古い採石場跡は、朝の光を受けて、前よりもさらに採石場ではなくなっていた。
澪は入口のところで足を止めた。
昨日、真壁が「作業環境を整えただけだ」と言い張った場所である。
入口の草は短く刈られ、足元の石は水で洗われ、白い石粉は道の脇へ寄せられていた。壁際の水路には細い水が流れ、くぼみには澄んだ溜まり水がある。黒砂、石粉、泥、残渣はそれぞれ別の場所に分けられ、大きな平石はどう見ても作業台だった。
張り出した石壁の下には、試料置き場がある。
石段のように整えられた場所は、座るのにちょうどよさそうだった。
澪は、じっとそこを見た。
「やっぱり、ここ住めますよね」
「住むための場所ではない」
真壁久忠は、黒い重砂の小瓶と淡い鉱石片の小瓶を作業台の上に置いた。
「雨はしのげますよね」
「試料を濡らさぬためだ」
「座れますよね」
「判断力は疲労で落ちる。座る場所は必要だ」
「水もありますよね」
「洗浄と前処理に必要だ」
「住めますよね」
「作業場だ」
澪は小さく息を吐いた。
この人は、言い換えれば勝てると思っている。
たぶん勝っている。
少なくとも本人の中では。
真壁は作業台の上に、黒い重砂を少量、淡色鉱石片を少量、そして昨日分けておいた白い石粉と赤茶けた残渣を並べた。
配置がきれいだった。
戦場の地図を見るような手つきで、真壁はそれぞれの小瓶を少しずつ動かす。
「今日は、戻す」
低い声だった。
澪は背筋を伸ばした。
「石の中の金属を、金属へ戻す、でしたね」
「そうだ」
真壁は、黒い重砂の瓶を指先で軽く叩いた。
かすかな音がした。
ただの砂の音ではない。
重い粒が、硝子の内側を鈍く叩く音だった。
澪は深呼吸した。
採石場の空気は冷たい。
でも、自分の手のひらは少し汗ばんでいた。
この人は本当にやるつもりだ。
現代でも面倒そうなことを、異世界の採石場で、収納の中で。
しかも、できそうな顔をしている。
「まず、前提を合わせる」
真壁は作業台の端に置いた記録板を引き寄せた。
「現代では、鉱石を直接溶かしてチタンを取り出すわけではない」
「違うんですか」
澪は思わず聞き返した。
鉄なら、鉄鉱石を溶かす。
銅なら銅鉱石を溶かす。
そういう雑な理解しかない。
真壁は淡色の石片を手に取り、朝の光にかざした。
「一度、別の形に変える。不純物を分ける。金属へ戻す。最後に余計なものを抜く。そこまでして、ようやく素材になる」
澪は固まった。
「それ、現代の工場でやるやつですよね」
「そうだ。普通なら、こんな採石場跡でやる話ではない」
「じゃあ無理では」
「普通なら無理だ」
真壁は、そこで少しだけ口元を緩めた。
「だが、収納九は普通ではない」
「収納がまた荷袋から離れていく……」
「荷袋だと思うから間違える」
真壁は記録板に短く線を引いた。
「酸素を外す。不純物を分ける。金属分を残す。余計なものを抜く。必要なのは名前ではなく、目的だ」
澪はその線を見た。
まるで工程表ではない。
戦闘計画でもない。
けれど、真壁の中ではもう、道筋になっているのだろう。
「それを、収納の中で?」
「小試料だけならな」
「小試料だけ、で済む話ですか」
「済ませる。済ませられなければ、今日は失敗だ」
失敗、と真壁は普通に言った。
その言い方が、むしろ怖かった。
真壁にとって失敗は、止まる理由ではない。
次に何を変えるかを知る手段である。
それを澪は、もう何度も見ていた。
真壁は、黒い重砂を米粒にも満たない量だけ取り分けた。
指先に付くほどの量。
これで何かが分かるのかと思うほど少ない。
真壁はそれを小さな浅皿に置き、目を細めた。
澪には、何も起きていないように見えた。
火はない。
煙もない。
光もない。
熱もない。
ただ、真壁の表情が少しだけ硬くなった。
いつもの余裕のある顔ではない。
視線が一点に止まり、呼吸がわずかに浅くなる。
収納の中で、何かをしている。
外には出さない。
見せない。
漏らさない。
澪は黙っていた。
邪魔をしてはいけない気がした。
しばらくして、真壁は浅皿の上へ視線を落とした。
そこには、灰色の粉と、黒く焦げたような残渣が残っていた。
「……え」
澪は思わず身を乗り出した。
真壁はすぐに鑑定をかける。
澪も重ねて見る。
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試行生成物
分類:鉱物処理残渣
状態:灰色粉末/黒色残渣混在
金属光沢:なし
残留:酸素多/鉄分多/微細残渣多
結果:失敗
注意:酸素除去と残渣分離が不完全です
注意:反応可能温度に達していません
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続けて、真壁自身の表示が出た。
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真壁久忠
状態:小試料製錬試行後
疲労度:45% → 53%
試料量:米粒未満
結果:失敗/残渣多
注意:収納内工程場の温度保持が不足しています
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澪は表示を見た。
「八%使って灰ですか」
「灰ではない。温度不足の記録だ」
「言い方」
「言い方で結果は変わらん」
「そこは変わらなくていいです」
真壁は灰色粉末を、細い木片の先で少し動かした。
黒い残渣が混じっている。
金属光沢はない。
澪でも分かる。
これは成功ではない。
だが真壁の顔には、失望がなかった。
むしろ、見つけたという顔だった。
「分離はできている。だが、石がまだ石のままだ」
真壁は灰色粉末を見つめたまま言った。
「つまり?」
「戻るための状態に届いていない」
「それは、熱が足りないということですか」
「そうだ。だが外に炉は作れん」
澪は採石場の奥を見た。
切り立った石壁。
作業台。
水路。
黒砂のくぼみ。
「炉を作るんですか」
「作らん」
即答だった。
澪は少しだけ安心した。
ほんの少しだけ。
「この世界の炉では温度も制御も足りない。大きな炉を作れば目立つ。燃料もいる。人手もいる。秘匿もできん」
真壁は石壁を見上げた。
「外に炉を作れば、ここは秘密工房ではなく工場になる」
「すでに工房には見えます」
「まだ工房だ」
「基準が甘いです」
真壁は答えず、灰色粉末を小瓶に戻した。
そのラベルに、失敗一、と小さく書く。
「失敗を保存するんですか」
「失敗は条件だ。捨てるのは品がない」
「真壁さんの品、たまに怖い方向に働きますね」
真壁は聞き流した。
聞き流し方も品があった。
次に真壁が向かったのは、採石場の水路だった。
澪は後を追う。
水路は前話で真壁が通したものだ。溜まり水から細く流れ、低いくぼみに向かっている。石粉は水路の途中で白く沈み、黒い重砂は別の浅いくぼみに残るようになっていた。
どう見ても前処理装置である。
昨日、澪はここを「住める」と言った。
間違ってはいない。
けれど、それだけではなかった。
真壁は、黒い重砂を少量、水路の上流へ落とした。
水が粒を撫でる。
軽い泥が流れる。
白い石粉が途中で沈む。
赤茶けた微細な粒が別のところに残る。
そして、黒く重い粒だけが浅いくぼみに集まっていく。
真壁はそれを見ながら、収納でごく細かく対象を選ぶ。
白い石粉を落とす。
泥を除く。
軽い残渣を流す。
鉄分寄りの粒を分ける。
チタン酸化物寄りの重い粒を残す。
澪はだんだん黙っていった。
これは、ただの水路ではない。
鑑定と収納の補助装置だ。
真壁は、採石場そのものを、収納に入れる前の作業場へ変えている。
前処理後の粒を浅皿へ取り、真壁が鑑定する。
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濃縮チタン系試料
分類:チタン系濃縮鉱物
状態:前処理済み
混入:鉄分少量/微細残渣少量
酸素結合:強
金属化難度:高
注意:小試料製錬に使用可能
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「採石場、住める場所じゃなくて、前処理場になってたんですか」
「両方だ」
「両方って言いましたね」
「正確には、前処理場だ。住めるのは副次効果だ」
「副次効果が大きすぎます」
澪は水路を見下ろした。
住めるうえに前処理もできる。
前処理できるうえに秘密工房にもなる。
そのうち茶を淹れる場所まで整いそうで怖い。
真壁は、前処理済みの試料をさらに少量だけ浅皿へ置いた。
「二回目だ」
今度も、火は見えない。
光も漏れない。
だが、一回目より真壁の集中が深い。
手は動かない。
視線だけが、浅皿の一点を射抜く。
しばらくして、浅皿の上に、灰色がかった銀色の粒が残った。
粉ではない。
黒い残渣でもない。
ほんのわずかに金属光沢がある。
澪は息を止めた。
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粗チタン金属粒
分類:試作金属粒/チタン系
状態:粗生成物/未成形
純度:中
残留:酸素少量/鉄分少量/微細残渣あり
金属光沢:弱
強度:未評価
用途:研究試料
注意:実用品ではありません
注意:チタン金属化の中間成功例です
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続いて、疲労度が出る。
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真壁久忠
状態:小試料製錬試行後
疲労度:53% → 65%
試料量:米粒未満
結果:中間成功
注意:高精度収納操作による認識負荷が大きい
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「十二%増えて、米粒未満……」
「高いな」
澪は真壁を見た。
「真壁さんが高いって言った」
「商人として言う。まだ採算は合わん」
「ちゃんと商人してる」
「商人だ」
真壁は粗チタン金属粒を見た。
目元に、ほんの少しだけ満足があった。
しかしそれはすぐに消える。
「金属化はした。だが、まだ足りん」
真壁は粒を動かした。
「酸素が残っている。鉄分も微量にある。粒が粗い。形を保てない。純チタンとは言えん」
「スポンジチタンとかになるんじゃないんですか」
澪は、現代製錬の説明を思い出しながら言った。
真壁は首を横に振った。
「現代工程なら、そういう形になる。だが、これは違う。不要成分を収納で抜き、金属分だけを残している。空隙を作る必要はない」
「現代工程を飛ばしてませんか」
「飛ばしているのではない。別の道を通っている」
「言い方で安全になりません」
真壁はもう一度、粗チタン金属粒を収納内工程場へ戻した。
ほんのわずかな時間。
その後、取り出された粒は、形を崩していた。
細かな灰色の粉へ戻り、銀色の輝きは弱くなっている。
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粗チタン金属粒
分類:試作金属粒/チタン系
状態:形状崩れ/粉状化
純度:中
残留:酸素少量/鉄分少量
結果:成形失敗
注意:温度保持不足
注意:成形前に金属分が安定していません
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澪は表示を見た。
「……崩れましたね」
「崩れた」
真壁は認めた。
その声に苛立ちはない。
ただ、次の条件を探す声だった。
「分離はできた。酸素もある程度抜けた。鉄分も抜けた。しかし、熱が足りない。場が安定していない。チタン金属分が、塊として戻りきらない」
真壁は、作業台に並ぶ三つの結果を見た。
灰色粉末。
黒い残渣。
粗チタン金属粒。
崩れた灰色の粉。
温度不足。
酸素残留。
形状崩れ。
表示が、線のようにつながっていく。
真壁は黙った。
採石場の奥で、水路の音だけがした。
澪は声をかけなかった。
真壁の目が、もう作業台の上を見ていないことに気づいたからだ。
もっと遠いものを見ている。
ここではない場所。
この世界ではない技術。
彼の前世に沈んでいる、危ない知識。
真壁の内側で、古い記憶がゆっくりと形を取った。
そうだ……あの粒子によるプラズマ化があったな。
ある粒子を、あるフィールド内に張り巡らせる。
粒子の運動量を加速する。
閉じた場に熱を得る。
刃にも炉にもなり得る高温場。
出来るか?
真壁は、収納の奥にごく小さな場を想像した。
外には熱を出さない。
光も漏らさない。
澪君に見せる必要もない。
収納九なら、密閉できる。
場を固定できる。
状態を保てる。
圧力も制御できる。
鑑定九なら、何が残り、何が抜けたか見える。
やはり可能か。
そこで、真壁は別の思考へ移った。
この技術は危険だ。
高温を閉じ込められる。
発電にも使える。
兵器にも転ぶ。
製錬どころではなく、国の形を変える。
この世界にも、澪君の世界にも、まだこの技術はあってはならないな。
真壁はゆっくり息を吐いた。
名前は出さない。
仕組みも語らない。
使うのは、小試料を戻すための「場」という考え方だけだ。
真壁は澪へ顔を向けた。
「澪君に仕組みは教えられないが……ある粒子を、あるフィールド内に張り巡らせる技術がある」
澪の顔が、即座に引きつった。
「その時点で聞いてはいけない気がします」
「その粒子の運動量を上げ、プラズマ化する。閉じた場の中に、数千度の熱を得る」
「やっぱり聞いてはいけないやつですよね」
「発電ではない。兵器でもない。小試料を戻すための工程場だ」
「そう言われると、余計に怖いです」
「怖いと思えるなら、それでいい」
真壁はそれ以上言わなかった。
澪も聞かなかった。
聞いてはいけない。
それは、澪にも分かった。
分かってしまったことが、少し怖かった。
真壁は、前処理済みの濃縮チタン系試料をさらに小さく選んだ。
米粒より小さい。
粉と言ってもいい量。
それを浅皿へ置く。
「始める」
真壁の声が、いつもより低かった。
外には、何も見えない。
光も漏れない。
熱も漏れない。
音もない。
ただ、真壁の集中だけが、明らかに重くなった。
額に汗が浮かぶ。
呼吸が浅くなる。
手は動かない。
けれど視線は、まるで見えない炉の中を覗いているように鋭い。
澪は、鑑定を重ねた。
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収納内高温場
分類:収納内小試料工程場
状態:一時形成
方式:密閉保持/高温場保持/成分分離
熱源:場内粒子高温化
対象:濃縮チタン系試料
運用時間:極短時間
負荷:極高
注意:長時間運用不可
注意:外部へ熱を漏らさない制御が必要です
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澪は表示を見て、目を閉じたくなった。
「収納って、荷物を入れるスキルでしたよね」
「今は、小試料用の工程場だ」
「どんどん遠くへ行ってます」
真壁は返事をしたが、意識の大半は別の場所にあった。
収納の中の、閉じた小領域。
その内側で、濃縮試料が反応可能な状態へ近づいていく。
真壁は鑑定で見る。
チタン分。
酸素。
鉄分。
残渣。
見分ける。
抜く。
残す。
寄せる。
さらに抜く。
金属分だけを、小さな長方形へまとめる。
澪は声をかけそうになった。
真壁の呼吸が、さらに浅くなったからだ。
けれど、言えなかった。
ここで声をかけたら、崩れる。
そう感じた。
真壁の唇がわずかに動いた。
「保持」
たった一言。
けれどその瞬間、見えないところで形が固定されたのだと分かった。
真壁はゆっくり手を開いた。
収納から、小さな銀灰色の塊が現れた。
澪の掌に乗るほど小さい。
だが、砂ではない。
粉ではない。
粗い粒でもない。
明らかに金属塊だった。
澪は手を伸ばしかけ、途中で止めた。
「触っていいですか」
「まだ熱は残していない。だが、慎重に」
澪は小さな金属塊を見つめた。
銀とも違う。
鉄とも違う。
白金とも違う。
軽そうなのに、存在感がある。
鑑定をかける。
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純チタンインゴット
分類:試作金属塊/チタン
状態:小型インゴット
純度:高
残留:酸素微量/鉄分微量/残渣ほぼなし
強度:未評価
用途:研究試料/高機能素材候補
注意:小試料製錬成功例です
注意:量産には疲労度コスト低減が必要です
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澪は言葉を失った。
表示の一行目から、もう重かった。
純チタンインゴット。
黒い砂から。
誰も見向きしなかった採石場から。
普通なら現代の工場でやる工程を経て得るはずの金属が。
今、澪の目の前にある。
真壁は小さな塊を見た。
「戻ったな」
澪はようやく声を出した。
「戻ったどころか、固まりましたね」
「純チタンインゴットだ」
「言葉が重いです」
澪は、もう一度表示を見た。
純度、高。
残渣ほぼなし。
見間違いではない。
成功している。
成功してしまっている。
その瞬間、澪は別のことに気づいた。
「真壁さん」
「何だ」
「疲労度」
澪は真壁を鑑定した。
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真壁久忠
分類:人間/異界漂着者
現在ジョブ:商人
状態:純チタンインゴット生成後/極度集中後
疲労度:65% → 86%
累積疲労増加:45% → 86%
既得スキル:鑑定:9
既得スキル:収納:9
成長:収納内高温場:1
成長:高温場保持:1
成長:酸素分離:1
成長:金属成形保持:1
成長:小試料製錬:1
注意:疲労度80%超。継続作業不可
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「疲労度、八十六。直前から二十一%増えてます」
「高いな」
「高いな、じゃないです。最初からだと四十一%増えてます」
「商人として言う。まだ採算は合わん」
「命の採算も見てください」
「それも含めて高い」
真壁は椅子代わりの石段へ、ゆっくり腰を下ろした。
座り方は乱れない。
だが、額の汗は隠せない。
澪は水筒を出して渡した。
真壁は素直に受け取る。
そこは素直だった。
「成功だ。だが、商売にはまだ遠い」
「純チタンインゴットなのに?」
「一個作るたびに疲労度を二割以上削る素材は、商材ではなく見本だ。累積で見れば四割を超えている」
澪は小さなインゴットを見た。
見本。
言われてみれば、そうだ。
これは宝ではない。
商品ではない。
武器でもない。
証明だ。
黒い砂から、純チタンが戻るという証明。
「真壁さんがちゃんと止まってる……」
「止まってはいない。次の課題を見ている」
「やっぱり止まってない」
真壁は、水を一口飲んだ。
「採石場でできることは、採石場で済ませる。収納内高温場は最後だけ使う」
「秘密工房の意味が増えましたね」
「工房ではない。前処理場兼小試料工程場だ」
「名称が長くなるほど危ない気がします」
真壁は反論しなかった。
反論しない時は、だいたい澪の言葉が当たっている。
澪は真壁の表示をもう一度見た。
疲労度八十六。
これは、もう続ける数字ではない。
「今日は終わりです」
「もう一度やれば条件が」
「八十六」
真壁は黙った。
少しだけ間があった。
「……よい指摘だ」
「前回も聞きました」
「よい指摘は何度でもよい」
澪は、小型の純チタンインゴットを小さな容器に入れた。
黒い重砂の瓶。
淡色鉱石片の瓶。
失敗一の灰色粉末。
粗チタン金属粒。
そして、小型純チタンインゴット。
並べると、失敗から成功までの道が目に見えた。
灰。
残渣。
粗い粒。
銀灰色の小さな塊。
それはまだ商品ではない。
武器でもない。
宝でもない。
だが、誰も見向きしなかった黒い砂から、純チタンが戻った。
澪は容器の蓋を閉めた。
その音が、採石場の石壁に小さく響いた。
黒い砂は、金属に戻った。
しかも、澪の掌に乗る小さな銀灰色の塊になっていた。
純チタンインゴット。
その表示を見た瞬間、澪は言葉を失った。
押入商会は、ついに石の中の金属を戻してしまった。
問題は、それをやった真壁久忠の疲労度が、ほとんど赤信号だったことである。