蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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3章㉞会議

輸送船のハッチが開いた瞬間、地球の空気が静かに流れ込んだ。

四体のギアノイド――カイン、アベル、セト、ヤハウェは、ためらいなくその一歩を踏み出す。

脚が地面に触れる。

その、ごく当たり前の動作に、彼らはわずかな関心を示した。

「これが“重力”というやつか」

カインが足元を見下ろしながら言う。

「概念としては理解していたが、実際に体験するのは初めてだな」

アベルが応じる。

「常に下方向への加速度……なるほど、行動制約としては非効率だが、安定性という点では合理的だ」

セトは周囲の空気をゆっくりと吸い込むような仕草をした。

「大気との相互作用も興味深い。抵抗、温度、圧力……すべてが連続している」

「……思ったより“重い”な」

ヤハウェが小さく呟く。その声音には、わずかな愉悦が混じっていた。

「だが、悪くない」

四体は、まるで新しい遊び場に降り立ったかのように周囲を観察している。

――その様子を、誘導係は冷や汗を流しながら見守っていた。

「こ、こちらでございます……」

声がわずかに裏返る。

ギアノイドたちは素直に従い、用意された車両へと向かった。

「今度は地上専用の乗物か」

カインが車体に手を触れる。

「構造が単純だな。だが環境に最適化されている」

「効率は低いが、用途は明確だ」

アベルが頷く。

「面白いな」

セトが笑うように言った。

ヤハウェはすでに後部座席に腰を下ろし、窓の外を眺めている。

――談笑。

それはあまりにも自然だった。

運転席の男は、ハンドルを握る手に力を込めていた。

生きた心地がしない。

背後にいるのは、人類が到底対抗できない存在。

それなのに、

バックミラーに映る彼らは、ただ静かに会話を楽しんでいる。

理解が追いつかない。

恐怖と困惑が、胸の中でせめぎ合っていた。

やがて車列は、目的地へと到着する。

日本旧国会議事堂。

かつて国家の意思が交差していたその建物は、今、種族の未来を賭けた舞台へと変わろうとしていた。

ギアノイドたちは車を降り、ゆっくりと中へ進む。

案内員が先導し、重厚な廊下を抜け、待合室へと通す。

「ま、まもなく開始されます……」

緊張で声が震えている。

「うむ」

カインが短く応じた。

それだけで、場の空気がわずかに整う。

 

――そして、扉が開く。

会議室。

各国の代表、軍関係者、科学者たちが一斉に視線を向けた。

その瞬間、空気が凍る。

――あれが。

――ギアノイド?

誰もが心の中で同じ言葉を繰り返す。

人の形。

人の動き。

人のように歩き、人のように視線を動かし、人のように会話している。

だが、決定的に“違う”。

遠目からでも分かる。

その存在の密度が、何かが、根本から異なる。

それでも――

言葉は通じている。

しかも、驚くほど流暢に。

その事実が、人類の認識をさらに混乱させていた。

警戒は、完全には解けない。

だが同時に、恐怖だけでもなくなっている。

奇妙な均衡。

ギアノイドたちはそんな空気を意に介した様子もなく、静かに中央へと歩み出る。

やがて、所定の位置に立つ。

――会議が、始まる。

 

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