蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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3章㉚信号

歓喜に揺れていた空気は、ゆっくりと、しかし確実に張り詰めたものへと変わっていった。

青い光――ブルーギアノイドの群れが、まるで意志を持つかのように空へと集結していく。

一瞬、誰もが息を呑んだ。

再び戦闘が始まるのかと、本能が警鐘を鳴らす。

だが――違う。

「……敵意が、ない?」

誰かがそう呟いた瞬間だった。

ブルーギアノイドが、一斉に発光を始める。

細かく、規則的に、まるで脈打つように。

しかし、その意味を理解できる者はいなかった。

「なんだ、あれは……?」

ざわめきが広がる中、ただ一人、リョウイチだけが顔を上げた。

「――違う」

その目が鋭く細められる。

「ただの点滅じゃない……あれは……」

次の瞬間、彼は叫んだ。

「モールス信号だ!!」

空気が凍りつく。

ゲンゾウの目がわずかに見開かれた。

「……なるほどな」

即座に振り向く。

「オペレーター、すぐに解析しろ!映像は撮れているな?最初から翻訳しろ!」

「は、はい!」

慌ただしくコンソールを叩く音。

数秒にも満たない時間が、やけに長く感じられた。

「……出ました!」

「なんだ。読み上げろ」

一瞬の躊躇。震える声。

「は、はい……」

息を呑む気配が、空間全体に広がる。

「――人類の皆様、こんにちわ」

ざわめき。

「我々は、皆様が“ギアノイド”と呼称するものです」

誰も言葉を発せない。

「現在、我々は争いを求めません」

静寂が、重くのしかかる。

「対話を望みます」

その一文が、世界を止めた。

「繰り返します――対話を望みます」

「……対話だと!?」

驚愕が爆発する。

怒号にも似た声、困惑、疑念、恐怖。

誰もが信じられなかった。

あれほどまでに敵対していた存在が、今、言葉を求めている。

だが――

ゲンゾウだけは、違った。

ゆっくりと目を閉じ、そして小さく息を吐く。

「……そうか」

誰にも聞こえないほどの声。

「これが、お前の出した答えか……ユーヤ」

再び目を開ける。

その視線の先には、青く瞬く光。

「……対話か」

わずかに口元が歪む。

「戦うより、はるかに難しい選択をしおって…」

その言葉には、わずかな――本当にわずかながら、感情が滲んでいた。

リョウイチが、空を見上げたまま呟く。

「ギアノイド側からの対話の申し入れ……」

信じられない、というよりも――受け止めきれない。

「……こんな未来が来るとはな」

世界中が混乱していた。

歓喜は消え、代わりに広がるのは困惑と疑念。

それでも、確かに一つの事実だけが残る。

敵が、言葉を選んだ。

戦いではなく、理解を。

空に浮かぶ青い光は、なおも静かに点滅を続けている。

まるで、人類の返答を待つかのように。

そして今――

人類は選ばなければならない。

戦い続けるのか。

それとも、未知と向き合うのか。

誰もが答えを持たないまま、時間だけが過ぎていく。

だが確実に、歴史は動いていた。

人類とギアノイド。

二つの存在の未来を分ける選択が、まさに下されようとしている――。

 

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