蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
ギアノイドとの対話を受け入れる、その決断が成された。
そこからの人類は非常にあわただしかった。
表向きには「準備」と呼ばれたそれは、実際には混乱に近かった。
対話のための場所。
各国の利害を調整した人員の選抜。
警備体制、情報統制、翻訳プロトコル、万が一の事態への対応策――。
決めなければならないことは、いくらでもあった。
誰も経験したことのない交渉。
前例など、どこにも存在しない。
ある者は言った。「外交だ」と。
別の者は言った。「これはもう、種族間交渉だ」と。
結論は出ないまま、それでも時間だけが進んでいく。
やがて人類側は、一つの決定を下した。
――準備期間が必要だ。
それは当然の要求であり、同時に祈りにも近かった。
未知と向き合うには、あまりにも時間が足りない。
モールス信号を通じて、ギアノイド側へ通達が送られる。
対話のための時間と場所を整えたい。
そのための猶予を求める――と。
応答は、驚くほど早かった。
そして、あまりにも簡潔だった。
――承諾する。
ただそれだけ。
交渉でも駆け引きでもない。
まるで、当然のことを受け入れるかのような自然さだった。
だが、その通信にはもう一つ、付随する情報があった。
ギアノイド側の代表についての通達である。
曰く――
代表個体は、身長およそ二メートル弱。
形態は、極めて人類に近似している。
場所設定の参考にされたし。
その一文が読み上げられた瞬間、各国関係者の空気がわずかに緩んだ。
目に見えない緊張が、ほんの少しだけほどける。
中には、露骨に安堵の息を漏らす者もいた。
無理もない。
彼らの中には、巨大な金属の塊、あるいは理解不能な異形と対峙する覚悟を固めていた者も少なくなかったのだ。
それが――「ほぼ人間と同じ大きさ」で、「人に近い形」。
その事実だけで、心理的な距離は大きく縮まる。
もちろん、本質は何一つ変わっていない。
相手は依然として、圧倒的に未知の存在である。
それでも、
「向き合えるかもしれない」と思えることは、何より重要だった。
――そして、三ヶ月。
短いようでいて、長い。
長いようでいて、あまりにも短い時間。
日本の代表、そして実質的に人類の代表を勤める次元リアクター管理局を中心に、
「人類」という単位で動き始める。情報は統合され、専門家たちは昼夜の区別なく働き続けた。
そして関係者たちは――最も難しい問題に直面していた。
「何を話すべきか」。
友好か。
警戒か。
あるいは、ただ理解を求めるべきか。
答えは出ない。
だが、出さなければならない。
時間は、確実に終わりへ向かっていた。
カレンダーの数字が、一つ、また一つと消えていく。
そして――
対話の日が、目前に迫っていた。
人類はまだ、自分たちが何と向き合おうとしているのか、その本当の意味を知らない。
ただ一つ確かなのは。
その日を境に、世界はもう元には戻らないということだけだった。