蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

113 / 114
3章㉗切り札

ユーヤの呼吸は荒れていた。

「……はあ……はあ……っ」

コクピットの中で汗が滴り、視界の端に警告表示が点滅する。ブラウフリューゲルtypeGとサタン――その力は、完全に拮抗していた。押しても引いても崩れない、均衡。

だが、その均衡は永遠ではない。

ユーヤの視線が計器へと落ちる。

粒子残量――限界域。アークレイズ稼働時間――残りわずか。

(まずい……時間が無い……!)

歯を食いしばる。次の一手を誤れば、終わる。

(どうする……どうすれば――)

その時だった。

――声が、響いた。

『我々を忘れるな』

「……!」

ユーヤの意識に直接届く、確かな意志。

『そうです。あなたは一人で戦っているのではないのです』

「アダム……イブ……!」

思わず声が漏れる。

ユーヤは短く息を吸い込み、静かに答えた。

「……ありがとな」

すると、別の声が割り込む。

『隙を作る』

カインの声だ。

『アベル、セト、ヤハウェ――いいか?』

『承知』

四つの意志が重なる。

その瞬間――

「さっさと死ねェ!! 人間がァ!!」

サタンが咆哮し、再び突撃してきた。圧倒的な質量と殺意が迫る。

迎え撃つブラウフリューゲル。

激突――!

再び鍔迫り合い。火花が弾ける。

だが次の瞬間、

「っ……!」

重い衝撃。

左手のヴルトガンクが弾き飛ばされ、宙を舞った。

「くっ……!」

体勢が崩れる。

サタンの眼が嗤う。

「死ね」

振り下ろされる絶対的な一撃――

その刹那。

「今だ!」

四つの影が、閃いた。

カイン、アベル、セト、ヤハウェ――

人に近い小さな体が、巨体へと躍りかかる。

「……何?」

サタンの動きが一瞬止まる。

全長二十メートルを超える怪物に対し、わずか二メートル弱の存在。力の差は歴然だった。

拳が、刃が、放たれる。

だが――

「……効かぬ」

傷一つ、つかない。

「どけェ!!」

サタンが腕を振るい、衝撃波で彼らを弾き飛ばす。

しかし――

その一瞬。

ほんの刹那だが、確かに生まれた“隙”。

そしてそれは、サタンにとって最も許しがたいものだった。

「再び同胞が……我に刃を向けるだと……!」

怒りが爆ぜる。理性が揺らぐ。

その瞬間を――

ユーヤは見逃さなかった。

「――!」

残された右手のヴルトガンクを、全力で投擲する。

蒼光が一直線にサタンへと奔る。

「甘い!」

サタンが即座に迎撃。

振り払われた刃は、次の瞬間――

爆散。

閃光と爆炎が、視界を覆い尽くす。

「小賢しい!」

サタンが腕を振り、煙を吹き払う。

――だが。

その視界が晴れた瞬間。

そこにあったのは。

すでに照準を終えた、死の光。

ブラウフリューゲルtypeG。

その背部から展開された、最大火力兵装――

ヘクステッドキャノン。

全エネルギーが収束し、空間そのものが歪む。

ユーヤの目が、静かにサタンを捉える。

「――これで、終わりだ!」

トリガーに、指がかかる。

次の瞬間、世界を貫く一撃が――放たれようとしていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ヘクステッドキャノン――それは、ブラウフリューゲルにおける最大火力兵装。

だが同時に、致命的な弱点を抱えていた。

発射までに必要な粒子チャージ時間。

そのわずかな“溜め”こそが、死を招く隙となる。

通常であれば――サタンがそれを見逃すはずがなかった。

だが、

ブラウフリューゲルtypeGは、すでにその域を超えている。

進化した機体は、弱点すら塗り替えた。

チャージ時間――大幅短縮。

照準さえ合わせれば、残存粒子を注ぎ込み、即座に発射可能。

ユーヤは、その事実に気づいていた。

進化の瞬間から、この一撃が“切り札”になると確信していた。

そして今――

サタンに生まれた、決定的な隙。

逃さない。

 

「――ヘクステッドキャノン……!」

 

ユーヤが吠える。

 

「ファイヤァァァァァァ!!!!!!」

 

次の瞬間。

二つの砲口から、極光が解き放たれた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

それは光というより、世界そのものを貫く“意志”。

蒼と光が混ざり合った奔流が一直線に走り、サタンを直撃する。

「――――ッ!?」

光が、呑み込む。

焼く。砕く。溶かす。

サタンの巨体が、音を立てて崩壊していく。

「ガ……ガガガガァァァァ!!」

だが――

消えない。

極光の中でなお、サタンは踏みとどまる。

焼け落ちる翼。崩れゆく肉体。それでも、消えない。

「ユーヤ!!」

仲間たちの声が重なる。

「うおおおおおおおおおおッ!!」

ユーヤがさらに出力を引き上げる。

だがその代償は、すぐに現れた。

砲身が、悲鳴を上げる。

過負荷。限界超過。アークレイズ最大出力。

「くっ……まだだ……!!」

金属が焼け、歪み、崩れる。

そして――

爆発。

ヘクステッドキャノンの砲身が耐えきれず、自壊した。

閃光が消え、煙が晴れる。

その中に立っていたのは――

「……ハァ……ハァ……」

サタン。

その姿はもはや原形を留めていなかった。

体の大半は焼き尽くされ、残っているのは胴体の一部、頭部、そして右腕のみ。

 

それでも――

まだ、生きている。

「……終わりだ……人間……!」

最後の力を振り絞り、サタンが突撃する。

対するユーヤは、静かに、だが確かに吠えた。

「終わるのは――お前だ!!」

機体が前に出る。

「お前の……ギアノイドの、人類への憎しみを――今ここで断ち切る!!」

次の瞬間――

拳と拳がぶつかる。

クロスカウンター。

衝撃が爆ぜる。

相打ち――

否。

「……まだだあああああああああああ!!」

ユーヤの咆哮が、それを否定する。

ブラウフリューゲルが踏み込む。

体当たり――タックル。

サタンの残骸を、弾き飛ばす。

「ぐッ……!?」

一瞬の浮き。

その瞬間を逃さない。

「行けぇぇぇぇぇ!!」

最大加速。

機体が悲鳴を上げる。

内部で、ユーヤとエリスの体が軋む。

それでも――止まらない。

加速、加速、加速。

一瞬で間合いを詰める。

そして――

捉える。

この戦いを終わらせるために、ブラウフリューゲルtypeGの右腕が展開する。

逃がさない。

「終わりだ」

低く、確信に満ちた声。

右腕に残存粒子が収束する。

そこに仕込まれていた、最後の武装――

インパクトショット改。

ゼロ距離。

逃げ場は、ない。

「――――」

サタンの目が見開かれる。

そして。

「消えろ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

発射。

閃光が、右腕から解き放たれる。

至近距離から撃ち込まれた破壊の奔流が、サタンの核を――

完全に、打ち抜いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。