押し入れの向こうは異世界でした   作:Brooks

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第421話 赤い点が増えておりますな

 麦粒が、敷石の継ぎ目に挟まっていた。

 

 ベルクマンは踏まぬよう足をずらし、西営の兵糧倉へ近づいた。

 

 ベルグナー家の紋入りの錠は、昨夜のまま閉じている。

 

 その前を、官倉から運ばれた袋を担いだ兵が通り過ぎた。

 

「今朝の炊き出しは間に合いました」

 

 昨日の若い将校が、釜の置かれた方を示した。

 

 湯気の向こうで、配給を受けた兵が椀を持っていた。

 

「よかった。明日の配給も途切れさせるな」

 

 ベルクマンは扉の脇に立つ倉番へ向いた。

 

「鍵を持った者は戻ったか?」

 

「家令様がお持ちです。伯爵様がお戻りになるまで、誰にも開けさせるなと……」

 

 倉番は、国の担当官が持つ引渡し命令を見なかった。

 

 擦り切れた袖の中へ手を引っ込め、閉じた錠を見ている。

 

「陛下は、兵糧を国の担当官へ引き渡すよう命じておられる。君を責めるために来たわけではない」

 

「では、私の給金は、これから……」

 

「この倉で引き続き働くなら、国庫から支給する。嫌なら無理には引き留めない」

 

 倉番の目が、そこで初めてベルクマンへ戻った。

 

 家の紋を付けた使者が、その間へ割って入る。

 

「伯爵家の倉を、勝手に取り上げるのですか」

 

「建物と、国費で買った兵糧は別です」

 

 ベルクマンは担当官から受け取った支払いの証憑を開いた。

 

 倉番が毎度受け取っていた袋の数量と、受領の印が並んでいる。

 

「家の所有だと仰るなら、それを示すものを持ってきてください。兵の食事は止めません」

 

「家令様へ報告いたします」

 

「こちらの命令も渡してください」

 

 使者は差し出された書面を受け取った。

 

 王宮警備長が遣わした兵は、使者を捕らえず道を空けた。

 

 その背が曲がり角へ消えると、ベルクマンは倉番へ問いを戻した。

 

「国が買った袋は、どちらにある?」

 

「入って右手です。奥の木箱は、家のものです」

 

 担当官がその言葉を聞き、立会いの兵と扉の前へ立った。

 

「錠前師を呼びます。取り出す際は、あなたにも見ていただきたい」

 

 倉番は返事をしかけ、若い将校の方を見た。

 

 将校の後ろでは、空の椀を受け取った兵が次の当番へ歩いている。

 

「……右手の袋だけでよろしいのですね」

 

「はい。私物には触れません」

 

 ベルクマンは担当官へ引渡しを任せ、将校が持ってきた今日の配給人数を受け取った。

 

 昨年の兵籍の数は、そこには足されていなかった。

 

 

 

 軍務省の仮執務室へ戻ると、クラウスの前に返書が並んでいた。

 

 倉庫担当官からは、開錠を済ませ、国費で買った兵糧の引渡しを終えたとの報告も届いていた。

 

 真壁は窓辺に立ち、荷車が通るたびに動く影を眺めていた。

 

「軍務に関わる大貴族は13家。昨日来た者たちだけでも、足並みは揃っておらんね」

 

 クラウスは、薄い受領状をベルクマンへ渡した。

 

「東営からは、今朝も返事が来た」

 

「新任命を受けた将校が、部下へ通達しております。兵も当直を続けています」

 

 ベルクマンは受領状を読み、引き継げる将校の名へ目を留めた。

 

「この者に、収容する兵の指揮を任せたいと存じます」

 

「エーデルハルト伯爵の推薦した者だが?」

 

「現に仕事をしております。推薦元だけで外せば、兵が困ります」

 

 クラウスは、昨日大評議室で突きつけられた問いを思い出した。

 

 誰が明日の給金を保証するのか。

 

「アイゼンヴァルト侯爵は、国境の配置を動かすなと求めている」

 

 ヴィクトル・アイゼンヴァルト侯爵の王都の館から届いた書面を開いた。

 

 領地からの返答は、まだ戻るはずもない。

 

「国境を空けてまで、内輪の争いをすることもありますまい」

 

 真壁が窓から離れた。

 

「配置は継続します。任命を改めても、守っている場所まで替える必要はありません」

 

 ベルクマンの答えを、クラウスは侯爵への返書に添えさせた。

 

 その隣にあった厚い紙は、シュタインロート侯爵からの条件だった。

 

「こちらは、将校の推薦に口を出せるようにしておきたいらしい」

 

「推薦なら受けます。ただし、任官を決めるのは国の担当官です」

 

「名前を挙げる自由までは奪えませんからな。採るかどうかは、また別ですが」

 

 真壁は条件書を持ち上げず、クラウスが読むのを待った。

 

 飛行船の図を広げて諸侯を呼んだ時より、宰相の前には多くの要求が集まっている。

 

「軍の調達に関わるグライフェルト伯爵からは、まだ返事がない」

 

「補給の引渡しに支障が出るなら、代わりを手配します」

 

 ベルクマンは返書のない欄より、今朝開けさせた倉の引渡先を見た。

 

「兵が食べてから、相手の言い分を聞けます」

 

「そちらは君に任せたい」

 

 真壁は、卓の軍区図を引き寄せた。

 

「私は、ほかの動きを見ておこう」

 

 

 

 シュタインロート侯爵の食卓では、皿が下げられても王命の謄本が残っていた。

 

 庭から聞こえる鋏の音に、侯爵は顔を向けなかった。

 

 家の印章を、謄本の隣へ置く。

 

「昨日まで私が任じた将校へ、今日から知らぬ官吏の命令を聞けという。兵が納得するかね」

 

「旧来の将校へ、お声を掛けられますか」

 

 執事の問いに、侯爵は印章から指を離した。

 

「それで兵を集めたら、あの伯爵と同じ穴に落ちる。そんな手を選ぶほど若くはないよ」

 

「では、王命には?」

 

「従うさ」

 

 返事をすると、侯爵は紙を裏返した。

 

 兵を率いて戻らなかった一族の名を、自分は覚えている。

 

 それを昨日の一言で片付けられたことは、許しがたかった。

 

 だからといって、今いる者まで同じように送り出すつもりはない。

 

「従った上で、誰が軍を率いるのか見せてもらおう。任命された者の経歴を集めておきなさい」

 

 執事は、兵を呼ぶための印章を残し、経歴を求める手紙を用意しに行った。

 

 

 

 ベルグナー伯爵家の屋敷へ戻った使者は、まだ濡れた靴のまま家令の前へ立った。

 

 倉の鍵が、台所の長机に置かれていた。

 

 家令のリヒャルト・フェルマーは引渡し命令を読み、その鍵を掴んだ。

 

「倉の鍵まで取り上げる気か。あの次官め……」

 

「錠前師を呼ぶと申しておりました」

 

 家令は使者を睨んだが、使者は目を伏せた。

 

 自分だけが鍵を持っていても、倉の中身は守れない。

 

 それを知らせに来た男へ、何を怒鳴っても変わらなかった。

 

「指揮官を呼べ。護衛頭もだ」

 

 しばらくして、旧西営の指揮官ゲオルク・ヴェンクが机の前へ来た。

 

 ベルグナー家の護衛頭ディルク・カイザーは、その横に立った。

 

「兵は分かれています。王命に従って詰所へ残った者の方が多い」

 

 指揮官が言うと、家令は机に手をついた。

 

「伯爵様がお戻りになるまで、私がこの家を守る」

 

「王国軍の兵を、伯爵家の名で動かすのですか」

 

「ここにいたら、兵籍も倉も全部押さえられる。郊外の駐屯地へ出せ。まだ命令を聞く者だけでいい」

 

 指揮官は、命令を受け取らず家令を見ていた。

 

「伯爵様への恩は忘れておりません。ですが、王命に逆らうことになります」

 

「護衛は私が連れていきます」

 

 護衛頭が、指揮官の言葉を遮った。

 

「伯爵様からお預かりした旗も」

 

「旗で守ってもらえるものではないぞ」

 

「ならば、どちらを守るつもりだ?」

 

 護衛頭の手が、腰の剣へ触れた。

 

 指揮官はその手を見てから、鍵を握る家令へ向き直った。

 

「こちらへ来る兵を、どこへやるのです」

 

「西の集合場所だ。王都を出れば、まだこちらへ従う部隊もある」

 

 家令は、返答を得ていない相手のことまで言い切った。

 

「私は屋敷に残る。そちらへの使いは、ここから出す」

 

 指揮官が口を開きかけると、家令は若い従者を呼んだ。

 

「門が閉まる前に、来る者を集めろ。今夜は泊め、明朝、門が開いてから出す」

 

 泥の付いた馬具が壁際へ放り込まれ、代わりの鞍が厩へ運ばれた。

 

 カイザーは、家の旗を持たせる者を自分で選んだ。

 

 

 

 軍務省の窓から、西門へ向かう荷車が見えた。

 

 真壁はそれを眺める顔のまま、《世界地図》を開いていた。

 

 ベルグナー家の屋敷の辺りに、赤い反応がある。

 

 そのうちの幾つかが離れ、街道寄りの駐屯地区へ移っていく。

 

 時間を置いて同じ辺りを見直すと、出発した時より点が増えていた。

 

「……西の赤い点が、また増えたな」

 

 ベルクマンは、読んでいた引渡し報告を置いた。

 

「西営ですか」

 

「伯爵家の辺りから、西門の外へ広がっている」

 

 真壁は紙の軍区図へ、鉛筆で印を付けた。

 

 門を抜けた先にもう一つ置き、その間を短い線で結ぶ。

 

 ベルクマンは、真壁の指の先を追った。

 

 彼の見ている地図そのものは、次官の目には映らない。

 

「兵が集まっていますか」

 

「敵対した人間は、赤く見えるんだがね。今、そちらで増えているよ」

 

「誰が率いているかは?」

 

「名前は見えんよ。ただ、どこへ向かっているかは分かる」

 

 ベルクマンは、印を付けられた地区の当直を引いた。

 

 東営の将校が近くの通行を扱っている。

 

「西門の当直へ使いを出します。王命を受けた部隊が動いているのか、それとも……」

 

「君の報告と合えば、それでいい」

 

 真壁は、軍区図を次官へ渡した。

 

「まだ慌てることはないさ」

 

 呼ばれた使いが戸口から走り去ると、通りの売り子の声が戻ってきた。

 

 真壁は再び《世界地図》へ目を向ける。

 

 シュタインロート侯爵の館の周囲では、赤が集まる動きはなかった。

 

 東営の官吏や兵のいる所には、青い反応が残っていた。

 

 真壁は赤い点を追い、鉛筆を軍区図の脇へ置いた。

 

 荷車の影が伸びる間にも、西の点は、また別の点を迎えていた。

 

 

 

 夕方、ベルクマンは真壁を連絡用の小部屋へ案内した。

 

 机を運び出した床には、脚の跡だけが残っている。

 

 窓から斜めに光が入り、壁際へ寄せた椅子の影を長くした。

 

「この部屋なら、人の出入りを止められそうだね」

 

 真壁は窓と扉の間を歩き、床の空いた所で足を止めた。

 

「帰還先として使わせてもらおう」

 

「管理は軍務省で引き受けます。鍵は担当官に持たせます」

 

 王都東営の当直将校ヘルムート・ヴァイスが、ベルクマンの隣へ来た。

 

 新しい任命を受け取った男の袖には、見慣れた部隊の徽章が付いている。

 

「兵は隣室で待機させます。こちらには誰も入れないよう命じます」

 

 真壁は登録に使える枠を確かめ、その床を《転移》の帰還地点に定めた。

 

 以前この庁舎へ来た時には、通り過ぎもしなかった部屋だった。

 

「私が戻ったら、君に知らせる。現地へ送る兵の準備を頼むよ、ベルクマン君」

 

「拘束はこちらで行います。真壁殿には、制圧までをお願いしたい」

 

 当直将校は、2人の間へ目を往復させた。

 

「現地へは、どちらの部隊が先に入るのでしょう」

 

「最初は私だけだ」

 

 真壁が答えると、将校は口を閉じた。

 

 外の巡回兵の足音が、窓の下を通っていった。

 

「君たちには、その後を受け取ってもらう」

 

「負傷者が多ければ、軍医が足りなくなるかもしれません」

 

 将校は真壁の人数を問い返す代わりに、ベルクマンへ向き直った。

 

「軍医と護送用の車を待機させよう。到着してすぐ何をするか、部下へ伝えてくれ」

 

 ベルクマンが軍医の担当を呼ぶと、椅子の隣へ毛布と水が運ばれた。

 

 将校は運んだ兵へ、負傷者を囲まぬよう先に話した。

 

「武器を置いた者と、怪我で動けぬ者を分ける。指揮官の引取りは私が行う」

 

「装備はこちらで回収しておく」

 

 真壁が、運ばれてきた毛布の端を持ち上げた。

 

「素手の兵を引き受けてもらうことになるだろうね」

 

「それでも監督する兵は必要です。数はまだ読めませんので」

 

「そのとおり。私の地図で分かるのは、兵籍ではないからな」

 

 ベルクマンは、王の命による執行の担当を将校へ示した。

 

 将校がそれを受け取ると、真壁は部屋の扉を閉じてから振り返った。

 

「この通路を開く者には、まだ頼んでいない。説明は私からしてくるよ」

 

 

 

 夜の事業所では、昼間使われた上着が椅子の背に畳まれていた。

 

 澪は、短くなった鉛筆を机の端から集め、子どもたちの道具箱へ戻していた。

 

 廊下の向こうでは、眠る前の小さな声が途切れかけている。

 

 真壁が入ってきたのに気づき、箱の蓋へ置いた手を止めた。

 

「澪君。軍務省から協力を頼まれている。君にも話しておきたい」

 

 真壁の手に、王国の印のある紙があった。

 

 昼間ここへ持ち込まれた荷の伝票とは、違う印だった。

 

「その前に、この前の話、まだ終わってませんからね」

 

「分かっているよ。君には、私を信用できないだけの理由がある」

 

「私に黙って人の記憶を書き換えたこと、忘れたわけじゃないですよね」

 

「君を巻き込んだことを、忘れたわけではないよ」

 

 記憶を変えたのかという問いには、また答えていなかった。

 

 澪は道具箱を閉じた。

 

 真壁の紙を受け取る気には、まだなれなかった。

 

「じゃあ、何を頼むつもりなんですか」

 

「王命を拒み、兵を集めようとしている者がいる。武器を向けるなら、私が止める」

 

 真壁は紙を机へ置き、澪の手元へ押しつけなかった。

 

「君には、現地へ通じる《関門接続》を頼みたい」

 

「王国の軍隊を運ぶんですか?」

 

「最初は私だけだ。制圧が済んだら、ベルクマン君の兵を通す」

 

 澪は、軍務省の廊下で扉を開いた時のことを思い出した。

 

 あの時も、真壁が何をするかを聞いていたはずだった。

 

 聞かされていたことの後ろに、別の行動が隠れていた。

 

「……戦いになるんですよね」

 

「降伏してくれれば、戦わずに済む。だが、抗戦する者がいれば死人も出るだろう」

 

 真壁はいつもの速さで答えた。

 

 澪は、その迷いのなさから目を逸らさなかった。

 

「それを、私が手伝うんですか」

 

「争いが広がれば、守るはずの兵が町を壊す。食事を届ける道も、その間で止まる」

 

「それは分かります。でも、何をしてもいいってことにはなりません」

 

「そうだね」

 

 廊下の向こうで、子どもが誰かを呼んだ。

 

 返事をした声が小さくなり、寝具を直す音がした。

 

 真壁の視線が、一度そちらへ向いた。

 

「澪君、事業所の子どもたちの生命に責任を感じてはいるだろう?」

 

 澪は道具箱から手を離した。

 

「私も、君の守りたいものを守りたいのさ」

 

 開かれる扉の先にいるのは、今は見知らぬ兵たちだ。

 

 それでも、寝る前に鉛筆を片付けた子どもの顔を思い浮かべれば、断る言葉が喉で止まる。

 

 真壁は、止まる所を知っている。

 

「……それ、私が断りにくいって分かって言ってますよね」

 

「そうだな。言い方がずるいことは認めるよ」

 

「真壁さんのそういうところが、今は嫌なんです」

 

 真壁は答える前に、机の上の印から目を上げた。

 

「……ああ」

 

 謝れば済むと言ってほしいわけではなかった。

 

 澪は、王国の印を避けるように上着を持ち上げ、椅子へ掛け直した。

 

 ここに暮らす人を守るという言葉まで、真壁だけに預けたくなかった。

 

「真壁さんがしたことと、今回の話は別です」

 

 自分で言ってから、軍務省の書面へ向き直った。

 

「王国が責任を持ってやるなら、ベルクマンさんから直接説明を聞きます」

 

「分かった。明朝、軍務省へ案内しよう」

 

「まだ、協力するとは言ってません」

 

「承知しているよ」

 

 真壁は、紙を折らずそのまま置いた。

 

「何人通すのか、どこにつなぐのか、先に教えてください。危ないと思ったら開けません」

 

「それでいい」

 

「捕まえた人を、商会のどこかへ置くのも困ります。事業所の人たちを、兵士の代わりにしないでください」

 

「拘束も救護も、軍務省が受け持つ。その説明を、君自身で聞いてほしい」

 

 澪はやっと書面を手に取った。

 

 商会の名前が、兵を指揮する欄に入っていないことから読んでいく。

 

「それから、あの人にしたことも、終わりにしないでくださいね」

 

「無論だ。君を言いくるめて済む話ではないからね」

 

 澪は返事をせず、紙を自分の前へ置いた。

 

 子どもたちの道具箱は、先に棚へ戻した。

 

 

 

 翌朝、軍務省の門へ戻った馬の脚には、泥が跳ねていた。

 

 伝令は下馬すると、歩きながら手袋を外した。

 

 ベルクマンの前へ来た時にも、まだ息が乱れている。

 

「西営の一部が武器を持って、西門を出ました。新しい当直指揮官からの停止命令にも従っておりません」

 

「残った兵の詰所は、誰が守っている?」

 

「王命を受けた将校が指揮しています。配給も続いております」

 

 ベルクマンは、その返事を聞いてから先を促した。

 

「停止を求めた将校へ、刃を向けました。伯爵家の護衛を含め、60人前後です。荷車も連れています」

 

 東営の当直将校が、伝令へ身を寄せた。

 

 旧西営の指揮官の姿と、どこで別れたかを尋ねる。

 

 真壁はその間に、《世界地図》の西門外を見た。

 

 昨日は離れていた反応が、まとまって街道へ進んでいる。

 

「西門の外で赤が集まった。街道を進んでいるよ」

 

「さらに西の部隊と、合流するつもりでしょうか」

 

「そこまでは分からん」

 

 真壁は、将校が開いた地図へ移動先を示した。

 

「どのみち、こちらから出向けば済む話だ」

 

 ベルクマンは、宰相から預かった王命執行の書面を手元へ置いた。

 

「王命を受けた将校へ武器を向けた以上、放置はできません。身柄拘束を命じます」

 

「分かった。私が現地で降伏を求める。兵を受け取る用意をしておいてくれ」

 

 ベルクマンは東営将校を呼び止めた。

 

「監視と護送には、待機兵から30人を出す。門の当直は動かすな。軍医と担架を運ぶ者は別に付ける」

 

「現地を見て足りなければ?」

 

「関門のこちらにも増員を待たせる。負傷者が多ければ、護送より先に救護へ回せ」

 

 真壁は事業所の帰還地へ《転移》し、澪を迎えに行った。

 

 戻ってきた澪は、自分で開いた軍務省への関門を閉じてから、ベルクマンへ歩み寄った。

 

 隣室には、毛布を持つ兵と、手当ての道具を揃える軍医がいた。

 

「ベルクマンさん。真壁さんが戻った後、兵士を捕まえて怪我の手当てをするのは、軍務省の仕事なんですね」

 

「はい。陛下の命令で、我々が行います。軍医も兵もこちらで用意します」

 

「捕まえた人を、どこへ連れていくんですか」

 

「軍の収容先へ護送します。負傷者は先に軍医へ渡します。現地に残す監視の兵も、こちらで出します」

 

 澪は、東営将校の部下へ目を向けた。

 

 彼らは澪が来る前から、靴紐を締め、担架を運んでいた。

 

「現地へ誰を通すか、私が決めてもいいですか」

 

「もちろんです。危険な接続を無理にお願いするつもりはありません」

 

「軍務省の方が通る時も、倒れている人や通行人を巻き込む場所には開きません」

 

 ベルクマンは、将校へその条件を伝えた。

 

 将校は部下を呼び、関門へ先に駆け込まぬよう命じる。

 

 澪は返事を聞き、真壁が転記した街道の位置へ目を落とした。

 

「……分かりました。今回は協力します」

 

 言ってから、真壁を見た。

 

「前のことまで納得したわけじゃありませんからね」

 

「分かっているよ」

 

 澪は接続先を街道の脇へ定め、開いた関門の向こうを見た。

 

 丘の陰に人影はなく、乾いた草が風で揺れている。

 

 真壁だけがそこへ足を踏み出した。

 

 澪は、その背が抜けたのを見て扉を閉じた。

 

 

 

 真壁は丘の陰から街道へ歩き出た。

 

 冬の名残の枯れ草が靴へ触れ、乾いた土が裾に付いた。

 

 伯爵家の旗の下に、槍を持つ列と弓を背負う列が続いていた。

 

 その後ろを荷車が進み、護衛たちが道の両脇を歩いている。

 

 真壁は、旗の下から最後尾までを見渡した。

 

 報告にあった60人前後という見立てと、大きくは違わなかった。

 

 道の先に民家はなく、通行人の姿もなかった。

 

 前衛の兵が真壁を見つけ、後ろへ声を掛けた。

 

 槍を持つ手が止まり、それにつられて次の列も足を緩める。

 

「何者だ。道を開けろ!」

 

 ヴェンクが、止まった兵の間から出てきた。

 

 カイザーは、その隣で真壁の顔を見た。

 

「真壁という。陛下の命令に従って、武器を置いてもらいたい」

 

 真壁は手袋の端を整え、兵を見渡した。

 

「一人で参りました。話を聞くには、十分でしょう」

 

 前列の兵は、丘の陰へ目を向けた。

 

 続いて出てくる兵はおらず、閉じた関門も見えない。

 

 指揮官の口元が歪んだ。

 

「王宮での話は聞いている。伯爵様を陥れた商人か!」

 

「お話が早くて助かります。では、兵を王国軍へお返しいただけますかな」

 

 指揮官は、後ろの兵が自分を見ているのに気づいた。

 

 王命を示された時にも、同じ目があった。

 

 門を出た以上、いまさら従えとは言えなかった。

 

「黙れ! 捕らえろ!」

 

「待ってください」

 

 若い副官ユスト・フレーリヒが、畳んだ勅令を握って前へ出た。

 

 昨夜、出発を止められなかった副官は、部下を残して隊列を離れることもできなかった。

 

 手元の勅令は、指揮官を思いとどまらせるために持ってきたものだった。

 

「陛下の勅令が出ています。ここで戦えば……」

 

「命令は俺が出す!」

 

 指揮官が真壁へ指を向けた時、その腕が下がった。

 

 踏み出そうとした脚が止まり、膝が土へついた。

 

「な……何をした!」

 

 《重力》に押さえられた男が、手を地面へ突っ張った。

 

 肩の金具が鳴り、隣の馬が鼻を鳴らして後じさった。

 

 指揮官の息が続いているのを見届け、真壁は前衛を見渡した。

 

「おや。まだ部下に命令なさいますか」

 

 指揮官は立ち上がろうとし、また膝を落とした。

 

「彼らの顔をご覧になるとよろしい」

 

 槍を構えていた兵が、先を下げていた。

 

 別の兵は、命じられた相手より隣の兵を見ている。

 

「隊長を助けろ! あいつを囲め!」

 

 護衛頭が剣を抜いた。

 

 伯爵家の護衛が動くと、国軍の兵の中にもつられて前へ出る者がいた。

 

 副官は両者の間へ入り、声を張った。

 

「やめろ! 武器を下ろせ! 降伏するんだ!」

 

「聞こえただろう」

 

 真壁は、兵の手元へ目を向けた。

 

「今、武器を置く者には何もしない」

 

 最初の槍が地面へ置かれた。

 

 副官はその兵を道の脇へ下がらせ、次に武器を置く者へ手を伸ばした。

 

 護衛頭は退いた兵を睨み、残った護衛へ剣の先を向けた。

 

「進め。商人は一人だ!」

 

 

 

 駆け出した護衛の肩へ、迷っていた兵が押し出された。

 

 後ろの者には、先で武器が置かれたのか、攻撃が始まったのか見えていなかった。

 

 若い副官は横へ退いた兵を止め、その前に身を置いた。

 

 真壁は、彼らと突進してくる者の間へ目を走らせた。

 

 前衛の進路に靄が生じた。

 

 土と小石が消え、道にあった轍が途中で途切れる。

 

 走り出した兵の靴の先から、踏むはずの地面がなくなった。

 

「前が……道が消えた!」

 

 後ろへ戻ろうとした兵が、隣の盾へぶつかった。

 

 先に踏み込んでいた者は転び、鉄帽と剣のぶつかる音が道の下から響いた。

 

「止まれ! 前へ出るな!」

 

 副官は、自分の方へ押し寄せる後列を止めた。

 

 土の縁に残った草の根が、兵の足元で揺れている。

 

「何をしている! 回り込め!」

 

 護衛頭は、まだ剣を下ろさなかった。

 

「そこから先は来ない方がいい」

 

 真壁が言うと、護衛頭は振り返って弓のある列を指した。

 

「撃て! あの男を倒せ!」

 

 弓を持つ兵が腕を上げた。

 

 先ほど武器を置いた者は、顔を伏せたまま動かなかった。

 

 真壁は、弓の列へ続く進路にも《収納》を働かせた。

 

 足元を失った前列が下がり、弓を構えかけた兵へぶつかる。

 

 狙いを定めるより先に、列が崩れた。

 

「落ちるぞ! 後ろへ!」

 

 荷車の馬が頭を振り、御者が綱を引いて離した。

 

 車輪が土の縁で傾くと、兵が荷台へ手を掛けて押し戻す。

 

 進むために揃えた槍は、もう同じ方を向いていなかった。

 

「降伏しろ! あれを越えて何になる!」

 

 副官は、土の下へ転んだ兵に手を伸ばした。

 

 引き上げられた兵は片脚を押さえ、剣を拾いに戻らなかった。

 

 真壁はその動きを見て、地面を消すのを止めた。

 

「……まだ戦うつもりか」

 

「伯爵家の兵が、商人に負けるものか!」

 

 護衛頭は、道の外の下草へ踏み出した。

 

 彼の後ろに続こうとした護衛もいたが、途中で足を止めた。

 

 真壁は、手に武器を残す国軍の兵へ声を向けた。

 

「君たちは王国から給金をもらっているはずだ。命まで伯爵家へ差し出すことはないよ」

 

 兵が指揮官を見た。

 

 地面へ押さえられた男は、部下へ顔を上げるのにも苦しんでいた。

 

 カイザーは、道の外を回った。

 

 真壁へ向かう途中、武器を置いて退いた兵の一団へぶつかった。

 

「どけ!」

 

 片脚を庇っていた兵が避けきれず、下草へ倒れた。

 

 副官が助け起こそうとすると、護衛頭はその肩を突き飛ばした。

 

「王の犬が!」

 

 倒れた兵は、身体を起こせないまま腕で頭を覆った。

 

 カイザーが、その上へ剣を振り上げた。

 

 真壁は外套の下から携行銃を抜き、護衛頭へ向けた。

 

 刃が、兵の頭上へ振り下ろされかけた。

 

 乾いた発砲音がした。

 

 剣は振り切られず、護衛頭の身体が下草へ崩れた。

 

 真壁は銃を下げ、まだ武器を持つ護衛の動きを見た。

 

 続いてくる者はいなかった。

 

「武器を置け! もう終わりだ!」

 

 副官は、倒れた兵を助け起こし、護衛にも聞こえるよう叫んだ。

 

 前列で剣を持っていた者の手が開き、下草へ刃が落ちた。

 

 旗を支えていた兵は、旗竿を抱えて膝をついた。

 

 土の縁では、まだ動けぬ兵を仲間が支えていた。

 

 こちらへ伸びる槍の先は、もうなかった。

 

 

 

 副官は、引き上げた兵の下へ布を敷いた。

 

 水を運んできた者に手渡し、その隣へ次の負傷兵を寝かせる。

 

 指揮官は道の端に座らされ、立ち上がる力の戻った脚を見ていた。

 

 真壁が《重力》を解いても、前へ出る者はなかった。

 

「武器を置かせました。これ以上は戦いません」

 

 副官が真壁へ向き直った。

 

「では、ここで待っていてくれ。王国軍の受入部隊を呼ぶ」

 

「負傷者がいます。手当てをする者だけは動かしてもよろしいでしょうか」

 

「構わんよ。そこの布と水は残す。ほかの装備は預かる」

 

 真壁の足元に靄が広がった。

 

 地面に置かれた剣と槍が、その中へ消えていく。

 

 盾の束、矢束、鉄帽が続いた。

 

 兵は、拾い直すつもりもなかった武器のなくなった所を見ていた。

 

「剣が……なくなった」

 

 胸元へ手をやった男が、鎧を探して空を掴む。

 

「鎧も……靴までか?」

 

 軍服の襟へ触れた手が、もう一度止まった。

 

 下着姿になった兵は腕で胸を押さえ、隣の男へ顔を向けた。

 

 剣を放せずにいた護衛からは、着衣ごと消えた。

 

 着衣を失った男は、腰を落として草の上へ座った。

 

 真壁は、負傷者の敷布へ靄を向けなかった。

 

 指揮官の華美な外套が消えると、彼は留め金のあった所を握った。

 

「外套を返せ! あれは伯爵様から賜ったものだ!」

 

「本当に私物なら、後で返してもらえばいい。今は、武器も軍服も不要だろう」

 

 真壁は鎧や武器とは別に、家の紋のある品を収めた。

 

 荷車から兵糧の袋がなくなり、矢と馬具が続いて消えた。

 

 馬は生きたまま道の脇へ残り、副官が兵へなだめるよう命じた。

 

 牽引を外された車両が消えると、抱えられていた旗の布も姿を失った。

 

 兵の手には、旗竿だけが残った。

 

「寒がっている者もおります」

 

 副官が言うと、真壁は毛布を取り出した。

 

「下着まで取った者には着せておけ。病人を増やすつもりはない」

 

 副官は受け取り、身体を寄せて座っている者へ配らせた。

 

 毛布を受けた男の手は、まだ震えていた。

 

「倒れた男は、伯爵家の者かね」

 

 真壁が尋ねると、副官は顔を向けた。

 

「家の護衛頭です。私たちの上官ではありません」

 

 真壁は男の傍へ膝をつき、呼吸と脈を確かめた。

 

 既に息絶えていた。

 

 副官にもそれを告げ、身に残る武器を回収した。

 

 布を掛けさせ、遺体はその場に残した。

 

「軍医も連れてくる。怪我人を無理に動かすな」

 

 副官は頷き、指揮官と残った兵の方を見た。

 

「受入部隊が来るまで、ここを離れないように。君には、指揮官と負傷者も含めて、残っている人数を数えておいてほしい」

 

 副官が引き受けると、真壁は、土の下に兵が残っていないか尋ねた。

 

「全員、引き上げました。怪我人も道の脇へ移しております」

 

 縁に寄っていた兵を下がらせ、真壁は収納した土と小石を元の場所へ戻した。

 

 途切れた轍の間が埋まり、土の窪みがなくなっていく。

 

 ただ、戻したばかりの土は、もとの道ほど締まっていなかった。

 

 真壁は足を載せて沈み方を見てから、道の脇へ枝を立てさせた。

 

「荷車は、まだここを通すな。踏み固める者を軍務省から寄越してもらう」

 

 副官が枝の外へ兵を寄せると、真壁は残った武器がないことを見届け、街道脇の空いた地面を覚えた。

 

 返事をした副官の前から、その姿が《転移》で消えた。

 

 

 

 帰還室の床へ、外套に付いた土が落ちた。

 

 真壁は扉を開き、待機していた兵へベルクマンを呼ぶよう告げた。

 

 隣室にいた次官は、澪と共にすぐ来た。

 

「真壁殿。現地はどうなりましたか」

 

「制圧は終わった。兵は武器を置いているよ。装備も回収した」

 

 澪は真壁の手元から顔へ目を上げた。

 

 怪我をしている様子はない。

 

 詰めていた息が戻りかけたところで、ベルクマンが先を尋ねた。

 

「負傷者は何名ですか」

 

「転倒した者が数人。副官が手当てを始めている」

 

 真壁は、用意された担架へ一度視線を落とした。

 

「それから、降伏した兵を巻き込んで剣を振るった護衛頭を撃った。呼吸と脈は確かめた。亡くなっている」

 

「……亡くなったんですか」

 

 澪の声に、真壁は目を向けた。

 

「ああ。隠すつもりはない」

 

 澪は、扉の向こうに揃えられた担架を見た。

 

 真壁から先に言われていた言葉を、そこで聞き直した気がした。

 

 死人が出るかもしれないという言葉は、もう可能性ではなくなっている。

 

 それでも、負傷した人を待たせる理由にはできなかった。

 

「軍医を先行させます。護衛を付け、その後に収容の兵を通します」

 

 ベルクマンはヴァイスを呼んだ。

 

「兵の数は、報告と合っていましたか」

 

「おおよそね。正確な人数は、副官に数えさせている。30人で引き取れるかは、君の将校に見てもらいたい」

 

 真壁は街道の位置を紙へ描き、降伏兵の座る所と負傷者のいる所を示した。

 

「消した土は戻してある。ただ、まだ荷車を通せる道ではない。枝で囲った区間を止めて、踏み固めてもらう必要がある」

 

 ベルクマンは事務官へ、その区間の通行止めと復旧の人手を手配させた。

 

「引き取るのは兵だけではない。荷車が通れるまで、街道の当番も置くように」

 

「遺体はこちらだ。指揮官はその脇。副官が待っている」

 

 澪は、真壁が示した広い地面へ目を向けた。

 

「道の横の空いた所につなぎます。倒れている人の所には開きません」

 

 《関門接続》を開くと、昼の風が小部屋へ入ってきた。

 

 向こうには下草と、離れた所に座る兵が見える。

 

 澪は入口の先に人がいないことを見て、待つ将校へ合図した。

 

 軍医と護衛が通り、担架を持つ兵が続いた。

 

 ヴァイスは抜けた先で、フレーリヒを呼んだ。

 

「こちらで引き受ける。動けぬ者はどこだ」

 

 副官が人数と場所を伝える間、軍医は既に負傷者へ膝をついていた。

 

 別の医療係が、布を掛けられた護衛頭の所へ向かう。

 

 槍を持つ兵は、降伏兵へ切先を向けず、周囲を見て持ち場へ分かれた。

 

 関門を通った1人が、裸足の兵を見て足を止めた。

 

 隣の男は毛布を巻き、空になった手をその中へ隠している。

 

「現地での指揮は、私が取ります」

 

 将校が入口へ戻り、ベルクマンへ告げた。

 

「人数は、伝令の見立てと大きくは違いません。待機兵で監視と護送を分けられます。指揮官の身柄も引き受けました。負傷者は、軍医が診ております」

 

「服まで回収なさったのですか」

 

 ベルクマンは、その後ろの兵を見て真壁へ尋ねた。

 

「軍装はね。靴を失った者もいる。毛布は残した」

 

「靴と衣類は、必要な分をすぐ渡してください。怪我人もおります」

 

「分かった。引渡し場所を教えてくれ」

 

 担当官が保管する床を空けると、真壁は軍靴と衣類を先に取り出した。

 

 武器と鎧は、別の保管先へ収める。

 

 国の兵糧と、私物の申し立てがあった外套も、混ぜなかった。

 

 澪は兵が衣類を運ぶのを見て、関門の脇へ寄った。

 

 着替えを渡された男が、下草へ足を置き直した。

 

 少し離れた所では、軍医が担架へ載せるよう指示している。

 

 その間もヴァイスは、フレーリヒから出発までの経緯を聞いていた。

 

 降伏した者の監視と、指揮官の拘束は、同じ輪の中へ押し込められていなかった。

 

 必要な兵が現地へ渡り、負傷者の搬送が始まった。

 

 澪は通行が切れるのを待ち、将校に現地へ残る人数を尋ねた。

 

 返事を受けてから、次の搬送に必要な兵へ道を空ける。

 

 最後の担架が通り終わるまで、真壁へ問いを戻さなかった。

 

「真壁さん。後で、私にも何があったのか聞かせてください」

 

「……ああ。君にも話すよ」

 

 澪は頷かず、通行の終わった関門を閉じた。

 

 風が止まり、小部屋の床に付いた土だけが残った。

 

 ベルクマンは収容先へ向かう将校を送り出し、現地から運ばれた兵の処置を軍医へ任せた。

 

 真壁は、その指示を聞きながら《世界地図》を開いた。

 

 西の街道にあった赤の集まりは、もう同じ形ではなかった。

 

 地図を広げていくと、王都から遠く離れた所に、別の赤い反応が集まり始めていた。

 

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