蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
――そう、すべて現実。
変えようがない事実。
「…そうだな…全部……事実だ」
ユーヤは否定しなかった。
逃げもしない。
エリスの苦しみから。
その身体から。
現実から。
「変えようがない」
静かな声。
エリスは俯いたまま動かない。
ユーヤは続ける。
「それでも……」
一度、息を吐く。
迷いを捨てるように。
「それでも……」
そして、
本音を口にした。
「……俺は…」
ただ、
それだけを伝えたかった。
「正直さ」
エリスが微かに顔を上げる。
「体のことなんて……どうでもいいんだ…」
その瞬間。
エリスの目が見開かれた。
「……え……」
ユーヤはゆっくりと近づく。
「冷たいんだろ?」
優しい声だった。
「なら――」
一歩。
また一歩。
「俺が温めてやる」
エリスの呼吸が止まる。
「帰る場所がない?」
ユーヤは即答した。
「あるだろ」
迷いなく。
「俺がエリスの帰る場所だ」
エリスは目を逸らした。
見れない。
そんな真っ直ぐな言葉を。
ユーヤはただ、優しく見つめる。
「エリス」
その名を呼ぶ。
「好きだよ」
エリスが震える。
「……やめて」
ユーヤは止まらない。
「大好きだよ」
「やめてよ……」
そして。
「愛してる」
エリスが叫んだ。
「やめて!!」
壊れそうな声だった。
だが、
ユーヤは迷わない。
一気に踏み込む。
そして、
抱き締めた。
強く、
逃がさないように。
「やめてよ!!」
エリスが暴れる。
拒む。
押し返そうとする。
でも、
ユーヤは離さない。
「……離さない」
震える声。
「もう……二度と」
その言葉に、
エリスの動きが止まった。
静寂。
腕の中で、
小さく震えている。
ユーヤは静かに呟く。
「……ごめんな」
エリスの肩が揺れる。
「ずっと一人にして」
胸が痛む。
「何度も泣かせて」
エリスは小さく答えた。
「……うん」
涙混じりの声。
「……さみしかったろ」
「……うん」
ユーヤはそっと目を閉じる。
そして、
「……帰ろう」
エリスがゆっくり顔を上げる。
「……一緒に……いてくれるの?」
「ああ」
即答だった。
「……ずっと?」
「ああ」
「……人じゃないのに?」
ユーヤは笑った。
「どうでもいい」
そして、
真っ直ぐ言い切る。
「俺が好きなのは」
「一緒にいたいのは」
一切迷わず。
「エリスだけだ」
その瞬間。
エリスの感情が崩壊した。
涙が溢れる。
止まらない。
今まで堪えていた全てが決壊する。
そして、
今度はエリスの方からユーヤを抱き締めた。
強く。
失わないように。
「……ユーヤ」
「ん?」
「……好き」
「うん」
「……大好き」
「うん」
エリスの声が震える。
「……愛してる」
ユーヤは静かに答えた。
「……うん」
その瞬間。
「……っ……!」
エリスが泣き崩れた。
腕の中で。
子供みたいに。
声を上げて。
ユーヤは優しく抱き締め続ける。
ようやく。
本当に。
取り戻した。
――帰還の時が近づく。
量子ネットワークが揺らぐ。
光が収束していく。
空間が歪み。
一つの“扉”が形成される。
遠くからイブの声が響いた。
「出口を形成しました」
ユーヤは小さく笑う。
「……サンキュ」
エリスも少しだけ笑った。
昔みたいに。
柔らかく。
ユーヤは手を差し出す。
エリスがその手を見る。
一瞬だけ迷い。
そして、
握った。
温度はない。
でも、
確かに繋がっていた。
ユーヤはその手を強く握り返す。
もう離さない。
「帰ろう」
エリスは涙を拭いながら頷く。
「……うん」
二人は並んで。
光の扉へ歩き出した。