蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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3章⑲答え

――沈黙が満ちる。

静かな空間。

誰も口を開かない。

ユーヤは考えていた。

ひたすら。

答えを探して。

「……次元リアクターブラントを…」

ぽつりと呟く。

「一つ差し出す……?」

だが、

次の瞬間には首を振っていた。

「……ダメだ」

即答だった。

エリスが静かに彼を見る。

「どうして?」

ユーヤは苦い顔をする。

「どの国のプラントを差し出すかで、今度は人類同士で争う」

拳を握る。

「内戦になる」

重い声だった。

歴史が証明している。

資源。

エネルギー。

それを巡って人類は何度も殺し合ってきた。

ギアノイドとの戦争が終わった瞬間。

今度は人間同士で地獄が始まる。

「……最悪だな」

ユーヤが吐き捨てる。

別案を考える。

「他のエネルギーを探す……?」

しかし、

自分で否定した。

「時間が足りない」

「そもそも存在する保証もない」

沈黙。

答えが出ない。

アダムたちも同じだった。

彼らも理解している。

人類は滅ぼしたくはない。

だが、

次元粒子は必要。

どちらも譲れない。

空気が沈む。

重苦しい沈黙。

誰も何も言えなかった。

 

その時、

「……ねえ、ユーヤ」

エリスが小さく口を開く。

「……ん?」

「分けてあげたらいいんじゃないの?」

時間が止まった。

「……は?」

ユーヤが間抜けな声を漏らす。

エリスは首を傾げた。

「次元リアクターって、すごいエネルギー作ってるんでしょ?」

「少し分けてあげればいいんじゃない?」

あまりにも自然な言葉。

だが、

その瞬間、

ユーヤの思考が一気に回り始める。

全プラントの生成量。

人類消費量。

備蓄。

輸送効率。

供給ライン。

計算。

試算。

再計算。

「……確かに」

ユーヤが呟く。

「余剰はある」

「供給自体は可能だ」

だが、

すぐに問題点へ辿り着く。

「でも……」

ユーヤが眉を寄せる。

「そんなに大量じゃない」

「人類の余りだぞ?」

「それじゃ量が全然足りないんじゃ――」

 

『問題ありません』

 

即答だった。

イブ。

「……は?」

ユーヤが唖然とする。

イブは平然と言葉を続ける。

『それで構いません』

「いや待て」

ユーヤが困惑する。

「本当に大した量じゃないぞ?」

「期待してるほどじゃ――」

『問題ありません』

再び即答。

イブが呼びかける。

アダムが静かに目を閉じる。

『アダム、他個体の意見は?』

「……ふむ」

量子ネットワーク上で高速の情報交換が走る。

数秒。

そして、

「結論」

アダムが告げた。

「少量でも次元粒子を確保できる」

「人類側の出方次第では定期的譲渡も視野に入る」

「人類側に損失はない」

「我々も生存可能」

一拍。

「何も問題はない」

静寂。

ユーヤは固まった。

「…いや…待て……本当に?」

それだけだった。

あまりにも簡単だった。

あまりにも、

当たり前だった。

奪う必要なんてなかった。

滅ぼす必要も。

ただ、

分け合えばよかった。

「……ははっ……」

ユーヤが力なく笑う。

「なんだよそれ……」

肩の力が抜ける。

今までの地獄が、

血が、

戦争が、

あまりにも馬鹿みたいだった。

ユーヤはエリスを見る。

彼女はきょとんとしていた。

「……すごいな、お前」

「え?」

「俺なんかより」

ユーヤが笑う。

「よっぽど英雄じゃねえか」

「エリスの一言で、戦争が一瞬で終わったよ…」

エリスが困ったように笑った。

「……当たり前のこと言っただけだけど」

「その“当たり前”を誰も思いつかなかったんだよ」

ユーヤは深く息を吐く。

そして、

「……あとは」

小さく笑う。

「じいちゃんに任せるか」

「父さんもいるしな」

ゲンゾウ。

そしてリョウイチ。

政治も、

交渉も、

世界の再編も、

あの二人に任せれば、きっと何とかしてくれる。

この案なら成立する。

ユーヤは確信していた。

もう、

疑念はなかった。

怒りも、

憎しみも、

目の前にいるのは敵じゃない。

共に生きる存在だ。

人類とギアノイド。

本当の意味で。

ようやく。

分かり合えたのだった。

 

アダムが改めて告げた。

「では、次元粒子の定期的譲渡を人類側に提案する」

「異論は?」

他のギアノイド達の言葉が重なる。

「「異議なし」」

ユーヤが深呼吸し答える。

「一応、人類の代表として、返答する」

「…この場で人類の総意というわけにないかないが…」

イブの声が響く。

『構いませんよ』

ユーヤは苦笑する。

「人類は、ギアノイドへの次元粒子の定期譲渡を条件に、完全なる停戦を要求する」

アダムが代表し返答する。

「承諾した」

「サタン討伐後、我々ギアノイドの総意として人類との停戦を前提とする」

確定ではないが、ここに人類とギアノイドの未来が決まった。

 

ユーヤは何とも言えない顔をしていた。

「…こんな形でギアノイドとの戦争が終わるとはな…ギアノイドが同志…仲間か…」

アダムが驚いたような声をあげる。

「我々を仲間と定義するか」

照れくさそうなユーヤ。

「違うのか?」

アダム達に柔らかい空気が流れる。

「…いや…悪くない」

カイン達も続く。

「同胞以外の協力関係か」

「ふむ、良いものだと認識する」

「なんだ…この湧き上がっってくるような感覚は…」

「少なくとも悪いものとは感じない」

エリスが諭した。

「それって…満足感とか…嬉しいってこと?分かり合えたから?」

ギアノイド達は一斉にエリスを見て納得したような雰囲気だった。

イブのはしゃぐような声。

『素晴らしいです、これが喜び、そして分かり合うという事なのですね』

『感情というものは本当に素晴らしいです』

皆優しく笑った。

人間とギアノイドは間違いなく今、同じ目標に向かって歩き出そうとしていた。

 

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