蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
――長い道のり、その再会の直後
「……やっと……会えた」
ユーヤの声は震えていた。
目の前にいる。
本当に、
エリスが。
ずっと探し続けた少女が、
そこに立っている。
手を伸ばせば届く距離。
ユーヤはゆっくりと踏み出す。
一歩。
また一歩。
胸が苦しい。
嬉しくて、
苦しくて、
どうしようもなく愛おしい。
ずっと、
ずっと会いたかった。
抱きしめたかった。
その瞬間、
エリスの身体が揺れた。
「……っ……!」
苦しそうに表情が歪む。
身体の輪郭が乱れ、ノイズのように崩れかける。
「エリス!?」
ユーヤが駆け寄ろうとする。
だが、
数秒後、
その揺らぎは静まった。
何事もなかったかのように。
静寂。
そして、
エリスはゆっくりと口を開いた。
「……来ないで」
その声は、
はっきりしていた。
迷いなく、
拒絶だった。
「……え……?」
ユーヤの動きが止まる。
エリスは視線を逸らしたまま言う。
「どうして来たの?」
冷たい。
あまりにも冷たい声。
「どうしてって……」
ユーヤは息を詰まらせる。
「それは――」
エリスが遮った。
「……さっき、分かったの」
ゆっくりと。
「量子ネットワークに正式に“再接続”されたみたい」
その瞳が微かに揺れる。
「全部……流れ込んできた」
「ギアノイドのことも」
「人類のことも」
そして、
「……ユーヤのことも」
ユーヤは言葉を失う。
エリスは小さく笑った。
でも、
それはあまりにも空虚だった。
「でも……大丈夫」
自分に言い聞かせるように。
「私は…そういう風に“作られている”から」
その言葉が、
胸に刺さる。
まるで、
自分自身を人間じゃないと言い聞かせているようだった。
「……関係ない!」
ユーヤが反射的に叫ぶ。
「そんなの関係ないだろ!」
エリスがびくりと肩を震わせる。
「帰ろう!」
ユーヤは必死だった。
「一緒に!」
だが、
エリスは静かに問い返す。
「……どこに?」
「……っ」
言葉が止まる。
「どこに帰るっていうの?」
エリスは自分の身体を見る。
現実の肉体が再現された状態を。
「こんな体で」
白銀の金属質の身体。
人ではない存在。
「ギアノイドになっちゃって」
震える声。
「帰る場所なんて……」
ゆっくりと首を振る。
「ないよ…」
ユーヤは何も言えない。
エリスは自分の手を見つめる。
その指先は。
冷たく光っていた。
「……冷たいの」
小さな声。
「何も感じない」
「何もできない」
「人として……生きられない」
その言葉は。
ユーヤの心を削っていく。
「……それなのに」
エリスの声が震える。
「こんな冷たい身体で……」
視線を逸らす。
「ユーヤに……」
唇が震える。
「抱きしめてほしいなんて……」
苦しそうに。
「言えないよ……!」
崩れる。
声が。
心が。
だが、
涙は流れない。
もう涙を流す資格すらないと身体が告げているようだった。
ユーヤは立ち尽くしていた。
何も言えない。
否定できない。
全部、
事実だから。
エリスは俯いたまま呟く。
「……こんなことなら」
消えそうな声。
「消えてしまえばよかった」
「やめろ……」
ユーヤの声が震える。
だが、エリスは止まらない。
一歩、
後ろへ下がる。
「もう……会わなくてよかった」
「エリス……!」
そして、
決定的な言葉を零した。
「生まれてこなければよかった……!」
ユーヤの膝が崩れそうになる。
重い。
あまりにも、
彼女の苦しみが。
悲しみが。
全部、
真正面から叩きつけられる。
それでも、
ユーヤは踏みとどまった。
歯を食いしばる。
拳を握る。
そして、
小さく呟く。
「……違う」
震える声。
でも、
確かに。
「……絶対に違う」