蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
ユーヤは歯を食いしばり、脳波リンクを解放する。
マルチプルビット、八機全機展開。
六機を防御に。
残る二機を攻撃へ。
ブレードナイフを投擲せずにそのまま射出。
旋回し、サタンへ向かって飛翔する。
全方位からの同時制圧。
「遅い!」
サタンの声が、冷たく落ちる。
「無駄ダァァ!」
一閃。
二閃。
視界が、光で裂ける。
攻撃にまわっていたマルチプルビットとブレードナイフが瞬時に叩き落される。
次の瞬間――
サタンの急速接近。
咄嗟に残っていたマルチプルビットのバリアを展開。
多重構造のバリアを形成する。
だが、
バリアをねじ切るように、ビームを放出する爪を立てるサタン。
バリアを、貫通する。
爆発。
そして、
気付けば、
遠隔武装すべてが、撃墜されていた。
「――っ!?」
理解が追いつかない。
その刹那。
サタンが、踏み込む。
巨大な爪の刃が、一直線に振り下ろされる。
ユーヤは咄嗟にビームソードを構え、受け止める。
衝突。
空間が軋む。
「ぐっ……!」
押される。
止まらない。
機体ごと、押し潰される。
「くそぉぉぉ……!」
腕が悲鳴を上げる。
骨が軋む。
意識が白く弾ける。
それでも、押し返せない。
圧倒的すぎる。
この差は、何だ。
なぜ――
こんなにも、届かない。
刃が、さらに食い込む。
限界が、近い。
その瞬間――
蒼い閃光が、戦場を切り裂いた。
数体のブルーギアノイドが、ためらいなくサタンへと突撃する。
自壊すら恐れぬその軌道は、まるで意志を持った弾丸だった。
「ちっ――」
サタンが舌打ちとともに腕を振るう。
その一撃で、ブラウフリューゲルTypeⅡの巨体が横へと弾き飛ばされた。
衝撃。
視界が回転する。
だが、その隙にブルーギアノイドたちは距離を詰める。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、サタンの注意が分散した。
「愚か!」
低く吐き捨てる声。
次の瞬間、蒼は黒に呑まれた。
斬撃が走る。
爆散。
貫通。
圧壊。
突撃したブルーギアノイドは、文字通り“次々と”撃破されていく。抵抗など存在しないかのように、ただ消されていく。
だが――
その“無意味な突撃”は、確かに意味を持った。
わずかな隙。
それが、生まれた。
「……っ!」
ブラウフリューゲルtypeⅡが地面を滑りながら姿勢を立て直す。
各部スラスターが唸り、無理やりバランスを取り戻す。
戦闘再開。
だが――
「はあ……はあ……」
コックピットの中で、ユーヤの呼吸はすでに限界に近かった。
汗が視界を滲ませる。
血を流しすぎている。
いつ死んでもおかしくない。
(まだ…倒れるわけには…あと……何秒…戦える……?)
思考が、途切れ途切れになる。
(倒す手段は……あるのか……?)
答えは出ない。
出るはずもない。
その腕の中で――
「やめて……やめてよぉ……!」
エリスが泣き叫んでいた。
震える声。
しがみつく指先。
その温もりが、やけに現実的だった。
愛しい人が、今まさに命を散らそうとしている。
それを、止められない。
どうにもできない。
どうしようもない。
絶望が、静かに心を満たしていく。