蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
蒼き群れが、空を裂く。
カイン、アベル、セト、ヤハウェ――四人の指揮のもと、ブルーギアノイドの編隊は統制の取れた動きでサタンへと挑み続けていた。
包囲。
連携。
波状攻撃。
だが――
そのすべてが、通じない。
一機、また一機と、光が消えていく。
撃破。
爆散。
沈黙。
誰もが理解していた。
これは勝つための戦いではない。
「時間を稼ぐ」
ただそれだけのための、消耗戦。
それでも、ためらう者は一人もいない。
覚悟の上で、突っ込んでいく。
サタンが、怒号を放つ。
「邪魔をするな……!」
その声は、憎悪そのものだった。
「裏切り者どもがあぁぁ!!」
黒き巨体が唸り、斬撃が嵐のように吹き荒れる。
蒼が、また消えた。
――その裏で。
静かに、しかし確実に、別の“変化”が始まっていた。
「……っ」
ユーヤの視界が揺らぐ。
感覚が、溶ける。
境界が、曖昧になる。
自分と、自分でないもの。
二つの存在が、ゆっくりと重なっていく。
融合。
それは痛みではなかった。
むしろ――奇妙なほどに、穏やかで。
温かくて。
「……これが……」
言葉にならない。
思考がほどけていく。
ユーヤの意識が、深く沈んでいく。
遠ざかる。
消えていく。
そのとき――
「ユーヤ!!」
エリスの声が、突き刺さった。
「ユーヤ、ユーヤ!!」
必死な呼びかけ。
引き戻そうとする、強い意志。
――その頃、戦場では。
ブルーギアノイドたちが、限界を迎えつつあった。
カイン、アベル、セト、ヤハウェに焦りが見える。
「くっ……」
「数が……!」
減っていく。
止まらない。
防ぎきれない。
「まずい……抜かれる……!」
包囲が、崩れる。
その一瞬の綻びを――
サタンは見逃さなかった。
黒き巨体が、一直線に突破する。
蒼の壁を突き破り、一直線に――
ブラウフリューゲルtypeⅡへ。
「――っ!」
間に合わない。
誰も、止められない。
サタンが、刃を振り上げる。
終わりの一撃。
その軌道が、確定した――その瞬間。
「ユーヤ!!」
エリスの叫びが、世界を震わせた。
――その一瞬。
止まっていた時間が、動き出す。
「――っ!!」
ユーヤの目が、見開かれる。
覚醒。
意識が、戻る。
いや――
それは、もはや“戻った”のではない。
新たな存在として“立ち上がった”。
両腕が動く。
迷いなく。
残された数少ない武装――
大剣ヴルトガンクを、左右それぞれに握りしめる。
振り下ろされる刃に対し――
交差。
受け止める。
激突。
衝撃が爆ぜる。
「……止めた……だと……?」
そのまま――
押し返す。
「はあぁぁぁ!!」
渾身の力で、弾き飛ばす。
サタンの巨体が、後方へと弾かれた。
静寂が、一瞬訪れる。
ユーヤは、ゆっくりと息を吐く。
そして、自分の手を見る。
動く。
力がある。
確かに、変わっている。
「……はは」
小さく、笑った。
「ありがとな、アダム」
その言葉に応じるように、意識の奥から声が響く。
『構わない』
静かで、確かな声。
『―それより、まだ終わっていない』
ユーヤは、顔を上げる。
視線の先には、サタン。
そして、戦場。
「ああ……そうだな」
呼吸が整う。
思考が冴える。
すべてが、噛み合っていく。
「ここからだ」
新たな存在としての戦いが、始まる。