蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
ヴェスペリオン艦橋の空気は、まだ張り詰めたままだった。
ゲンゾウは一歩前に出ると、迷いなく指示を下す。
「地上へ回線を開け。全チャネル優先接続――各国首脳へ直通だ」
「了解、接続します!」
数秒後、巨大なスクリーンに各国の代表者たちの顔が次々と映し出される。
疲労、緊張、そして拭いきれない恐怖。
「……状況は聞いているはずだ」
ゲンゾウの低い声が響く。
「ギアノイドは、対話を求めている」
ざわめきが走る。
「対話だと?罠ではないのか」
「何か別の意図があるはずだ」
「時間稼ぎの可能性もある」
疑念と推測が飛び交い、会議は一瞬で混乱に飲み込まれる。
だが――
「黙れ」
たった一言だった。
しかしその声は、すべてを切り裂く刃のように場を沈黙させた。
ゲンゾウの視線が、画面越しに一人ひとりを貫く。
「ギアノイドは対話を望んだ。それは事実だ」
誰も反論できない。
「問う」
わずかに間を置く。
「それでも人類は、ギアノイドと戦うのか?」
重い沈黙。
「言葉の通じない獣として扱うのか」
その言葉は、責めではなく――突きつける現実だった。
さらに続ける。
「あの光景を忘れたか」
誰かが息を呑む。
「ギアノイドの一部は、命を賭して連合艦隊を守った」
スクリーンに、あの映像がフラッシュバックする。
青い光が盾となり、崩れ落ちる瞬間。
「貴様らも見ていたはずだ」
沈黙。
完全な、言葉の消えた静寂。
そして――
ゲンゾウは宣言する。
「今こそ決断の時だ」
その声には、一切の揺らぎがなかった。
「次元リアクター管理局所長、朝倉ゲンゾウの名において宣言する!」
空気が張り詰める。
「ギアノイドとの対話を――受け入れる!各国、異議は⁉」
静寂。
誰もすぐには口を開けなかった。
だが、やがて――
「……異議なし」
ぽつりと、一人。
「異議なし」
続く声。
「異議なし」
「同意する」
「受け入れるべきだ」
その言葉は波のように広がり、やがてすべてを満たした。
承認。
人類は、選んだのだ。
戦いではなく――対話を。
ゲンゾウは小さく頷く。
「よし」
振り返る。
「オペレーター!」
「はい!」
「ギアノイドへ返信しろ。モールス信号で構わん」
一瞬の間。
「――対話を受け入れる、と」
「了解!」
再び、空へ。
人類の意思が、光となって放たれる。
短く、長く、規則正しく。
その点滅は、確かに意味を持っていた。
応答。
それは、種族を越えた最初の“言葉”。
青い光が、それを受け取る。
わずかに――ほんのわずかに、脈動が変わった。
まるで、応じるかのように。
こうして――
人類とギアノイド。
二つの存在の間に、初めての対話が生まれようとしていた。
銃ではなく、言葉によって。
恐怖ではなく、理解によって。
未来はまだ見えない。
だが確かに、道は開かれた。
光が、静かに瞬いている。
それはもはや信号ではない。
希望だった。