押入商会侯爵領事業所の机には、前回の授業で使った紙がまだ少し残っていた。
注文票の束とは別に、ミラがまとめた「蒸発」「霧」「温度変化」という文字が並んでいる。紙の端はきちんと揃えられ、インクの濃さまで似たような幅になっていた。
ミラ・セイルは、その紙を一枚ずつ確認しながら、今日の仕事で出た注文票と混ざらないように別の箱へ移している。
ピナ・ロッテは、前回濡らした布をきちんと広げて乾かしていた。机の端に置くと紙が湿る。床に置くと汚れる。結局、椅子の背と細い木棒を使って小さな干し場を作り、布の角をそろえていた。
トル・バッカは、霧をもう一度見たがっていた。
彼は冷たい板をちらちら見ている。前回、そこから白い霧がふわっと出たのが、よほど気に入ったらしい。
「今日は霧をいっぱい出しますか」
トルが聞くと、澪はノートPCを抱えたまま首を横に振った。
「今日は、その霧がどうして出るのか、もう少し広げます」
ミラが紙を揃える手を止める。
「水ではないのですか」
「水の周りにあるものです」
ピナは、布を見た。
「器ですか」
「もっと周りです」
トルは机を叩いた。
「机ですか」
「空気です」
三人が少し黙った。
沈黙の理由は、分かる。
空気は見えない。
トルが自分の前で両手を振った。
「ありますか」
「あります。見えないだけです」
「見えないものを勉強するんですか」
「はい。見えないものを、動画と鑑定で見ます」
澪は白布を壁に張り、プロジェクターの角度を直した。
マルテ・ロウは、記録板に今日の日付と授業名を書き込む。
「仕事後教育、空気」
トルはその文字を見て、また自分の前で手を振った。
「今日は見えないものですか」
「見えないものです」
「見えないのに、ありますか」
「あります」
「見えないのに」
「見えないのに、あります」
澪がそう言うと、マルテは淡々と記録した。
「トル、空気の存在に疑問」
「それも記録するんですか」
「見えないものを扱う時は、疑問も記録します」
トルは少し納得したような、していないような顔で椅子に座った。
白布に、青い箱と、その中を動く小さな粒の絵が映った。
白布の中で、小さな粒が箱の中を跳ね回っていた。
粒は壁に当たり、跳ね返り、また別の壁へ当たる。何度も何度も当たり続けるので、箱の壁が外側へ押されているような絵になっていた。
「本当は空気は見えません。でも、今日は小さな粒のイメージで見ます」
澪がそう言うと、ミラはすぐに紙へ「空気、粒のイメージ」と書いた。
「空気は、まわりを押しています。この押す力を、気圧と言います」
トルが自分の頬を指で押した。
「押されていますか」
「ずっと押されています」
「全然分かりません」
マルテが記録板に書く。
「トル、気圧に押されている自覚なし」
澪は少し笑った。
「分かりにくいです。空気はいつもあるので、押されている感じがしません」
「ずっと押されているのに、分からないんですか」
「そういうものです」
トルは納得いかない顔で、もう一度自分の頬を押した。
次の動画では、空気の粒の中に、小さな青い粒が混ざっていた。
「空気の中に、水がたくさんあると湿っています。これが湿度です」
ピナが、前回干していた布へ視線を向ける。
「濡れた布の近くみたいなものですか」
「かなり近いです。水が空気の中に多いと、湿っていると感じます」
ピナは、自分の指先で布の端を触った。
「乾いている布と、湿った布は違います」
「その感覚は大事です」
次のアニメでは、温かい空気が上へ上がっていく。上がった空気は冷えて、白い雲になった。雲は大きくなり、やがて雨を落とす。
ミラは紙に書いていく。
「温かい空気、上がる。冷える、雲。水、雨」
彼女の文字は小さいが、迷いが少ない。
さらに動画が進むと、気圧の高い場所と低い場所が色で分けられた。空気の粒は、ぎゅうぎゅう詰めの場所から、すかすかの場所へ向かって動いていく。
「空気が動くと、風になります」
トルが反応した。
「空気が走っているんですね」
「かなり良い言い方です」
マルテが記録板に書く。
「風=空気が走る」
澪は訂正しようとして、口を閉じた。
粗い。
けれど、分かりやすい。
今回はそのままにする。
次に、嵐のアニメが始まった。
温かく湿った空気が上へ上がる。雲が大きく膨らむ。雨が強くなり、風が渦を巻き、雷が白く光る。
トルの目が輝いた。
「嵐です」
ミラは雷の場面で少し身構えた。前回、雷を覚えてしまったせいで、映像でも反応してしまうらしい。
ピナは、風で布が飛ばされる絵に反応して、干していた布を見た。
「布、固定した方がいいです」
「今は動画です」
「でも、風が来たら飛びます」
「それは正しいです」
澪は白布を指した。
「嵐は、空気と水と温度が大きく動いたものです。水だけでも、空気だけでもありません。全部が関係します」
トルは白布を見たまま言う。
「空気が走って、水が逃げて、雲になって、雨になって、雷も来るんですね」
「かなり雑ですが、方向は合っています」
マルテがまた記録した。
「トル、嵐を雑に理解。方向は合う」
「雑って書かれました」
「あとで直せます」
澪は動画を切り替えた。
「次は、なぜ涼しくなるのかです」
白布には、濡れた布に風が当たるアニメが映った。
布の表面に小さな水の粒があり、風が当たると、その粒が空気の中へ逃げていく。その時、布の周りから赤く描かれた熱の粒も一緒に動いていく絵になっていた。
「水が液体から気体になる時、周りから熱をもらいます」
ミラは紙に書こうとして、少し手を止めた。
ピナも、布と熱と水の粒を見比べている。
トルは、口を半分開けたまま固まった。
澪は言い換えた。
「水が逃げる時、熱も連れていきます」
トルがすぐに反応する。
「熱も逃げるんですか」
「かなり良い言い方です」
ピナは濡れた布を持ち上げた。
「だから、濡れた布に風を当てると涼しいのですか」
「はい」
ミラが、紙の上に「汗」と書きかけて顔を上げる。
「汗が乾くと涼しいのも同じですか」
「同じです」
三人の顔が、少しだけ分かった顔になった。
澪は続ける。
「前に作った冷風箱も同じです。濡れた泡石に風を通します。水が逃げます。その時、熱も持っていきます。だから冷たい風になります」
ピナが小さく頷く。
「濡れたものに風を当てるから、涼しいんですね」
「そうです」
澪の頭の中で、いくつものものがつながっていく。
冷風箱。
打ち水。
霧。
濡れ布。
汗。
全部同じところへ戻ってくる。
マルテは記録板へ大きめに書いた。
「水が逃げる時、熱も連れていく」
「正式には気化熱ですが、最初はその言い方でいいです」
澪がそう補足すると、ミラは紙の端に小さく「気化熱」と書いた。その横に、括弧で「水が逃げる時、熱も連れていく」と書いている。
トルは、自分の袖を見た。
「濡らして走ったら涼しいですか」
「涼しいですが、仕事中に勝手に濡らして走らないでください」
「走るのは駄目ですか」
「濡らす方も駄目です」
マルテが記録板を持ち上げた。
「トル、濡れて走る案。仕事中は不可」
「また不可ですか」
「今回は不可です」
澪は白布の動画を止めた。
「そして、空気が薄いと、水は逃げやすくなります」
三人が顔を上げた。
ピナが濡れ布を握る。
「空気が薄い?」
澪は、少し遠くを思い出した。
前に、孤児院でミナがやったあの現象。
水が霧のようになり、少し冷えたあの感じ。
「あれ、もしかして気圧が下がっていたのでは」
マルテがすぐに記録する。
「記録上、確認対象です」
ミナは、少し緊張した顔で押入商会侯爵領事業所へ入ってきた。
孤児院全体を巻き込む話にはしない。今回は、たまたま用事で近くまで来たミナに声をかけ、短い時間だけ参加してもらう形にした。
それでも、白布とプロジェクターと机の上の小瓶を見たミナは、警戒した猫のように足を止めた。
「私、また何かしましたか」
「前にやったことを、今日は分かる形で試したいんです」
「分かる形……」
ミナは不安そうに繰り返す。
トルが横から言った。
「空気を薄くするんだって」
「空気って薄くなるんですか」
ミナの顔が、さらに不安になった。
「そこからです」
澪は白布に、気圧が下がると水が蒸発しやすくなるアニメを映した。
箱の中に空気の粒がたくさんある時、水の粒は出にくい。空気の粒が少なくなると、水の粒は外へ逃げやすくなる。逃げた水の粒は白い霧になり、その周りの温度が少し下がる。
ミナは、難しそうな顔で白布を見つめていた。
澪は説明する。
「空気が少ない場所では、水が逃げやすくなります。水が逃げると、熱も連れていきます。だから、少し涼しくなります」
ミナは自分の手を見た。
「私、前にそんなことをしていましたか」
「たぶん、していました。今日は、何が起きているかを見ます」
マルテが記録板を用意する。
ミラは紙を新しくした。
ピナは小さな布を畳み直し、机が濡れないように用意している。
トルは、わくわくしていた。
「空気を薄くすると、霧が出るんですね」
「出やすくなります」
「出るんですね」
「実験します」
澪は小さな水皿と透明な容器を机に置いた。
「では、ミナさんに試してもらいます」
澪は小さな水皿を机の中央へ置いた。
水は浅く、皿の底が見えている。大きなものではない。部屋を冷やすための道具でもない。あくまで収納の中の小さな実験だ。
「現実の道具の作り方ではなく、収納の中の小さな実験です」
澪は、ミナにそう説明した。
真空を作る装置のような話はしない。具体的な手順を広げる必要もない。この世界の収納スキルの中で、ミナが以前起こした現象を、分かる範囲で再現するだけだ。
ミナは水皿を両手で持ち、慎重に収納へ入れた。
「前にやった時の感覚を思い出してください。中の空気を少し薄くする感じです」
ミナは目を閉じる。
唇が少し動いた。
「押す、ではなく……引く、でもなく……すかすかにする感じです」
「それです」
ミラが事前に水皿を鑑定する。
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水皿
分類:水/浅皿
状態:常温
霧化:なし
周囲温度:変化なし
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ミナは小さく頷いた。
それから、目を閉じたまま、収納の中へ意識を向けた。
空気をなくす、ではない。
強く吸う、でもない。
押すのでも引くのでもない。
ミナの言葉どおり、すかすかにする感じ。
机の周りが静かになる。
澪はミナの表情を見た。怖がってはいない。難しい顔をしているが、逃げようとはしていない。
少しして、ミナが水皿を取り出した。
皿の上に、白い霧がふわっと浮いた。
薄い。
けれど、確かに出ている。
机の上の空気が、ほんの少しだけ冷たく感じた。
トルが真っ先に手をかざす。
「涼しい!」
ピナも布を近づけた。
「布を近づけると、少し冷えます」
ミラが鑑定する。
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水皿
分類:水/浅皿
状態:霧発生中
周囲温度:わずかに低下
湿度:上昇
気圧変化:低下後、戻りつつあり
注意:長時間維持は困難
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ミラは読み上げながら、紙へ写した。
「周囲温度、わずかに低下。湿度、上昇。気圧変化、低下後、戻りつつあり」
マルテが続けて記録する。
「ミナ収納内実験、霧発生。周囲温度、わずかに低下」
ミナは自分の手を見た。
「私、前にこれをやっていたんですか」
「たぶん、そうです。今日は、何が起きているか見えました」
トルが霧を見ながら言う。
「水が逃げて、熱も逃げた」
「かなり良いまとめです」
澪がそう言うと、トルは得意げに胸を張った。
ミナはまだ自分の手を見ていた。
不安そうではある。
でも、少しだけ嬉しそうでもあった。
澪はミナを鑑定した。
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ミナ
分類:人間/孤児院手伝い
役割:収納実験補助
現在ジョブ:見習い
既得スキル:収納:1
芽生え:収納内減圧:1
状態:空気を薄くする感覚を掴み始めています
注意:長時間維持、大容量処理には不向き
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ミナが固まった。
「収納内……げんあつ?」
「空気を薄くする感じです」
「私、空気を薄くしていたんですか」
トルが身を乗り出す。
「すごいです。空気を減らす人です」
ミナは微妙な顔をした。
「それ、褒めていますか」
ピナが少し考えてから答えた。
「たぶん、褒めています」
「たぶん……」
マルテが記録する。
「ミナ、収納内減圧:1。小規模実験に成功」
ミナはその記録を見て、肩の力を少し抜いた。
澪は、机の上の水皿を指した。
「ミナさんは、まだ大きなことはできません。長い時間も難しいと思います。大きな部屋を冷やせるわけでもありません」
ミナは、こくりと頷く。
「でも、小さな器、少量の水、濡れ布、冷風箱の補助なら使える可能性があります」
「補助……」
「はい。大きな魔法ではなく、実験の補助です」
ミナの顔が、少し安心したものに変わった。
トルは少し残念そうだった。
「大きな部屋を涼しくできないんですか」
「今はできません」
「今は」
「今は、です」
マルテが記録板に「今は」と書いた。
澪は見なかったことにした。
澪は、机の上に霧の出た水皿、濡れ布、冷たい板、記録紙を並べ直した。
「では、三人の役割も確認します」
ミラはすぐに姿勢を正した。
澪が鑑定する。
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ミラ・セイル
分類:人間/商人
役割:記録補助/状態確認
現在ジョブ:商人
既得スキル:鑑定:2
既得スキル:収納:1
既得スキル:雷:8
成長:湿度記録:1
注意:温度、湿度、気圧の変化記録に向きます
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ミラは表示を読んで、ゆっくりと紙を見た。
「水だけではなく、空気にも状態があるんですね」
「はい。見えないから、記録が大事です」
「温度、湿度、気圧……見えないものを、書くんですね」
「そうです」
ミラは紙の上に、三つの欄を作った。
温度。
湿度。
気圧。
細い線で丁寧に分ける。
次に、ピナを鑑定した。
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ピナ・ロッテ
分類:人間/商人
役割:容器管理/布管理
現在ジョブ:商人
既得スキル:鑑定:1
既得スキル:収納:2
既得スキル:雷:8
成長:密閉確認:1
注意:蓋、布、容器の湿り具合確認に向きます
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ピナは、水皿の蓋と、濡れ布と、冷たい板を順番に見た。
「空気を扱うには、閉じ方も大事なんですね」
「はい。すき間があると、変わります」
「布も、乾いているか湿っているかで違います」
「それも大事です」
ピナは濡れ布を持ち上げ、端を軽く絞らずに触って確かめた。
「濡れすぎると垂れます。乾きすぎると、涼しくならない気がします」
「その感覚は、かなり使えます」
最後に、トルを鑑定した。
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トル・バッカ
分類:人間/商人
役割:実地確認/流れ確認
現在ジョブ:商人
既得スキル:鑑定:1
既得スキル:収納:1
既得スキル:雷:8
成長:風読み:1
注意:霧、冷気、熱気の動きに気づきやすい
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トルは霧の残りへ手をかざした。
少し下の方へ流れている冷たい空気に気づいたらしい。
「冷たいの、下へ行きます」
「冷たい空気は下がりやすいです」
「空気も走ったり、落ちたりするんですね」
「かなり良いです」
マルテが記録する。
「空気は走る、落ちる。表現は粗いが理解として有効」
澪はまた少し負けた気分になった。
科学的には雑だ。
でも、子どもたちの中では確実につながっている。
見えないものを、見えるものに変えている。
それでいい。
ミナは、三人のやり取りを見ながら、水皿をそっと覗き込んでいた。
「私のも、記録した方がいいですか」
ミラが頷く。
「した方がいいです。次に同じことをする時、分かります」
ミナは小さく笑った。
「私、実験される側みたいです」
トルが明るく言う。
「実験する側です」
「そうなんですか」
「空気を減らす人ですから」
ミナは、やっぱり微妙な顔をした。
ピナが横から補足する。
「たぶん、褒めています」
授業が終わる頃には、机の上はまた別の種類の混乱になっていた。
注文票の横に、霧を出した水皿がある。
濡れ布がある。
冷えた板がある。
ミラの紙には、温度、湿度、気圧の欄が並んでいる。
ピナが濡れ布を持ち、軽く揺らした。
「風に当てると、少し涼しいです」
トルは手を低い位置へかざしていた。
「冷たい空気、下へ来ます」
ミナは少し疲れた顔をしていたが、どこか嬉しそうでもあった。自分が以前やってしまったよく分からない現象に、名前と役割がついたからかもしれない。
澪は大きな紙を一枚広げた。
そこへ、今日の内容をまとめていく。
水が逃げる。
熱も連れていく。
空気が動く。
湿度が変わる。
気圧が下がると逃げやすい。
冷えると霧や雲になる。
大きくなると雨や嵐につながる。
本文の中の紙には、箇条書きのように線が並んでいる。ミラはその横に数字を入れようとして、まだ数字までは出せないと分かり、空欄を残した。ピナは「布」「蓋」「器」と小さく書き足した。トルは「風は走る」と書こうとして、マルテに見られた。
「表現は粗いが理解として有効です」
「書いていいんですか」
「横に正式な言い方も書きます」
トルは満足そうに「風は走る」と書き、ミラがその横に「空気が動く」と書いた。
澪はその紙を見ながら、内心でつなげていく。
冷風箱。
屋台の霧。
菌床の湿度。
農場の乾燥対策。
天気を見る目。
全部がつながってきた。
ただの授業ではなくなっている。
押入商会侯爵領事業所の机は、注文票を置くための場所だった。それが、理科室になり、今は天気の教室になりかけている。
マルテが最後に記録した。
「空気の授業、成果あり。ミナ、収納内減圧成功。霧発生。涼感あり」
トルが手を上げる。
「次は嵐を作りますか」
「作りません」
「見ますか」
「動画で見ます」
ミナが小さく笑った。
ピナは濡れ布を干し直し、ミラは紙を乾いた場所へ避けた。トルはまだ少しだけ霧の残る水皿を覗き込んでいる。
澪は手帳を開き、今日の最後に書く。
水の次は空気。冷える理由と、霧と、天気がつながった。
押入商会侯爵領事業所の机の上には、注文票の横に、霧の残った水皿と、少し冷えた布と、温度・湿度・気圧を書いた紙が並んでいた。水の次に空気を学んだ机は、小さな理科室から、さらに小さな天気の教室へ変わり始めていた。