蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
―その瞬間、異変が訪れた。
どす黒い光を放っていたギアノイド群の攻撃が、ぴたりと止んだのだ。
「……攻撃が……止まった?」
誰かが呟く。
艦橋の空気が凍りつく。
何が起こったのか、誰にも分からない。
ゲンゾウ、リョウイチ、ナツキは無言で顔を見合わせる。言葉はいらなかった。全員が同じ疑問を抱いている。
――いったい、何が?
混乱は、艦隊全体へと波紋のように広がっていく。生き残ったパイロットたちもまた、突如として消えた攻勢に戸惑いを隠せない。
その時だった。
「……見ろ……!」
観測員の声が震える。
残存していたブルーギアノイドが、ゆっくりと黒いギアノイドへと接触していく。
次の瞬間――
変化が起きた。
黒。
濁った闇の色が――
塗り替えられていく。
鮮やかな青へと。
一つ。
また一つ。
触れた箇所から、まるで感染するかのように色が変わっていく。
深く、澄んだ蒼。
それは、かつて人類を守り抜いた“英雄”を象徴する色。
希望の証。
その光景は――
まるで、宇宙に咲く青い花火のようだった。
静かに、だが確実に広がっていく光。
誰もが、息を呑む。
そして――
「……蒼の英雄だ……!」
傷だらけのパイロットが、震える声で叫んだ。
「英雄が……やり遂げたんだ!!」
その声が、全てを繋ぐ。
「ギアノイドを止めた……!」
「味方に……した……!」
「戦いを……終わらせたんだ……!」
次の瞬間、艦内に歓声が爆発した。
「終わった……!」
「勝ったんだ……!」
歓喜が、連合艦隊を包み込む。
通信士が震える手で回線を開く。
「地球へ……連絡を……!」
声が裏返る。
「戦闘終結……繰り返す、戦闘終結……!」
そして――
「英雄が……やり遂げた……!」
その報は、瞬く間に地上へと届いた。
人々が空を見上げる。
誰もが祈り、誰もが願っていた終わり。
それが、今――現実になった。
歓声が、地上を揺らす。
涙が、あちこちで零れる。
そのすべてが、一つの名前へと収束していく。
英雄。
蒼の英雄。
――ユーヤ。
同時刻。
戦艦ヴェスペリオン、艦橋。
張り詰めていた空気が、ようやくほどけた。
ゲンゾウが、大きく息を吐く。
そして――
笑った。
「……さすが、わしの孫じゃ」
深く、誇らしげに。
「本当に……やり遂げたぞ」
肩を震わせる。
「本当に英雄になってしまったぞ……!」
堪えきれず、豪快に笑い声が響く。
「がはははははッ!!」
その笑いに、艦内の空気が一気に明るくなる。
誰もが安堵し、喜びを噛みしめていた。
ナツキが、そっと呟く。
「……あなた……」
その声には、言葉にならない想いが滲んでいる。
リョウイチが、静かに頷いた。
「……ああ」
目を閉じる。
「言葉にならないな……」
わずかに笑みを浮かべる。
「この気持ちは……どんな演算でも、出てこない」
ナツキが、小さく笑った。
そして、ぽつりと呟く。
「……あとは」
その言葉を、リョウイチが引き継ぐ。
「……あとは……」
静かな声。
だが、その奥にある願いは、誰よりも強い。
「子供たちが……帰ってくるのを待つだけだ」
ほんの少し間を置いて、
「……待つだけ、ね」
戦いは終わった。
艦橋の窓の向こう。
青く染まりゆく宇宙が、静かに輝いていた。