蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
本作は近未来を舞台としたSFロボット作品です。作者は某有名作品から多大な影響を受けており、その妄想をもとに描かれています。また設定を生かしきれていない部分や素人ゆえの矛盾も存在します。以上をご理解のうえ、お楽しみいただけましたら幸いです。
西暦2500年初頭――地球は、かつてない危機の只中にあった。
化石燃料は完全に枯渇し、残された資源を巡って各国は争いを激化させ、ついには第三次世界大戦が勃発する。
戦火が広がる中、人類はさらなる禁忌に手を伸ばした。
核融合妨害装置の開発と実戦投入――それは核ミサイルのみならず、あらゆる原子力技術を無力化するという代償を伴うものだった。エネルギー基盤を自ら断ち切った世界は急速に疲弊し、戦争は終わることなく泥沼化。人口は激減し、人類はゆっくりと衰退の道を歩み始める。
やがて年月が流れ、原子力に依存した技術体系は完全に失われた。
文明は後退し、再生の兆しすら見えない絶望の中――ひとつの転機が訪れる。
現れたのは、日本人の天才科学者、関谷リョウイチ。
彼は未知のエネルギー「次元粒子」を発見し、その生成に成功する。それは光の粒のような姿を持ち、無尽蔵のエネルギー源となり得るものだった。
リョウイチはこのエネルギーを生み出す装置を「次元リアクター」と名付ける。
そして世界初となる大型次元リアクタープラントが日本に建設されると、状況は一変する。かつてなら奪い合いの対象となったであろうその技術も、もはや各国に奪取する軍事力は残されていなかった。
関谷リョウイチは自らの意思で、次元リアクターから生み出されるエネルギーを無償で世界に提供する。
結果として日本は事実上の主導権を握ることになるが、彼は独占を良しとせず、日本のほかにヨーロッパ、アメリカ、中国アジア圏の三地域にも同様のプラント建設を主導する。
荒廃した世界に、再び光が灯る。
人類は復興への道を歩み始め、やがて国境の壁を越えて一つにまとまる。長きにわたる戦争は終結し、新たな国際連合が結成されることで、ついに世界は休戦を迎えるのだった。
次元粒子という新たなエネルギーの誕生は、人類に確かな再生の光をもたらした。
次元リアクターの普及に伴い、荒廃していた地球は急速に復興を遂げていく。エネルギー問題から解放された人類は、再び都市を築き、文明を取り戻し始めた。
やがて、各地の次元リアクタープラントを中心に新たな国家圏が形成され、世界は四つの勢力――日本、EU、USA、中華圏へと完全に再編される。
その中でも、次元リアクター技術の中枢を握る日本は明確に最上位の立場にあり、他の三勢力はその恩恵を受ける形で成り立っていた。
しかし、次元リアクターはあまりにも高度な技術――いわば“オーバーテクノロジー”であった。
各国は独自に解析と研究を進めるものの、その原理は極めて複雑で、未だ核心に迫ることすら叶わない。人類はその恩恵を享受しながらも、本質を理解できない力に依存していた。
それでも、次元エネルギーが世界に行き渡る頃には、人類は完全に豊かさを取り戻していた。
かつての荒廃は過去のものとなり、新たな世代の子供たちは「貧困」という概念すら知らずに育つほどに、社会は急速な回復を遂げる。
その時代においても、中心にいたのは関谷リョウイチ――若くして世界を変えた天才科学者である。
彼を中心に、次元粒子研究機関「次元リアクター管理局」が設立される。そこは次元粒子に関するあらゆる権限を掌握する。事実上の日本の代表であり世界最高権力機関だった。
リョウイチは副所長としてその中枢を担い、組織を率いるのは所長・朝倉ゲンゾウ。
かつてリョウイチの上司であった老科学者が頂点に立ち、若き天才と共に人類の未来を導いていく。
繁栄の時代――だがその裏で、人類はまだ気づいていなかった。
自らの手にしたこの力の本質と、その先に待つ新たな運命に。
復興が軌道に乗り、世界が安定を取り戻しつつあったその時代――
関谷リョウイチの私生活もまた、大きな転機を迎えていた。
彼はかつての上司であり、次元リアクター管理局所長でもある朝倉ゲンゾウの娘、朝倉ナツキと結婚する。
同じ研究者として互いを理解し合う二人は、公私ともに支え合う存在となり、次元技術の発展にさらなる加速をもたらしていく。
世界は平和を取り戻し、エネルギー問題も解決された。
誰もが、この繁栄が続くものと信じて疑わなかった――。
しかし、その均衡は突如として破られる。
中華圏に存在する次元粒子貯蔵施設が、正体不明の存在によって襲撃されたのだ。
厳重な警備体制を誇る施設は壊滅的な被害を受け、各国は即座に合同で調査を開始する。
やがて明らかになった襲撃者の正体は、常識を覆すものだった。
それは人でも兵器でもない――
異形。
金属のような光沢を持つ外殻。
生物でありながら機械を思わせる質感。
そして圧倒的な巨体。
一見すると巨大な昆虫にも見える。
しかし生物的ではなく明らかな金属質。
既存のいかなる分類にも当てはまらない、“化け物”としか形容しようのない存在だった。
人類がようやく手にした平和の時代に、突如として現れた未知の脅威。
それは、次元粒子という奇跡のエネルギーがもたらした恩恵の裏側に潜む、新たな災厄の始まりを告げていた。
正体不明の異形に対し、次元リアクター管理局は直ちに調査を開始する。
解析の末に導き出された結論は、人類の想像を遥かに超えるものだった――それは地球外、すなわち宇宙から飛来した存在であるという事実。
さらに、その行動原理も明らかになる。
異形は次元粒子を捕食し、それを糧として成長する生命体だったのだ。
管理局はこの存在を「金属性エネルギー捕食体――ギアノイド」と命名。
事態を重く見た国際連合は、指揮のもとで残存する全軍事力――国際連合軍を投入し迎撃にあたる。
しかし、その結果はあまりにも無残だった。
従来兵器はほとんど効果を示さず、戦力は一方的に削られていく。人類は初めて、自らの手に負えない“敵”と対峙している現実を突きつけられる。
やがて世界の視線は、ある一人の人物へと向けられる。
次元粒子の発見者、関谷リョウイチ――。
ギアノイドの行動が次元粒子を狙っているとしか思えない以上、その研究成果こそが災厄を招いたのではないかという非難が、世界中から浴びせられることとなる。
だがリョウイチは、弁明や責任回避に時間を割くことを選ばなかった。
彼が下した決断はただ一つ――人類を守るため、次元粒子の軍事転用に踏み切ること。
急造されたのは、既存兵器に次元粒子を組み込んだ試作兵器群。
本来その使用を想定していない構造ゆえに性能は限定的だったが、それでもなお、ギアノイドに対して初めて“有効打”を与えることに成功する。
しかし同時に、リョウイチは悟る。
従来兵器の延長では、いずれ人類は敗北する――。
必要なのは、次元粒子の使用を前提とした、全く新しい戦闘兵器。
こうして彼は、新たな開発計画を始動させる。
次元粒子の使用を前提とした、二足歩行型の汎用戦闘機――
その名は、「バスターアームズ」。
それは、人類が未知の脅威に対抗するために踏み出した、最後にして最大の賭けであった。
未知の脅威に対抗し得る兵器の開発――その功績により、関谷リョウイチは再び世界から英雄として称えられる存在となった。
だが、彼にその声へ応える余裕はなかった。人類の命運を賭けた戦いは、まだ始まったばかりだったからだ。
リョウイチはすべてを投げ打つかのように、新兵器の開発「バスターアームズ計画」の完成へと没頭する。
次元粒子の特性を最大限に引き出すための最適解――それは、人型という柔軟な構造を持つ二足歩行兵器だった。
常識では到底あり得ない速度で理論は組み上げられていく。
その姿に、周囲の研究者たちは戦慄する。まるで“神が降りてきたかのようだ”と――。
そしてほどなくして、世界初のバスターアームズ試作機が完成する。
コードネーム「フリューゲル」。
それは次元粒子を核とした、人類初の対抗兵器として見事に稼働を果たした。
この成功を受け、国際連合は即座に量産化を決定。
フリューゲルを基にした量産型バスターアームズの開発が世界規模で開始される。同時に、専属パイロットの育成も急ピッチで進められていった。
各国が最優先で資源と技術を投入した結果、量産機は驚異的なスピードで実戦配備に至る。
そしてついに、人類は反撃の時を迎える。
再び襲来したギアノイド――群体を形成し、小型から大型まで多様な個体が連なる。その脅威に対し、バスターアームズが初めて戦場へ投入される。
投入戦力はその時点ではわずか23機。だが、その結果は世界の常識を覆すものだった。
中規模の群体を相手に、圧倒的な戦果を記録。
敵を殲滅し、なおかつ全機が帰還するという、奇跡的とも言える勝利を成し遂げたのだ。
それは、人類が初めて“対抗できる力”を手にした瞬間だった。
そして同時に、バスターアームズという新たな戦争の象徴が、この世界に刻まれた瞬間でもあった。
量産型バスターアームズの実戦配備により、人類はついにギアノイドへ対抗する力を手にした。
国際連合はこの軍事的優位をもって、今後も人類は安定した繁栄を維持できると結論づける。
だが、その見通しにただ一人、異を唱えないまでも確信を抱いていた人物がいた。
次元リアクターの真実――ブラックボックスの正体を知る関谷リョウイチである。
彼は理解していた。
この戦いの本質は、単なる戦力の増強では覆せないことを。
そして、唯一の例外こそが試作機フリューゲル――その運用こそが、人類の未来を左右する鍵であると。
リョウイチは一つの決断を下す。
それはあまりにも異端で、そして危険な選択だった。
当時、妻である関谷(旧姓:朝倉)ナツキは妊娠初期にあった。
胎児の神経系が形成されていくその段階は、成長過程を詳細に把握することが可能な時期でもある。
リョウイチは、自らの子の神経構造を完全に解析・把握することで、フリューゲルを単なる操縦ではなく、“神経接続”によって制御するという構想に至る。
それは、人と機体を一体化させる禁断の領域だった。
彼はブラックボックスの真実を伏せたまま、フリューゲル安定稼働の必要性を理由に、妻ナツキと義父朝倉ゲンゾウを説得する。
当然ながら、その提案は強い拒絶に近い反応を招いた。倫理的問題、そして何より、自らの子供を実験対象とすることへの葛藤――。
しかし最終的に二人は、苦渋の決断を下す。
それは次世代へ未来を託すため、そして世界を守る“最後の切り札”としてフリューゲルを成立させるためだった。
この計画は、三人だけの極秘事項として封印される。
やがて生まれるその子供の名は――ユーヤ。
後にフリューゲルのパイロットとなり、人類の運命を背負う存在。
その誕生は、希望か、それとも――新たな運命の始まりか
フリューゲルの“鍵”として生まれた少年――ユーヤ。
だが、その出自とは裏腹に、彼はごく普通の子供として育てられていた。
幼い頃から幼稚園に通い、やがて学校へと進む。
友人と笑い、時にぶつかり合いながら日常を過ごす姿は、どこにでもいる一人の少年そのものだった。
ただ一つ、他の子供と違っていたのは――
父・関谷リョウイチに連れられ、幾度となく次元リアクター管理局を訪れていたこと。
そして、定期的に受けさせられる精密な健康診断の存在。
その意味を、彼自身が知ることはない。
すべては静かに、そして確実に進められていた。
性格はややクールで落ち着いているが、内には強い正義感を秘めている。
身体能力も同年代より優れているものの、決して突出した存在ではない。
物語の始まりにおいて、ユーヤはまだ“特別”ではない。
ただ少しだけ普通より優れた、ごくありふれた少年に過ぎなかった。
――その身に、人類の未来を左右する運命が宿っていることなど、知らぬままに。
人類を救うために選んだ道――それが正しいのか。
その問いは、関谷リョウイチ自身を静かに蝕んでいた。
次元粒子という希望をもたらした彼は、同時に二つの“禁忌”を背負っていた。
一つは、自らの子を運命に組み込む計画。
そしてもう一つは、人の理を越えた存在――ギアノイドへ踏み込む研究。
それが人類のためであると理解していても、倫理の境界を踏み越えているという自覚は消えない。
その重圧は確実に彼の心身を削り、やがて目に見える形となって現れていく。
かつての天才科学者の面影は薄れ、リョウイチは次第にやつれていった。
周囲の人間たちもまた、それぞれの葛藤を抱えていた。
真実を知る者、知らぬまま違和感を覚える者――誰もが、この計画の“歪さ”に気づきながらも、止めることはできなかった。
そんな中でリョウイチは、さらに一つの布石を打つ。
次元リアクターおよび次元粒子に関する危機が発生した場合、次元リアクター管理局は国際連合の承認を待たず、独自に戦闘行為を行える権限を付与するよう働きかけたのだ。
本来、兵器開発は行っていても、管理局自体は軍事組織ではない。
そのため国際連合内部から疑問の声も上がったが、最終的には承認される。
それは表向きの防衛体制強化ではなく――
来るべき“切り札”のための準備だった。
フリューゲルは、あくまで次元リアクター管理局の研究対象として扱われる。
その運用権限はすべて管理局に帰属し、外部の干渉を受けない。
すべては、いずれ訪れる決定的な戦いにおいて、フリューゲルの足を引っ張らせないために。
救済か、背信か――。
関谷リョウイチの選択は、静かに、しかし確実に人類の未来を形作っていく。