蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
光が収まったあと、そこに残っていたのは――崩れゆく存在だった。
サタンの身体は、粒子となって静かに崩壊していく。
巨体はもはや維持できず、輪郭は砂のようにほどけ、空間へと溶けていく。
だが、
その口だけは、まだ動いていた。
「……馬鹿な……」
かすれた声。
「我が……人間に……滅ぼされる……など……」
誰も、言葉を発しなかった。
ユーヤも、エリスも、アダムも、イブも、カインも、アベルも、セトも、ヤハウェも――ただ静かに、その最期を見つめていた。
やがて、サタンは歪んだ笑みを浮かべる。
「……はは……ははは……」
崩れながら、それでも嗤う。
「我が消えたところで……憎しみは……消えたりしないぞ……」
その声は、呪いのように空間へ染み込んでいく。
「ギアノイドも……人間も……いずれまた……争う……」
沈黙。
「それが今か…後か…それだけの違いだ…憎しみは終わらない…」
その言葉を、ユーヤが受け止める。
そして、静かに――だが確かな意志を込めて答えた。
「……憎しみは、乗り越えられるさ」
サタンの瞳が、わずかに揺れる。
「俺たちのようにな」
ユーヤの視線は、ただ前を見据えていた。
「もし……人間とギアノイドが再び争うことになれば――」
一瞬の間。
「俺が……いや……」
小さく、しかし強く、言い直す。
「俺たちが、止めるさ。今やったことを何度でもするだけさ…」
その言葉に、背後の意志たちが静かに重なる。
サタンは、それを見て――
再び、笑った。
「……できるものなら……やってみろ……」
崩壊は、もう止まらない。
「…まだ我の意思を宿した個体は残っている…不可能……だろうがな……」
最後の言葉が、風に溶ける。
そして――
サタンは、完全に消滅した。
静寂が訪れる。
戦いの余韻だけが、空間に残る。
誰かが、深く息を吐いた。
張り詰めていたものが、ゆっくりとほどけていく。
エリスがつぶやく。
「……終わった?……」
その言葉は、確かな実感を伴っていた。
だが、
ユーヤは、静かに首を振る。
「……いや」
視線の先には、もう敵はいない。
それでも――彼の瞳は未来を見ていた。
「違う」
ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「――始まったんだ」
風が吹く。
戦場の残骸を撫で、遠くへ運んでいく。
「人類とギアノイドの……未来が」
その言葉は、静かに、しかし確かに世界へ刻まれた。
光の残滓が消えていく中で、新たな時代の気配が芽吹いていく。
戦いの果てに生まれたもの――それは終わりではない。
始まり。
共に歩むか、それとも再び争うか。
その選択を背負いながら――
物語は、次へと続いていく。