蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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3章⑳死へのカウントダウン

それは、ギアノイドと人類が初めて真に分かり合えた瞬間だった。

長く続いた隔たりが、まるで朝霧のように静かに溶けていく。

互いに差し出した手は、恐れではなく、確かな意思で結ばれていた。

人類とギアノイドが、ひとつの未来へと歩み出す――その始まりの一歩。

それはきっと、両者にとっての到達点であり、同時に新たな出発点でもあったのだろう。

柔らかな空気が、その場を包み込んでいた。

敵も味方もない。

ただ、ここにいるすべてが仲間なのだと、誰もが疑わずにいられるほどの静かな安らぎ。

 

――残る問題は、本当にただひとつ。

サタン。

その名を思い浮かべた瞬間、場の奥底に微かな緊張が走る。

 

 

ユーヤは一歩前に出ると、皆を見渡し、口を開いた。

 

「さて……そろそろサタンを見つけて、倒す算段を――」

 

しかし、

言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 

 

「ギアノイドと人類の共存など、認めない」

 

 

低く、怒りに満ちた声が、空間を切り裂く。

次の瞬間――後方上空に、黒い人影が現れた。

その場の誰も察知も反応も出来なかった。

黒い人影から放たれる、黒く極細の粒子ビーム。

 

 

【挿絵表示】

 

 

狙いは、エリス。

完全な油断だった。

あまりにも絶妙な――そして最悪のタイミングでの奇襲。

(避けられない――!)

刹那、ユーヤの思考が研ぎ澄まされる。

迷いはなかった。

彼はエリスを力強く突き飛ばす。

その代償として、自らが軌道に飛び込み――

ビームが、腹部を貫いた。

「ユーヤ!!!」

エリスの悲痛な叫びが、世界を震わせる。

「ぐっ……!?………!!!」

焼けるような激痛。

空気を裂く衝撃。

そして、飛び散る鮮血。

それでも――ユーヤは倒れなかった。

歯を食いしばり、血に濡れながらも、その瞳は死んでいない。

覚悟は、すでに決まっている。

(ここで止まるわけにはいかない――!)

彼は痛みを押し殺し、即座に次の一手へと動き出す。

この状況で取り得る、唯一にして最善の行動へと――。

 

ユーヤはエリスを抱きかかえ、宇宙服の背部スラスターを噴かせた。

白を裂くように一直線に――目指すは、ただ一つ。

ブラウフリューゲルTypeⅡ。

そのコクピットへ、飛び込む。

だが、その軌道を断ち切る声が響いた。

「――逃さん」

次の瞬間、空間が歪む。

視界の端で閃く、死の軌道。

撃たれる――

その刹那。

四つの影が割り込んだ。

カイン。

アベル。

セト。

ヤハウェ。

四体が同時にサタンへ肉薄し、近接攻撃を叩き込む。

「やらせん!」

カインの叫びが、白い空間を震わせた。

だが――

「この、裏切り者が!」

サタンの一喝とともに、見えない衝撃が爆ぜた。

四体のギアノイドが、まるで玩具のように弾き飛ばされる。

抗う間もなかった。

四体がかりでも、届かない。

だが――奇跡的に、損傷は軽い。

その一瞬で、十分だった。

ユーヤはコクピットへ滑り込み、エリスを抱えたまま着座する。

シートが閉じ、機体が応答する。

起動。

「ユーヤ……ユーヤ……!」

エリスの声が震えていた。

いや、震えているのは声だけじゃない。

「血が……血が止まらない!なんで……なんで……!」

ユーヤは、笑った。

それは、あまりにも不器用で、弱々しく、それでも精一杯の強がりだった。

「大丈夫だよ……何とかなるって」

「嘘!!」

エリスが叫ぶ。

「そんなわけない!どうしよう、どうしよう……ユーヤが死んじゃう……いやだ、やだ……!」

その声を背に、ユーヤは操縦桿を握る。

ブラウフリューゲルTypeⅡが白を裂き、加速する。

照準――サタン。

だが、当たらない。

人の形。

小さすぎる標的。

予測不能の機動。

すべてが噛み合わない。

ビームは虚空を焼くだけだった。

「やめて……もうやめて……!」

エリスの嗚咽が、耳から離れない。

 

ユーヤは、静かに、自分の身体を見た。

……いや、見なくてもわかる。

(……致命傷だ)

腹部に空いた穴。

焼けるような痛みと、止まらない喪失。

(即死じゃないだけ、運が良かったか…)

だが――

(血を、流しすぎた…)

視界の端が暗く滲む。

(あと何分……いや、何秒、戦える…)

腕の中で、エリスが泣いている。

(……くそ)

ほんの少しだけ、エリスに微笑む。

(また、泣かせてしまったな…)

本当は――

もっと、普通の時間を過ごしたかった。

戦いじゃなくて。

血でも、死でもなくて。

ただ一緒に、笑って。

(これからだったのに…)

喉の奥で、言葉にならない何かが崩れる。

(……ちくしょう)

それでも、ユーヤはトリガーを離さない。

たとえ、その先にあるのが――終わりだとしても。

――戦闘は、まだ終わらない。

 

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