押し入れの向こうは異世界でした   作:Brooks

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江古田だけですよ


第46話 困った同居人(神様)

 

 神棚は、ない。

 

 澪は六畳間の真ん中で腕を組み、押し入れ、ローテーブル、段ボール箱、レシート封筒、薬箱、素材試料の小箱、そして小説がぎっしり詰まった本棚を順番に見た。

 

 神棚は、やはりない。

 

 あるのは、経済学の教科書と、異世界ものの小説と、昔買って途中まで読んだ商売本と、表紙で選んだ文庫本が詰まった本棚だった。その一番上の段だけを少し空け、澪は白い布を敷いて、教会から預かった古い燭台を置いている。

 

 燭台の横には、小さな茶碗がある。

 

 昨日の夜、台所から水を入れて供えたものだ。

 

 朝になったので、澪は茶碗を両手で持ち上げ、流しで水を替えた。六畳間へ戻ると、水面が蛍光灯の光を小さく映して揺れている。布の端を指でならし、燭台の台座に埃がないか見て、ティッシュでそっと拭いた。

 

 古い金属は、黒くくすんでいるのに、拭くと鈍く光る。

 

 その光が、どうにも「雑に扱うな」と言っているようで、澪は少し背筋を伸ばした。

 

 鑑定する。

 

----------------------------------

古い燭台

 現在地:本棚最上段

 状態:暫定安置

 供え:水

 水交換:済

 埃対策:可

 評価:礼を失わない努力あり

 備考:火を灯す頻度は少なくてよい

----------------------------------

 

「努力あり、って言い方……」

 

 褒められているのか、努力賞なのか、判断に困る。

 

 澪は本棚の前に立った。下の段には、魔王が出る小説と、古い道具が喋る小説と、大学生がやたら忙しい小説が混ざっている。その上に古い燭台と茶碗の水がある。

 

 神棚ではない。

 

 小説棚である。

 

 それでも、ないよりはいいはずだ。たぶん。

 

 澪は少し迷ってから、両手を上げた。

 

 パン、パン。

 

 小さく柏手を打つ。

 

「おはようございます。今日もよろしくお願いします。できれば、今日は静かにしていてください」

 

 鑑定欄が、すっと浮かんだ。

 

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【朝の祈り確認】

 

001:燭台

 朝の祈りを確認。

 

002:燭台

 静穏希望、受領。

 

003:燭台

 ただし観察は継続。

----------------------------------

 

「静かに観察って、静かじゃない気がする」

 

 返事はない。

 

 直接喋らないのが、この燭台の厄介なところだった。

 

 喋らないのに、言いたいことは鑑定欄に出る。しかも古い掲示板みたいな形式で出る。昨日から、澪の六畳間には、売れないうえに書き込みをしてくる神様付きの燭台が同居している。

 

 澪は鞄を持ち、大学のノートを確認した。

 

 商品企画。

 

 マーケティング。

 

 中小企業論。

 

 会計基礎の小テスト範囲。

 

 押入商会の代表としてではなく、経済学部の学生として、今日も大学へ行かなくてはいけない。

 

 玄関で靴を履きながら、澪は本棚の上を振り返った。

 

「本当に、静かにお願いしますね」

 

 鑑定欄は出なかった。

 

 それが逆に不安だった。

 

 

 

 

 

 江古田の朝は、学生の足音で少し早く動き出している。

 

 澪は商店街の脇を歩きながら、眠気を追い払うようにまばたきをした。パン屋の前から焼けた匂いが流れてきて、古い喫茶店の看板にはまだ開店前の札が下がっている。自転車に乗った学生が横を抜け、コンビニの前では、同じ大学へ行くらしい人たちが飲み物を買っていた。

 

 澪の部屋から大学までは、歩いて行ける。

 

 だから江古田に住んでいる。

 

 朝の混んだ電車に乗らなくていいというだけで、大学生としてはかなりありがたい。押し入れの向こうで市場とセルマ工房と侯爵家案件と神様付き燭台を抱えていなければ、もっとありがたさを噛みしめられたと思う。

 

 緑の多いキャンパスへ入ると、木の葉が朝の光を受けて揺れていた。古い建物の外壁と、新しいガラス張りの校舎が並んでいる。掲示板の前に学生が集まり、講義棟へ向かう人の流れが細く続く。

 

 澪はスマホで時間割を確認した。

 

 午前は商品企画。

 

 午後は中小企業論。

 

 字面だけなら、押入商会にそのまま刺さりそうな日程だった。

 

「刺さらなくていいんだけどな……」

 

 小さく呟き、澪は講義室へ急いだ。

 

 講義室には、ノートパソコンを開く音と、ペットボトルの蓋を開ける音と、前の席の学生が友人に課題の話をしている声が混ざっていた。澪はいつもの席に座り、ノートを開く。

 

 最初のページには、きれいに講義名を書いた。

 

 その下に、日付。

 

 そのさらに下に、教授が黒板へ書いた言葉を書き写す。

 

 商品価値は、物そのものではなく、買い手が理解できる価値として成立する。

 

 澪のペン先が、そこで一瞬止まった。

 

 買い手が理解できる価値。

 

 教会の修繕外し金具。

 

 割れた色ガラス。

 

 孤児院の刺繍小袋。

 

 グラデーションストーン。

 

 オリハルコン疑惑になった剣型試料。

 

 古い燭台。

 

 どれも、物としてはある。手元にある。異世界側では価値があるものも、ないものも、ありすぎて困るものもある。

 

 でも、現代で売るには、買い手が理解できる形にしなければいけない。

 

 教授はスライドを進めながら話していた。

 

「同じ物でも、日用品として売るのか、土産品として売るのか、工芸品として売るのか、贈答品として売るのかで、説明も価格も変わります。物語や由来は価値になります。ただし、説明できない由来はリスクにもなります」

 

 澪はノートに書く。

 

 商品価値=説明できる価値。

 

 誰に売る?

 

 なぜ買う?

 

 由来は価値。

 

 説明不能な由来は危険。

 

 教会品=修繕協力品?

 

 孤児院小袋=手仕事品。

 

 燭台=売却不可。

 

 最後の行を書いた時、自分でも少し笑いそうになった。

 

 商品企画の講義ノートに、燭台=売却不可、と書いている学生は、たぶんこの講義室で自分だけだ。

 

 教授は消費者行動の話へ移った。

 

「買い手は、必ずしも一番安い物だけを選ぶわけではありません。安心できる説明、納得できる価格、贈る相手に話せる由来。そうしたものも購買理由になります」

 

 澪は、孤児院の刺繍小袋を思い出した。

 

 小さな布。少し歪んだ刺繍。年長の子が作った手仕事。

 

 あれを、ただ「異世界の孤児院の小袋です」とは言えない。

 

 言えないし、言ってはいけない。

 

 でも、手仕事品として、作り手に報酬が入る小物としてなら、説明できるかもしれない。

 

 澪のペン先が動く。

 

 作り手に無理をさせない。

 

 作り手番号。

 

 品質確認。

 

 報酬記録。

 

 途中から、講義ノートなのか押入商会の事業メモなのか、境目が曖昧になっていった。

 

 字も、少し曲がり始めていた。

 

 

 

 

 

 昼休み、澪は学食の端の席で、おにぎりをひとつ開けた。

 

 梅と昆布で迷って、安い方にした。法人の口座にはお金がある。個人の財布にも役員借入金返済で少し息はできるはずだ。それでも、学食でおにぎりを選ぶ時、澪は安い方へ手が伸びる。

 

 習慣は、すぐには変わらない。

 

 おにぎりを一口かじりながら、澪はスマホにメモを打った。

 

 教会修繕金具。

 

 説明文案。

 

 「古い教会の修繕で外された金具を、手仕事雑貨として再利用」

 

 打ってから、すぐに消す。

 

 教会名を出しすぎると重いかもしれない。

 

 宗教色が強すぎても、軽すぎても、どちらも違う。

 

 澪はもう一口食べる。

 

 食べながら、また打つ。

 

 「古い建物の修繕で外された金具」

 

 これなら少しぼかせる。でも嘘ではない。嘘ではないが、足りない気もする。

 

 スマホ画面を見つめていると、向かい側から声がした。

 

「篠原さん、最近ずっと眠そうだよ」

 

 顔を上げると、同じ講義を取っている学生が紙パックの飲み物を持って立っていた。何度かグループワークで一緒になった子だ。

 

「え、そうかな」

 

「そうだよ。今日も目、半分しか開いてない」

 

「半分は開いてるなら大丈夫」

 

「その返しがもう大丈夫じゃない」

 

 澪は笑ってごまかした。

 

「ちょっと、バイトが忙しくて」

 

 言いかけて、口の中で言葉が止まる。

 

 バイトではない。

 

 会社である。

 

 合同会社押入商会。

 

 代表社員、篠原澪。

 

 ただし、押し入れの向こうへ行く会社です、とは言えない。

 

「……いろいろ、作業が多くて」

 

「ちゃんと寝なよ。午後、中小企業論でしょ? あれ寝るとノート取れないよ」

 

「うん。寝ない。たぶん」

 

「たぶんって」

 

 その子は呆れたように笑い、別の席へ行った。

 

 澪はおにぎりの残りを見下ろした。

 

 食べているのに、休んでいない。

 

 口は動いている。手はスマホを打っている。頭は教会品の商品説明を考えている。

 

 体だけが、どこにも座っていない感じがした。

 

 

 

 

 

 午後の講義室は、昼食後の眠気で少し空気が重かった。

 

 中小企業論の教授は、淡々とした声で、小規模事業者の話をしていた。

 

「小規模事業者では、代表者本人が判断、営業、在庫管理、帳簿確認、顧客対応を兼ねることが多い。つまり、代表者の疲労は、そのまま仕入れミス、価格ミス、説明ミスにつながります」

 

 澪はノートに書いた。

 

 代表者の疲労=ミス。

 

 その下に、つい書き足す。

 

 澪、寝ろ。

 

 自分で書いて、自分で少し青ざめた。

 

 教授はさらに続ける。

 

「在庫は資産です。ただし、保管場所と管理コストを食います。売れない在庫は、資産であると同時に、経営者の判断を鈍らせる重しにもなります」

 

 六畳間の段ボール。

 

 薬箱。

 

 素材試料。

 

 レシート封筒。

 

 正金貨100枚。

 

 古い燭台。

 

 全部が、頭の中で積み上がる。

 

 教授の声が遠くなった。

 

 売れない在庫。

 

 売れない燭台。

 

 売れないけれど、捨てられない。

 

 売れないけれど、勝手に掲示板を書いてくる。

 

 澪はまばたきをした。

 

 次の瞬間、教授の声が少し近くなった。

 

「では、この場合、事業者がまず確認すべきものは何でしょう。篠原さん」

 

「はい」

 

 澪は立ち上がろうとした。

 

 椅子が小さく鳴る。

 

 視界が、ふわりと揺れた。

 

 隣の学生が、すぐにこちらを見た。

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫です」

 

 澪は机に指をつき、短く息を吸った。教授の質問は聞こえていた。事業者がまず確認すべきもの。現金残高。支払い予定。在庫。販売見込み。代表者の体調。

 

 最後のひとつは、たぶん講義ではまだ言っていない。

 

「在庫と、支払い予定と、販売までの流れです。あと……判断する人が、ちゃんと判断できる状態かどうか」

 

 教授が少しだけ目を細めた。

 

「いいですね。最後の点は、実務では非常に重要です」

 

 澪は座った。

 

 座った途端、背中に汗がじわりと出た。

 

 机の下で、こっそり自分を鑑定する。

 

----------------------------------

篠原澪

 体力:低下

 集中:低下

 睡眠:不足

 栄養:偏り

 疲労:蓄積

 鑑定:7

 収納:8

 錬金:4

 薬学:1

 警告:作業過多

 備考:代表者本人の管理が不足しています

----------------------------------

 

「鑑定が経営者目線で怒ってくる……」

 

 小声で呟くと、隣の学生がまたこちらを見た。

 

「何か言った?」

 

「ううん。経営者って大変だなって」

 

「急に実感あるね」

 

「実感しかない」

 

 澪はノートに、もう一度書いた。

 

 代表者本人の管理。

 

 その下に、少し迷ってから書き足す。

 

 睡眠。

 

 字は、やっぱり少し曲がっていた。

 

 

 

 

 

 夕方、六畳間の玄関を開けた瞬間、澪は固まった。

 

 床に、小説が散らばっていた。

 

 鞄を肩にかけたまま、澪は片足を玄関に置き、片足を上げた状態で止まった。

 

 本棚の一番上には、古い燭台がある。

 

 茶碗の水もこぼれていない。

 

 布もずれていない。

 

 燭台は何もしていない顔で、そこに置かれている。

 

 ただし、本棚の下段から何冊か抜けて、床に落ちていた。ページは折れていない。汚れてもいない。ただ、開かれている場所が妙に偏っている。

 

 神様が出てくる場面。

 

 古い道具が意思を持つ場面。

 

 異世界へ行く場面。

 

 商人が帳簿で困る場面。

 

 なぜか大学生が疲れて倒れかける場面。

 

「……読んだ?」

 

 澪は鞄を下ろし、本を一冊ずつ拾った。

 

 手に取るたびに、開かれているページが心に刺さる。

 

 神託。

 

 古道具。

 

 異界。

 

 商売。

 

 過労。

 

「最後のやつ、今日のあたしに寄せすぎじゃないですか」

 

 澪は本棚の上を見た。

 

 鑑定する。

 

----------------------------------

【読書希望】本棚選定について【床置き発生】

 

001:燭台

 小説棚、有用。

 

002:燭台

 物語から祈りの形を学習中。

 

003:燭台

 異界移動、古道具信仰、神の登場場面に興味あり。

 

004:燭台

 商人が帳簿で困る話にも興味あり。

 

005:燭台

 大学生の疲労描写に関心あり。

 

006:燭台

 専用読書区画を希望。

 

007:燭台

 最低3冊の常設を希望。

 

008:燭台

 床置きされた書籍あり。整理推奨。

----------------------------------

 

「散らかした側が整理を推奨しないでください」

 

 澪は床に膝をつき、本を拾い始めた。

 

 燭台は喋らない。

 

 直接動いているところも見ていない。

 

 けれど、鑑定欄はあまりにも堂々としている。

 

 澪は神様が出る小説を1冊、古道具が出る小説を1冊、異世界ものを1冊選び、本棚の最上段、燭台の横へ置いた。

 

「神様が出る本、古道具が出る本、異世界もの。この3冊だけです。他は落とさないでください」

 

 すぐに鑑定欄が増えた。

 

----------------------------------

009:燭台

 条件了承。

 

010:燭台

 追加希望:商人が帳簿で泣く本。

----------------------------------

 

「それは実話で足りてます」

 

 澪は拾った本を棚に戻しながら、深く息を吐いた。

 

 困った同居人である。

 

 神様かもしれない。

 

 でも、困った同居人である。

 

 

 

 

 

 夜になっても、六畳間は片づいたようで片づいていなかった。

 

 ローテーブルには、午前の商品企画のノートと、午後の中小企業論のノートが開かれている。その横に、教会品の商品企画メモ。さらに、明石さんへ送る相談文の下書きを表示したスマホ。

 

 澪はペンを持ち、教会品の商品企画メモへ項目を書いていった。

 

 商品名。

 

 由来。

 

 誰に売るか。

 

 なぜ買うか。

 

 価格理由。

 

 作り手報酬。

 

 販売対象。

 

 保管場所。

 

 明石さん事前相談。

 

 説明できる価値。

 

 売ってよいもの。

 

 売ってはいけないもの。

 

 そして最後に。

 

 澪の睡眠時間。

 

 澪はペンを止めた。

 

「なんで商品企画メモに睡眠時間があるんですか」

 

 自分で書いた。

 

 自分で書いたのに、納得できない。

 

 けれど、午後の講義で聞いた言葉が頭に残っている。

 

 小規模事業者では、代表者本人が判断、営業、在庫管理、帳簿確認、顧客対応を兼ねることが多い。

 

 代表者の疲労は、仕入れミス、価格ミス、説明ミスにつながる。

 

 澪は、少し曲がった自分の字を見た。

 

 教会品の商品説明を書かなければいけない。

 

 明石さんへの事前相談文も整えたい。

 

 孤児院の刺繍小袋の作り手報酬も考えたい。

 

 明日の講義の小テスト範囲も見直したい。

 

 ついでに、燭台用の本も3冊で済ませる交渉をしたい。

 

 やることはある。

 

 いくらでもある。

 

 澪は燭台を鑑定した。

 

----------------------------------

古い燭台

 取引姿勢確認:

 教会品商品化メモ、作成中

 説明価値:整理中

 証憑:不足気味

 事前相談:推奨

 

 代表者状態:

 睡眠不足

 栄養偏り

 判断精度:低下

 作業継続:非推奨

 

 備考:礼を失わない商いは、倒れない身体から

----------------------------------

 

「商売じゃなくて、あたし本人に刺してきた……」

 

 澪はペンを握り直した。

 

 もう少しだけ。

 

 せめて修繕外し金具の説明文だけでも。

 

 そう思って、紙へ目を戻したが、文字が少し二重に見えた。

 

 明石さん事前相談。

 

 説明価値。

 

 証憑。

 

 睡眠。

 

 睡眠。

 

 睡眠。

 

 澪は額を押さえた。

 

 もう一度、鑑定する。

 

----------------------------------

【就寝推奨】代表者状態について【作業停止】

 

001:燭台

 就寝推奨。

 

002:燭台

 作業継続、非推奨。

 

003:燭台

 代表者の消耗、過大。

 

004:燭台

 心配。

----------------------------------

 

 澪はペンを持ったまま、表示を見つめた。

 

「心配、って書いた……」

 

 売り物ではない燭台。

 

 帳面を直してくる燭台。

 

 小説を勝手に選ぶ燭台。

 

 神託なのか古い掲示板なのか分からない形式で、やたらと注文を出してくる燭台。

 

 その燭台が、今はただ、心配と表示していた。

 

 澪は、ゆっくりペンを置いた。

 

「分かりました。寝ます」

 

 スマホの画面を伏せる。

 

 明石さんへの相談文は、下書き保存。

 

 商品企画メモも閉じる。

 

 茶碗の水を確認し、本棚の前で小さく頭を下げた。

 

「おやすみなさい」

 

 布団に入ると、いつもなら頭の中で在庫、金額、納品、講義、レシート、明石さんの顔が順番に回り出す。

 

 けれどその夜は、古い燭台の灯が、火もついていないのに、胸の奥のざわつきを少しだけ静めた。

 

 眠りに落ちる直前、鑑定欄が淡く浮かぶ。

 

----------------------------------

篠原澪

 体力:低下

 集中:低下

 睡眠:不足

 栄養:偏り

 疲労:蓄積

 鑑定:7

 収納:8

 錬金:4

 薬学:1

 新規加護:安息:1

 備考:夜番の燭台が、休む意思に反応した

----------------------------------

 

 続けて、もうひとつ表示が浮かんだ。

 

----------------------------------

安息:1

 分類:加護/休息補助

 効果:寝つきを少し助ける

 効果:眠りの浅さを少し抑える

 効果:起床時の疲労残りをわずかに軽減

 条件:本人が休むこと

 注意:徹夜の帳消し不可

 注意:病気・怪我の治療不可

 備考:癒しの前段階

----------------------------------

 

「……寝ないと効かないんですね」

 

 澪が小さく言うと、最後にもう一度、鑑定欄が出た。

 

----------------------------------

005:燭台

 休まぬ者は癒えない。

----------------------------------

 

「正論すぎる……」

 

 それ以上、文句を言う力は残っていなかった。

 

 現代円は、今日も増えていない。

 

 教会品の商品化も、まだ始まっていない。

 

 けれど澪は、大学で学んだことをひとつだけ、押入商会に持ち帰った。

 

 商品は、説明できなければ売れない。

 

 会社は、代表者が倒れたら動かない。

 

 布団の中で、澪は明日の欄に「睡眠」と書いた自分のメモを思い出した。

 

「経済学部で、まさか寝ることを学ぶとは思わなかった……」

 

 棚の上の燭台は何も言わない。

 

 鑑定欄だけが、静かに出た。

 

----------------------------------

006:燭台

 理解、良。

----------------------------------

 

 澪はもう返事をしなかった。

 

 久しぶりに、返事をする前に眠っていた。

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