのは、それより手前らしい。

 

「糸にしてからではなく、ということですね」

 

「なる前です」

 

「原毛の状態で色を付けるのでしょうか」

 

「それより前です」

 

 店員の視線が、薄い布から、毛布へ戻った。

 

 理央は、もっと分かりやすく言い直そうと口を開く。

 

「一度、羊毛じゃなくします」

 

「理央ちゃん、その説明は、もっと分からなくなります」

 

 澪が横から言ったので、理央はペンを持った手を下ろした。

 

 店員は困った顔を隠さず、それでも、話を途中で終わらせる様子はなかった。

 

「最終的には、羊毛の繊維になるんですね?」

 

「はい。戻します」

 

「戻す……」

 

 理央は、今度こそ余計な言葉を足さずに待った。

 

 澪が咳払いし、カウンターの紙へ、原料の段階と書く。

 

「特殊な加工設備を使って、原料から繊維を作る試験なんです。通常の糸染めとは工程が違います」

 

 それを聞くと、店員は理央の持参した紙へ目を向けた。

 

 染料と羊毛の成分を混ぜてから、繊維や糸の形へする。

 

 理央も、澪が書いた所を指し、色を付けたいのはここだと説明し直した。

 

「なるほど。その工程でどう定着するかは、こちらでは保証できません」

 

 店員は、分かったふりをせずに言った。

 

「一般的な羊毛向けでご案内するなら、こちらの酸性染料の系統になります。まず少量で、実際の工程に合わせて試していただきたいです」

 

「この色の物を買っても、同じ色に出るとは限らないんですね」

 

「はい。こちらの見本も、一定の染め方で出した色ですから」

 

 理央は、自分が選んだ水色へ顔を戻した。

 

 さっき決めた番号を、そのまま自分の工程へ入れられるわけではない。

 

 専門店へ来れば、最後の空欄まで埋まる気がしていたのだが、ノートには、まだ自分で書かなければならない所が残った。

 

「では、混ぜる量を変えて比べるところからやってみます。青を薄くして水色にして、濃紺は黒も合わせる、という相談はできますか」

 

「基本になる色と、調整に使う色は選べます。同じ系統で組み合わせた方が、試験も揃えやすいでしょう。ただ、実際の発色は、やはり試料を見てください」

 

 店員は青、赤、黒を候補にし、色味を整えるための黄も、少量から持てると説明した。

 

 理央は青の用途を2つ書き、黒の方には、黒そのものとは別に、濃紺と灰色の調整を書き添える。

 

 話を聞いているうち、4色の容器と、作りたい5色との関係が、ノートの上でつながってきた。

 

「この工程で試す場合、色が揃うか以外に、特に見ておいた方がいい所はありますか」

 

 店員は、理央が開いている工程の頁へ目を向けた。

 

「水洗いした後の色や、擦った時の色移りも見てください。洗濯や光でどう変わるかも、用途に合わせて」

 

 理央は、聞いた言葉を工程の横へ書いた。

 

 毛布なら、使う子だけでなく、洗って干す人がいる。

 

 服地は、着て歩き、袖が擦れ、日が当たる所へも出る。

 

 基準片を撫でていた指を止め、彼女は試験の頁を1枚増やした。

 

「今は、試作と最初に作る分だけにします。配合が決まってから、まとまった量を注文したいです」

 

「承知しました。では、小分けの量を見ましょう」

 

 澪が包み直してくれた布を鞄へ戻し、理央は、まだ空いていた購入欄を、カウンターの手前へ寄せた。

 

 

 

 店員が示した小分けの量を見ながら、理央は購入欄へ青500gと書いた。

 

 黒も500gにし、赤の所では、一度、ペンを止める。

 

「赤は毛布だけなので、300gにしたいです。調整用の黄は、100gで」

 

 それぞれ小分けで用意できると聞き、理央は4色の量を読み返した。

 

 店員も品名と数量を復唱し、金額を示してくれる。

 

 合計は数万円で、持ってきた封筒の中だけで支払える額だった。

 

 理央は、相談していた時には見なかった鞄のポケットへ、手を入れた。

 

「こちらで、お願いします」

 

 澪が横にいるのを見てから、店員へ言った。

 

 澪は代わりに注文せず、理央のノートの数量へ、短く目を通した。

 

 容器が揃うまでの間、理央は、後で同じ物を注文する時の品番も聞いておく。

 

 店員が購入する染料の欄を示したので、選んだ色見本の番号とは分けて書き留めた。

 

「本発注の前に、試験で使った量を見て、もう一度相談させてください」

 

「はい。その際も、この品番でお知らせください」

 

 カウンターへ並んだ容器は、持参した毛布よりずっと小さかった。

 

 青を2つの仕上がりに使い、黒も3つの用途へ回す。

 

 理央はラベルとノートを見比べ、赤と黄の量も確かめてから、封筒を開いた。

 

 必要な紙幣を数え、支払う方だけをトレーへ置く。

 

 残りはすぐ封筒へ戻した。

 

 店員が現金を受け取り、釣銭を用意する間、理央は、自分のノートへ支払額を書いた。

 

「領収書はいりますか?」

 

「お願いします」

 

「お宛名は?」

 

 理央は、ノートへ目を戻しかけた。

 

 今朝書いた名前は、もう覚えている。

 

 手を止め、店員の方を向いた。

 

「合同会社押入商会でお願いします」

 

 店員が復唱し、宛名を記入する。

 

 理央は、そのペン先が動く間、無意識に背筋を伸ばしていた。

 

 隣で澪が見ているが、会社名を代わりに言ってはくれない。

 

 それが困るのではなく、今は、自分の返事で書いてもらえたことを、最後まで見ていたかった。

 

「こちらが領収書と、購入明細です」

 

「ありがとうございます」

 

 理央は両手で受け取り、日付と宛名へ目を通した。

 

 4色の品名と量を明細で見て、合計を領収書の金額へ合わせる。

 

 釣銭も受け取り、自分の書いた支払額と見比べた。

 

「……合ってます」

 

「はい。私も同じです」

 

 澪が答えると、理央は、もう一度数えかけていた硬貨を封筒へ戻した。

 

 店員は容器を袋へまとめ、理央の手元にある紙が入るように、袋の口を広くしてくれた。

 

 だが、理央はそちらへ紙を入れず、持参した透明ファイルを開く。

 

 領収書と明細を重ね、角を揃えて奥まで差し込んだ。

 

「紙は、別にします」

 

「では、こちらをどうぞ」

 

 店員が用意してくれた5色の色票を受け取り、選んだ番号と合わせて、相談用の紙へ添えた。

 

 領収書とは別の所へ収め、染料の袋も受け取ってから、店を出た。

 

 外へ出ると、風が理央の前髪を動かした。

 

 遠くで人の話す声が重なり、昼を食べに行くらしい人たちが、道の先へ歩いていく。

 

 理央は入口を空け、澪と並んで、邪魔にならない所まで移った。

 

「これ、持ったまま帰らなくてもいいですよね」

 

 袋の方を見て聞くと、澪が周囲を確かめた。

 

 人の目を避けて容器を靄へ収めれば、理央の片手は空く。

 

 店のラベルごと分けて保管し、次に出す時にも取り違えないようにした。

 

 ところが、もう片方の手に持った透明ファイルは、そのままだった。

 

「そちらも、しまえますよ」

 

「これは、なくすと困るので」

 

「染料も、なくしたら困りますけど」

 

 理央は収納した物の位置を確かめ、今度はファイルの中を見た。

 

 会社名も金額も、ちゃんとそこにある。

 

「物の方は、後から探せる気がするんです」

 

「紙も物ですよ」

 

「……分かってるんですけど」

 

 理央はファイルを鞄へ入れ、紙が折れない場所へ、手帳を添えておいた。

 

 澪が歩き出してから、今度は内ポケットの封筒に触れず、ファイルの入った方へ手を当てる。

 

 帰りの電車へ向かうまで、指先は、そちらの角を覚えていた。

 

 

 

 江古田へ戻るまでに昼食を済ませ、2人は新事務所の収納接続区画から、異世界側へ渡った。

 

 共同商館の作業台へ着くと、ニャニャミが帳面を開いて待っていた。

 

 窓の光はまだ明るく、フードコートの方から、人の話す声が届いている。

 

 理央は鞄を作業台から離した椅子へ置き、先に、持参した基準片を出した。

 

「染料、買ってきました」

 

 4つの容器を靄から出して並べると、ニャニャミの金色の目が、その間を動いた。

 

「これが、全部違う色ニャ?」

 

「青と赤と黒と黄です。作りたい布は5色ですけど」

 

 理央は品番を読み上げ、買った量も伝えた。

 

 ニャニャミは白い手で容器を1つずつ指し、聞いた数字を帳面へ移していく。

 

 リュシアは色見本を持ってきて、青の容器から離れた所へ並べた。

 

「服地は、この辺の色が欲しいんだよ。仕事着なら、紺と灰色。黒も、これくらい深いのがいいね」

 

 理央は店で受け取った5色の色票を出し、彼女が示した見本の隣へ置いた。

 

 濃紺とチャコールグレーを1つずつ見比べると、リュシアも指で端を揃える。

 

「こっちを目標にしても、よさそうだね。できた布は、私にも見せておくれ」

 

 理央は目標にする色票を決め、見本帳で控えた番号をニャニャミへ伝えた。

 

 毛布用の水色と薄い赤色は、服地用と離して、台の手前へ置く。

 

「水色と紺は、同じ物から作るんだね」

 

「はい。混ぜる量を変えてみます。今日は、まず小さい見本で」

 

 理央は、既に使っている羊毛加工の頁を開いた。

 

 収納してある原料を少量ずつ溶解し、残すケラチン主体の成分と、脂や元の色に関わる不要な成分を分ける。

 

 分離後の成分を《鑑定》し、量を揃えてから、比べるための試料を分けた。

 

 理央が成分と量を読み上げると、ニャニャミは別の欄へ書き留め、聞き取った数を読み返した。

 

「水色からやります。最初は、この量で」

 

 理央は青を混ぜる量を伝え、原料の中で均一にしてから、定めた太さと長さの繊維へ固形化した。

 

 糸にする条件も、毛布に織る条件も、北で揃えた物に合わせる。

 

 厚みを持たせ、仕上げた小さな見本を台へ出すと、澪が手を伸ばすより先に、色だけはよく見えた。

 

「……水色ですか?」

 

「青ですね」

 

「青ニャ」

 

「青だね」

 

 理央は、台を囲んだ3人を順に見た。

 

「全員で言わなくても、分かります」

 

 ニャニャミの耳が小さく動き、リュシアは毛布の端を持ち上げた。

 

 厚みも、押した後の戻り方も、基準片と近い。

 

 理央が水色の色票を横へ置くと、毛布の青さが、ますますはっきりした。

 

「これでも、青い毛布にはなるよ」

 

「でも、今日決めた水色ではないです」

 

 理央は見本に番号を付け、ニャニャミへ最初の配合を残すよう頼んだ。

 

 次は原料の量を変えず、青を減らす。

 

 出てきた物は淡くなったが、まだ、毛羽の間に見える青が強かった。

 

 3回目の量を決める前に、理央は容器へ目を向けた。

 

 小さな試験でも、出すたびに、買った物が減っていく。

 

 朝の封筒と店の金額が頭に浮かび、次の試料を作る手順を、もう一度見直した。

 

「無駄にしないように、もう少し……」

 

「今、無駄になってますか?」

 

 澪が尋ね、1回目と2回目を並べた。

 

「どれだけ減らせば薄くなるかは、分かってきましたよね」

 

 ニャニャミも、成功欄を空けたまま、配合の欄を理央へ向けた。

 

「この量は青すぎたニャ。それも残すニャ」

 

 理央は、片付けかけた青い見本を、番号の紙の上へ戻した。

 

 2回目の見本と並べると、減らした染料の量と、薄くなった色を、一緒に辿れる。

 

「これも、比べる分に残します。次は、ここまで減らしてみます」

 

 彼女はニャニャミへ3回目の量を伝え、先の2枚と番号を取り違えないように置き直した。

 

 今度は、基準の白と並べた時に、毛羽の上へ淡い色が載って見える。

 

 澪が窓へ向けて持ち上げると、理央も色票を持って傍へ行った。

 

 同じ光の下へ並べると、色票との差は小さく、毛布を裏へ返しても、表との色の違いはほとんど見えない。

 

「これは、近いです」

 

「ここで、比べる物を残しておきましょう」

 

 水色の欄へ候補の番号を書き、続けて、青と黒を合わせた濃紺を試した。

 

 こちらは少ない修正で、折った所に青が出る、深い色になった。

 

 リュシアは理央が出した布を窓へ向け、持参した黒の色見本を隣へ添えた。

 

「黒と並べた時に、ちゃんと紺だと分かるくらいがいい。暗くしすぎないでおくれ」

 

 理央は濃紺の色票も並べ、黒との境を目で追った。

 

 布を平らに伸ばすと差が見えにくくなったので、黒を加えた量を少し戻して作り直す。

 

 次の試料を同じ所へ置くと、リュシアは黒の見本を離し、紺だけを肩へ当てた。

 

「これは、商館の仕事着にもよさそうだね。袖に使う布も、同じ物が欲しいよ」

 

「次の原料でも、この配合で出るか比べます」

 

 理央は候補を分け、同じ色を作り直すための欄へ移した。

 

 濃紺が決まると、気持ちも少し軽くなる。

 

 だが、薄い赤色に進んだ所で、次に出した毛布は、遠くから見れば白とあまり変わらなかった。

 

 赤を増やした2枚目には、はっきりと色が付いた。

 

「これは?」

 

「ピンクですね」

 

「ピンクニャ」

 

「ニャニャミさんまで覚えなくていいです」

 

 理央が言うと、ニャニャミは、その言葉を見本の番号の横へ書いた。

 

「違う色なら、分けるニャ」

 

 理央は笑いかけ、紙へ載った番号を見てから、薄い1枚目もそちらへ渡した。

 

 黄は調整用だからと、いきなり混ぜるのをやめ、まず赤だけの量を、1枚目と2枚目の間へ寄せる。

 

 できた毛布には、手を載せた時にも、淡い赤みが残った。

 

 理央は薄い赤色の色票を傍へ置き、さっきの2枚を離してから見比べた。

 

 澪は水色と離して置き、リュシアは、それぞれ1枚ずつになるよう端を揃えた。

 

「これなら、子どもも選びやすいね。どっちも同じ暖かさなんだろ?」

 

「はい。色以外の条件は、揃えてます」

 

 ニャニャミが厚みと加工の欄を読み上げ、理央は、自分のノートの値と合わせた。

 

 毛布2色の候補から試験片を分け、理央が洗う前の寸法を測った。

 

 ニャニャミがその値を書き終えると、澪は試験片を水で洗った。

 

 洗う前に残す片を濡らさないよう脇へ寄せ、洗った分は、窓に近い所へ広げて干す。

 

 理央は、残した毛布の片を番号の紙へ置き、服地のチャコールグレーへ移った。

 

 黒を薄くすればすぐできると思っていたのに、並べた物の片方には青が近く、別の物は、赤みが残って見えた。

 

 黄を使った調整分も加え、理央は3枚を台へ置く。

 

「違い、分かります?」

 

「……並べると」

 

「並べないと?」

 

「灰色です」

 

 澪の答えを聞いて、理央は、見本を1枚だけ手前へ出した。

 

 リュシアがそれを取ると、明るい窓へ向けて歩く。

 

「売る時は、3枚並べるんじゃないんだから、ちゃんと決めとくれ。こっちは、青い上着と組ませたいのかい?」

 

「特に、青に合わせるつもりではないです」

 

「じゃあ、今の青みは少ない方が使いやすいね。単独で見た時の色も決めよう」

 

 理央は、彼女が戻した見本を置き、ほかの2枚を隠して比べた。

 

 並べていた時には端の差ばかり追っていたのに、1枚になると、折り目に出る色が目に入る。

 

 ニャニャミがその番号を残し、理央は、チャコールグレーの色票とも合わせながら、調整の量を詰めた。

 

 チャコールの候補を決める頃には、窓枠の影が、台の上から床へ移っていた。

 

 最後の黒は、台へ出した時には、黒に見えた。

 

 理央はそのまま候補へ加えかけ、店員の言葉を思い出して、窓へ持っていく。

 

 傾けた面が光を受けると、端に、ほのかな青が現れた。

 

「黒って、黒じゃないんですか」

 

「黒は黒だよ。だから難しいんだよ」

 

「分からない説明されました」

 

 リュシアは笑ったが、布を戻す手は、その青く見えた面を上にしていた。

 

「暗い所だけで見て決めると、着て外へ出た時に違って見えるよ。紺と並べたら、もっと分かるんじゃないかい」

 

 理央は濃紺の候補を取り、黒の隣へ置いた。

 

 ニャニャミは黒の量を増やすだけの欄を閉じず、色味を変えた場合も横へ足す。

 

 理央も、量の違いと、組合せの違いを分けて、次の小さな試料を作った。

 

 店から届いた数字だけでは埋まらなかった所が、今は、目の前の布を見て書ける。

 

 澪は灯りの下へ候補を運び、理央は窓辺で見た色と比べた。

 

 黒の色票と並べ、濃紺の布とは離し、表も裏も返してから、黒の候補へ番号を記した。

 

 その頃には、先に洗って干しておいた水色と薄い赤色の見本が、触っても冷たくなくなっていた。

 

 澪が理央を呼び、乾いた物を、洗う前に残した片と並べる。

 

 毛布の寸法を測り直す間に、ニャニャミは、干す前の値が載った頁を開いた。

 

「ここは、同じニャ」

 

「縮みは、今の分なら、この範囲ですね。でも、洗濯を繰り返した分も見たいです」

 

 理央は結果を書き、まだ終えていない欄を空けておいた。

 

 服地も、水洗いした片を乾かす間に、残した片を白い布へ擦ってみた。

 

 理央は使っていない白布と隣り合わせにして、目立つ色の跡が付いていないことを確かめ、擦った側の番号もノートへ残す。

 

 澪が乾いた服地も持ってきたので、理央は洗う前の片と重ね、色が大きく変わっていないか比べた。

 

 折って戻し、角度を変えて光を当てると、リュシアも、濃紺と黒を別々に持ち上げる。

 

「色が決まったからって、全部これで売るのは、まだだね」

 

「はい。今日は見本です。同じ配合で作り直す分と、使って洗う分も残します」

 

 理央が答えると、リュシアは販売する布とは分けておくよう言い、5色の候補を台の中央へ返した。

 

 毛布の2枚だけがふくらみ、服地の3枚は、端を重ねても薄い。

 

 理央はノートと見本の番号を揃え、鞄の方へ顔を向けた。

 

 領収書は、作業を始める前と同じ所に、透明ファイルのまま入っている。

 

「これで、一度ゲンダイへ戻って精算します」

 

 ニャニャミは配合表を閉じかけ、青の欄へ指を戻した。

 

「青、もっといるニャ」

 

 理央は、鞄へ伸ばした手を止めた。

 

「……もうですか?」

 

「本番の分ニャ。水色と濃紺、両方で使うニャ」

 

 白い指が、別々に書いた配合を辿った。

 

 今の容器には、試作を続ける分が残っている。

 

 けれど毛布を何枚も作り、服地を反物にすれば、買った分だけで済ませられるとは限らない。

 

 理央はノートを開き直し、今日の試料と、本生産へ使う材料を分けて書いた。

 

「赤も、そのうちいるニャ」

 

「先に青の話をさせてください」

 

 ニャニャミは耳を起こしたまま、青の品番を別の紙へ写し、理央へ差し出した。

 

 下には、水色と濃紺に使うことが書いてある。

 

「量は、作る枚数を決めてから相談しましょう。今日は、これも持って帰ります」

 

「分かったニャ。こっちの帳面にも残すニャ」

 

 理央が紙をノートへ挟むと、ニャニャミは配合表を自分の前へ引き寄せた。

 

 理央は色票を相談用の紙へ戻し、リュシアが持参した見本を彼女へ返した。

 

 候補の見本を包み、ほかの試料は番号ごとに収納する。

 

 青すぎた最初の毛布も、今度は、迷わず残した。

 

 ニャニャミは試作の帳面を揃え、リュシアへ結果を見せてから、フェルナ村へ帰ると言った。

 

「次に作る分も、今日の番号で分かるようにしておくニャ」

 

「お願いします。それじゃ、また」

 

 澪と理央が作業台を離れる時にも、彼女のペンは、まだ配合の欄を辿っていた。

 

 

 

 澪と理央が新事務所の接続区画から出ると、窓の外は、もう暗かった。

 

 理央は鞄を机の脇へ置き、包んで持ち帰った5色の見本を、乾いた所へ広げた。

 

 共同商館で聞こえていた声はなく、道路を通る車の灯りだけが、窓の端を動いていく。

 

 理央は会社用の封筒を取り出した。

 

 残った紙幣と釣銭を数え、透明ファイルから領収書と明細を出す。

 

 ノートへ足した金額を見てから、全部を澪の前へ置いた。

 

「これ、残りです。数えてください」

 

「理央ちゃんが数えたんですよね?」

 

「数えました。でも会社のお金なので、もう1回お願いします」

 

 澪が椅子を引いて座り、紙幣を1枚ずつ送った。

 

 硬貨も別に数えて、明細の購入額と合わせる。

 

 朝に渡された10万円になると分かるまで、理央は、机に載った封筒を見ていた。

 

「合っています」

 

 澪が残金を会社の保管用へ移すのを見て、理央はようやく、背もたれへ肩を預けた。

 

 交通費は、乗り継いだ経路と支払った運賃を照らし合わせ、染料とは別の紙へ残す。

 

 昼食に使った自分の財布は、鞄へ戻したまま触らなかった。

 

 澪が領収書を持ち上げると、理央はまた、前へ座り直した。

 

「すごくきれいですね」

 

「なくしたら駄目だと思って。折れない所へ入れてました」

 

「これと明細は、会社で保管しますね」

 

「……私が、持ってなくていいんですか」

 

 言ってから、理央は、以前自分が揃えて綴じた書類を思い出した。

 

 買った人の鞄に入ったままでは、経理の仕事ができない。

 

 分かっているのに、今日は、澪の指へ渡った紙を、目で追ってしまう。

 

「会社の領収書ですから」

 

「そうですよね。お願いします」

 

 澪は明細を重ね、保管するファイルへ綴じた。

 

 理央の手元に戻った透明ファイルは、紙がない分、薄くなっていた。

 

 ノートを開くと、朝に書いた仮払いの金額の下へ、返した残金を書ける。

 

 自分で、その数字を足した。

 

 澪が会社の記録を開き、用途を確かめる。

 

「毛布と服地の試作用染料、でいいですね」

 

「はい。購入した色と量は、こちらです」

 

 理央は店の品番を示し、共同商館で書き留めた配合の頁も開いた。

 

 数字を突き合わせ、記録へ入った染料仕入の一行を見る。

 

 購入者の所には、飯島理央とあった。

 

 理央は自分の名前へ目を留め、それから、机の反対側へ並べた水色の見本を見た。

 

 店で選んだ色に近づけるため、何回か作り直した物だ。

 

 毛羽へ触れると、指の下で沈み、離した所が戻ってくる。

 

「澪さん。会社のお金って、自分のお金より使うの怖いですね」

 

「必要な物をちゃんと買えましたし、残ったお金も、こうして戻せましたよ」

 

 理央は領収書の収まったファイルを見てから、薄い赤色の見本を水色の横へ寄せた。

 

「でも、また買いに行くんですよね」

 

「この色で本番を作るなら、今度はもっと要りますね。続けて試す分もありますし」

 

「……次は、もう少し慣れておきます」

 

 ノートを閉じようとすると、挟んでいた紙が、机へ滑り落ちた。

 

 ニャニャミが写してくれた、青の品番だ。

 

 理央は拾い上げ、水色と濃紺の見本の間へ置いた。

 

「青は、もう追加の相談も来ていますし」

 

「赤も言っていましたね」

 

「先に青って、お願いしたんですけど」

 

 澪は紙を手に取り、明細の品番と見比べた。

 

「枚数を決めたら、必要な量を出して、注文しましょう」

 

「また領収書もらうんですか」

 

「そこから慣れるんですか?」

 

 理央は笑いながら、空になった会社用の封筒を畳んだ。

 

 次に持つ時には、店で聞く品番と、欲しい量を、もっとはっきり書いて行ける。

 

「次は、最初から押入商会って言えます」

 

「染料の方にも、慣れてくださいね」

 

 澪が青の品番の紙を戻すと、理央は封筒を置いた手で口元を押さえた。

 

 澪は時計を見て、理央を家まで送ると告げる。

 

 理央は追加の相談をする紙をノートへ挟み直し、5色の見本を包んだ。

 

 領収書は、もう鞄のポケットへ戻さない。

 

 空の透明ファイルを閉じると、重ねた水色と薄い赤色の毛布が、その隣の包みを柔らかくふくらませていた。

 

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