蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
一人の男が前へ出た。
整えられた姿勢、揺るがない視線。
「ようこそ、地球へ」
低く、しかしはっきりとした声が響く。
「私は次元リアクター管理局所長、朝倉ゲンゾウ」
わずかな間。
「地球上における次元リアクター、および次元粒子管理の責任者である」
視線はまっすぐ、四体へ向けられている。
「本対話において、人類の代表を務める」
静寂。
その言葉の重みが、ゆっくりと場に沈んでいく。
やがて――
ギアノイド側が動いた。
「カインだ」
最初に名乗ったのは、あの穏やかな声の存在。
「アベル」
続いて、冷静な響き。
「セト」
淡々とした声。
「ヤハウェ」
最後に、静かな威圧を含んだ声が落ちる。
四体はわずかに間を置き、そして告げた。
「我々は、ギアノイドにおける上位者――そう表現するのが適切だろう」
その言葉は、誇示でも威嚇でもない。
ただの“事実”として、そこにあった。
人類は、その意味を理解する。
理解してしまう。
――この場にいるのは、ただの使者ではない。
彼ら自身が、“意思”そのものなのだと。
静寂が、再び会議室を包む。
そして、誰もが悟り始めていた。
ここから交わされる言葉一つ一つが、
人類の未来を決定づけることになるのだと。
「カイン」「アベル」「セト」「ヤハウェ」。
その名が発せられた瞬間――会議室の空気が、わずかに揺れた。
ざわめきは小さい。
だが確かに広がっていく。
それも無理はない。
その名前は、神話に詳しい人間なら起源が分かる名前だった。
人であった者、神とされた存在。
時に罪を背負い、時に世界の根幹に関わる名。
それらが、今、目の前の“異星存在”から告げられたのだ。
「……神を気取るつもりか……?」
誰かが、思わず漏らした。
小さな声。だが、この静寂の中では十分すぎるほど響いた。
次の瞬間。
四体の視線が、わずかにその方向へ向けられる。
――理解している。
その事実に、場の緊張が一段階引き上がる。
やがて、カインが一歩前に出た。
「すまない」
穏やかな声だった。
「我々の名は、地球上の単語を参考にしている」
静かに、しかしはっきりと告げる。
「そこに意味はない。我々は“神”という概念を理解してはいるが、自分たちが神であるという認識はない」
一拍。
「単なる固有名詞として捉えていただいて構わない」
その言葉は、驚くほど率直だった。
誇示も、皮肉も、挑発もない。
ただ誤解を解くためだけの説明。
――どよめきが広がる。
緊張が、わずかに形を変える。
恐怖から、困惑へ。
そしてほんのわずかに、理解へ。
「……そうか」
朝倉ゲンゾウが口を開いた。
その声は落ち着いている。だが、完全に平静というわけでもない。
「では、カイン殿。他の皆も――会議を始めよう」
四体のギアノイドは、ほぼ同時に小さく頷いた。
それは合図のようでもあり、単なる同意のようでもあった。