蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

115 / 118
3章㉙終結

―その瞬間、異変が訪れた。

どす黒い光を放っていたギアノイド群の攻撃が、ぴたりと止んだのだ。

「……攻撃が……止まった?」

誰かが呟く。

艦橋の空気が凍りつく。

何が起こったのか、誰にも分からない。

ゲンゾウ、リョウイチ、ナツキは無言で顔を見合わせる。言葉はいらなかった。全員が同じ疑問を抱いている。

――いったい、何が?

混乱は、艦隊全体へと波紋のように広がっていく。生き残ったパイロットたちもまた、突如として消えた攻勢に戸惑いを隠せない。

その時だった。

「……見ろ……!」

観測員の声が震える。

残存していたブルーギアノイドが、ゆっくりと黒いギアノイドへと接触していく。

次の瞬間――

変化が起きた。

黒。

濁った闇の色が――

塗り替えられていく。

鮮やかな青へと。

一つ。

また一つ。

触れた箇所から、まるで感染するかのように色が変わっていく。

深く、澄んだ蒼。

それは、かつて人類を守り抜いた“英雄”を象徴する色。

希望の証。

その光景は――

まるで、宇宙に咲く青い花火のようだった。

静かに、だが確実に広がっていく光。

誰もが、息を呑む。

そして――

「……蒼の英雄だ……!」

傷だらけのパイロットが、震える声で叫んだ。

「英雄が……やり遂げたんだ!!」

その声が、全てを繋ぐ。

「ギアノイドを止めた……!」

「味方に……した……!」

「戦いを……終わらせたんだ……!」

次の瞬間、艦内に歓声が爆発した。

「終わった……!」

「勝ったんだ……!」

歓喜が、連合艦隊を包み込む。

通信士が震える手で回線を開く。

「地球へ……連絡を……!」

声が裏返る。

「戦闘終結……繰り返す、戦闘終結……!」

そして――

「英雄が……やり遂げた……!」

その報は、瞬く間に地上へと届いた。

人々が空を見上げる。

誰もが祈り、誰もが願っていた終わり。

それが、今――現実になった。

歓声が、地上を揺らす。

涙が、あちこちで零れる。

そのすべてが、一つの名前へと収束していく。

英雄。

蒼の英雄。

――ユーヤ。

同時刻。

戦艦ヴェスペリオン、艦橋。

張り詰めていた空気が、ようやくほどけた。

ゲンゾウが、大きく息を吐く。

そして――

笑った。

「……さすが、わしの孫じゃ」

深く、誇らしげに。

「本当に……やり遂げたぞ」

肩を震わせる。

「本当に英雄になってしまったぞ……!」

堪えきれず、豪快に笑い声が響く。

「がはははははッ!!」

その笑いに、艦内の空気が一気に明るくなる。

誰もが安堵し、喜びを噛みしめていた。

ナツキが、そっと呟く。

「……あなた……」

その声には、言葉にならない想いが滲んでいる。

リョウイチが、静かに頷いた。

「……ああ」

目を閉じる。

「言葉にならないな……」

わずかに笑みを浮かべる。

「この気持ちは……どんな演算でも、出てこない」

ナツキが、小さく笑った。

そして、ぽつりと呟く。

「……あとは」

その言葉を、リョウイチが引き継ぐ。

「……あとは……」

静かな声。

だが、その奥にある願いは、誰よりも強い。

「子供たちが……帰ってくるのを待つだけだ」

ほんの少し間を置いて、

「……待つだけ、ね」

戦いは終わった。

艦橋の窓の向こう。

青く染まりゆく宇宙が、静かに輝いていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。