蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
(これが……俺の最期……かよ…)
――その時だった。
「……ユーヤ」
背後から、声がした。
「……っ!?」
振り向く。
いるはずのない場所に。
聞こえるはずのない声。
「アダム……?」
確かに、それはアダムだった。
ブラウフリューゲルtypeⅡのコクピット後部に乗り込んでいた。
「提案がある」
あまりにも落ち着いた声音。
異様なほどに冷静な響き。
ユーヤは一瞬、目を見開く。
だが――そんなことを気にしている余裕はない。
「お前……いつの間に……乗り込んでたんだよ……」
かすれた声で、ようやく言葉を絞り出す。
アダムは、淡々と答えた。
「そんなことはどうでもいい」
一切の感情を含まない声。
「今、君の身体は活動を停止しようとしている」
「……」
ユーヤは、何も言い返せなかった。
悔しい。
だが、事実だった。
感覚が鈍い。
力が入らない。
このままでは、確実に――終わる。
「だから提案する」
アダムが続ける。
「私との融合を」
「……なに……?」
理解が、追いつかない。
アダムの言葉は止まらない。
「君はギアノイド、そして人類の未来を背負っている」
「ここで君を失う事は我々、そして人類も敗北を意味する」
その声には、わずかに“意志”が宿っていた。
「私と融合することで、君は“生機融合体”となる」
静かに、
だが確実に告げられる未来。
「失われた生命維持機関は、私が補完する」
「……」
「幸い、君の脳にはすでに私の“かけら”が存在している」
「量子ネットワークへの適合も疑似的ではあるが、可能と判断する」
ユーヤの瞳が揺れる。
「それって……つまり……」
言葉になりかけた、その瞬間――
「ちょっと待って!!」
エリスの叫びが、すべてを遮った。
「それって……ユーヤをギアノイドにするってことじゃない!」
涙に濡れた瞳で、アダムを睨みつける。
「人間をやめろってこと!?」
コックピットに、沈黙が落ちる。
戦場の轟音が、遠く感じられた。
その中で――
ユーヤは、ふっと笑った。
まるで、すべてを悟ったかのように。
「……なるほどな」
小さく、呟く。
その瞳には、もう迷いはなかった。
かすれた声。
だが、その奥には確かな決意が宿っている。
「そうしてくれ、アダム。それで生きられるのなら」
迷いは、もうなかった。
アダムは即座に応じる。
「――了解した」
その声に、わずかな遅延もない。
決定は、下された。
「ちょっと待って!!」
エリスが叫ぶ。
震える声が、コックピットに響き渡る。
「でも……それじゃユーヤが、人間じゃなくなっちゃう……!そんなの……」
言葉が続かない。
否定したいのに、できない。
理解してしまっているから。
その選択の意味を。
その代償の大きさを。
ユーヤは、そんな彼女を見て――
優しく、微笑んだ。
「……これで、一緒だな」
「え……?」
エリスの目が見開かれる。
何を言われたのか、一瞬理解できなかった。
ユーヤは続ける。
「これでエリスと一緒だ」
静かに、噛みしめるように。
「人間だけどギアノイド。ギアノイドだけど人間」
その言葉が、胸に落ちる。
エリスは、はっと息を呑んだ。
「……あ……」
ユーヤはさらに言う。
「これでよかった……いや、これがいいんだ」
その声には、確信があった。
「これでエリスと同じだ…同じ時を生きられる」
時間。
寿命。
存在の違い。
それらすべてを、越える選択。
ユーヤは、まっすぐに彼女を見る。
「……なあ」
少しだけ、悪戯っぽく。
「俺が人間じゃなくなったら……嫌いになるのか?」
一瞬の静寂。
次の瞬間――
「そんなわけない!!」
即答だった。
涙をこぼしながら、それでも強く叫ぶ。
「……好き」
震える声で、しかしはっきりと。
その言葉を、告げる。
ユーヤは、にやりと笑った。
「なら、何も問題ない」
あっさりと。
まるで当然の結論のように。
「一緒に生きるんだ…それが出来るんだ」
息を吸う。
もう迷いは、どこにもない。
「最高じゃないか…これで…よかったんだ…」
エリスの目から、涙が溢れ続ける。
止まらない。
止められない。
それでも――
その表情は、絶望ではなかった。
ユーヤは視線を前に戻す。
「……アダム、やってくれ」
静かに告げる。
アダムが応じる。
「承知」
その瞬間――
量子ネットワークが、再び震えた。
『全員へ』
イブのテレパシーが、鋭く響き渡る。
『カイン、アベル、セト、ヤハウェ!ユーヤたちの援護を。時間を稼いでください!』
間髪入れず、応答が返る。
――了解。
――任せろ。
――持ちこたえてみせる。
――必ず。
四つの意思が、重なる。
戦場が、再び動き出す。
融合の刻限が、迫る中――
戦いは、次の局面へと踏み込んだ。