蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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3章㉑黒き翼

量子ネットワークが、静かに震えた。

『全員、聞いてください』

イブのテレパシーが飛ぶ。

冷静であるはずのその声に、わずかな揺らぎがあった。

『奇襲です。完全に不意を突かれました』

一瞬、誰も反応できなかった。

『サタンは量子ネットワークを自ら離脱』

『情報・痕跡を完全に隠蔽していました……完璧な奇襲です』

沈黙。

それは認めざるを得ない敗北の気配だった。

『我々は量子ネットワークに依存しすぎた。その可能性を予期できなかった』

『完全に我々の失態です…』

ユーヤの顔が、ぐしゃりと歪む。

だがそれはイブの言葉に対してではない。そんなものは、もはや耳に入っていなかった。

目の前の現実――それどころではない。

ブラウフリューゲルTypeⅡの射撃が閃光を描く。

しかしそのすべてを、サタンは紙一重で回避しながら後退していく。

(逃げるのか? …いや…違う…)

その動きに、ユーヤは直感する。

次の瞬間、異変が起きた。

黒色を帯びた「ギアノイド」が、どこからともなく湧き出るようにサタンの周囲へと集結していく。

粒子のようでいて、意志を持つ群体。

それらが絡み合い、凝縮し、組み上がっていく。

何かの“形”を。

巨大な影が、ゆっくりと立ち上がった。

その全高は、優に二十メートルを超える。

「……っ」

ユーヤの喉が、かすかに鳴る。

そのシルエットを見た瞬間、脳が理解を拒んだ。

二足歩行。

装甲。

関節構造。

人類が築き上げた兵器体系、その頂点。

「バスター…アームズ……いや…ブラウ…フリューゲル…!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

それは模倣だった。

だが、あまりにも正確で、あまりにも冒涜的な。

人類の技術の結晶を――敵が、再現している。

黒いブラウフリューゲル。

骨格のみで武装の完全再現とまではいかないが、それでも武装以外はブラウフリューゲルの再現体としか思えない。

ブラックフリューゲルとでも表現すべきかと思われる外見であった。

 

サタンが、吠えた。

「自らの力で滅びるがいい!!」

その声は、空気を震わせ、意識を叩き潰す。

「死ね、人間!」

ユーヤは反射的にライフルを構え、引き金を引く。

閃光。

衝撃。

だが――

「なっ……!?」

当たらない。

いや、初めから予測されているようにサタンの回避行動が早すぎる。

次の瞬間。

圧倒的な“暴力”が、襲いかかった。

爪状の腕からビーム状の光が放出されている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

斬撃。

衝撃。

爆裂。

ライフルが砕け散る。

ビームサーベルが弾かれる。

レールガンがねじ切られる。

収束ビームキャノンが、発射前に破壊される。

一つ一つ。

確実に。

まるで未来を知っているかのように、すべての選択肢が先回りされ、叩き潰されていく。

「ぐあぁぁぁっ!!」

ユーヤの絶叫。

「キャー――!」

エリスの悲鳴。

それは戦闘ではなかった。

蹂躙。

ただ一方的に削られていく。

人類の最高傑作。

技術の結晶。

最強戦力。

そのすべてが、無残に、意味もなく削ぎ落とされていく。

奇襲。

重度の負傷。

そして、隙のなさ。

最悪の条件が、完璧に揃っていた。

ナイトランサーシステムが発動する前に、圧倒的な暴力が襲ってくる。

完全回避を成立させないように。

「くそっ……!」

ユーヤの出血量が多い。

死は確実に近づいている。

それでもこの戦いを投げ出すわけにはいかない。

死へのカウントダウンが迫る中、戦いは続く。

 

 

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