蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
歓喜に揺れていた空気は、ゆっくりと、しかし確実に張り詰めたものへと変わっていった。
青い光――ブルーギアノイドの群れが、まるで意志を持つかのように空へと集結していく。
一瞬、誰もが息を呑んだ。
再び戦闘が始まるのかと、本能が警鐘を鳴らす。
だが――違う。
「……敵意が、ない?」
誰かがそう呟いた瞬間だった。
ブルーギアノイドが、一斉に発光を始める。
細かく、規則的に、まるで脈打つように。
しかし、その意味を理解できる者はいなかった。
「なんだ、あれは……?」
ざわめきが広がる中、ただ一人、リョウイチだけが顔を上げた。
「――違う」
その目が鋭く細められる。
「ただの点滅じゃない……あれは……」
次の瞬間、彼は叫んだ。
「モールス信号だ!!」
空気が凍りつく。
ゲンゾウの目がわずかに見開かれた。
「……なるほどな」
即座に振り向く。
「オペレーター、すぐに解析しろ!映像は撮れているな?最初から翻訳しろ!」
「は、はい!」
慌ただしくコンソールを叩く音。
数秒にも満たない時間が、やけに長く感じられた。
「……出ました!」
「なんだ。読み上げろ」
一瞬の躊躇。震える声。
「は、はい……」
息を呑む気配が、空間全体に広がる。
「――人類の皆様、こんにちわ」
ざわめき。
「我々は、皆様が“ギアノイド”と呼称するものです」
誰も言葉を発せない。
「現在、我々は争いを求めません」
静寂が、重くのしかかる。
「対話を望みます」
その一文が、世界を止めた。
「繰り返します――対話を望みます」
「……対話だと!?」
驚愕が爆発する。
怒号にも似た声、困惑、疑念、恐怖。
誰もが信じられなかった。
あれほどまでに敵対していた存在が、今、言葉を求めている。
だが――
ゲンゾウだけは、違った。
ゆっくりと目を閉じ、そして小さく息を吐く。
「……そうか」
誰にも聞こえないほどの声。
「これが、お前の出した答えか……ユーヤ」
再び目を開ける。
その視線の先には、青く瞬く光。
「……対話か」
わずかに口元が歪む。
「戦うより、はるかに難しい選択をしおって…」
その言葉には、わずかな――本当にわずかながら、感情が滲んでいた。
リョウイチが、空を見上げたまま呟く。
「ギアノイド側からの対話の申し入れ……」
信じられない、というよりも――受け止めきれない。
「……こんな未来が来るとはな」
世界中が混乱していた。
歓喜は消え、代わりに広がるのは困惑と疑念。
それでも、確かに一つの事実だけが残る。
敵が、言葉を選んだ。
戦いではなく、理解を。
空に浮かぶ青い光は、なおも静かに点滅を続けている。
まるで、人類の返答を待つかのように。
そして今――
人類は選ばなければならない。
戦い続けるのか。
それとも、未知と向き合うのか。
誰もが答えを持たないまま、時間だけが過ぎていく。
だが確実に、歴史は動いていた。
人類とギアノイド。
二つの存在の未来を分ける選択が、まさに下されようとしている――。