蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

122 / 130
3章㊱歴史

ゲンゾウは一歩進み、場を見渡す。

「さて、“対話”ということで皆集まったわけだが……」

ゆっくりと言葉を選ぶ。

「場は整えた。しかし、どのように進行するかについては、あえて事前には定めていない」

視線をギアノイドへ向ける。

「そちらからの要望はあるだろうか」

わずかな沈黙。

四体は互いに視線を交わすでもなく、しかし確かに“考えている”気配を見せた。

数秒。

やがてカインが口を開く。

「では――まず、人類について知りたい」

会場の空気が止まる。

「人類……?」

誰かが反復する。

「人類の履歴。歴史と言うべきか」

アベルが続ける。

「可能な限り簡潔に説明していただけるだろうか」

再び、どよめき。

予想外だった。

技術でもない。

軍事でもない。

交渉条件でもない。

“歴史”。

それはあまりにも根源的で、そしてあまりにも曖昧な問い。

ゲンゾウは、ほんの一瞬だけ目を伏せた。

――試されている。

何を語るかではない。

“どう語るか”を。

「分かった」

短く答える。

そして振り返り、部下へと指示を出す。

「資料を」

すぐに準備が動き出す。

映像、年表、データの整理。

だがゲンゾウの頭の中では、すでに別の思考が走っていた。

――どこから話す?

原始時代か。

文明の誕生か。

戦争の歴史か。

いや、

おそらく、それらは“前座”に過ぎない。

彼らが本当に知りたいのは――

次元粒子。

それが発見され、世界が変質したあの瞬間以降。

人類が“ただの生命”であることをやめかけた、その転換点。

ゲンゾウは顔を上げる。

決断は早かった。

過去は語る。

だが、核心へと繋がる形で。

やがて、映像が点灯する。

人類の歴史が、語られようとしていた。

そしてそれは同時に――

人類自身が、自らを定義し直す時間でもあった。

 

人類の歴史は、静かに、しかし確かな重みをもって語られていった。

原始の火。

農耕。

都市の誕生。

国家と戦争。

科学と産業。

映像と共に流れるそれは、あまりにも長く、あまりにも複雑だった。

だがギアノイドたちは、一切の口を挟まず、ただ聞いている。

評価もしない。

否定もしない。

ただ、“理解しよう”としている。

やがて――

語りは、一つの時代へと辿り着く。

空気が変わった。

「……ここからが、転換点だ」

朝倉ゲンゾウの声が、わずかに低くなる。

映像が切り替わる。

数式。

実験装置。

そして――一人の科学者。

「とある科学者が、“次元粒子”を発見した」

ざわめきはない。

だが、誰もが息を潜めている。

「それはエネルギーでもあり、媒質でもあり、既存の物理法則を拡張する鍵でもあった」

映像には、初期の実験から応用技術への急速な進展が映し出される。

「現在、地球上には四機の次元リアクタープラントが存在する」

巨大な施設の映像。

都市のような規模。

「それは人類の生存基盤であり――生命線だ」

言葉が、重く落ちる。

そして、わずかな間。

「……その直後だ」

ゲンゾウの視線が、ギアノイドへと向けられる。

「あなたたちが飛来したのは」

空気が凍る。

映像は変わる。

宇宙。

光。

未知の存在。

「次元粒子を求めるようにして」

誰も動かない。

「戦争が始まった」

その一言で、すべてが変わる。

映像には、破壊が映る。

艦隊。

閃光。

消失。

だがゲンゾウの声は、変わらない。

抑揚もなく、淡々と。

「人類の戦力は壊滅的打撃を受けた」

一切の誇張はない。

「連合宇宙艦隊は、大損失を出した」

数字が表示される。

だが誰もそれを読み上げない。

必要がないからだ。

その意味は、誰にでも分かる。

沈黙。

重い沈黙。

それでも、ゲンゾウは止まらない。

――嘘は言わない。

当事者だからこそ。

隠す意味がないからこそ。

「そして――」

一瞬の間。

「人類は、“ブルーギアノイド”と呼称する存在により、生存を許された」

映像に現れる、青い光。

それは明らかに、他のギアノイドとは異なる振る舞いをしていた。

「彼らの介入がなければ、人類はここにはいない」

言い切る。

「その結果として、現在の均衡がある」

そして最後に。

「……対話に至った」

言葉が、静かに終わる。

「以上が――人類側から見た歴史だ」

沈黙。

完全な静寂。

誰も、すぐには言葉を発せない。

その中で――

ギアノイドたちは、ゆっくりと頷いた。

「なるほど」

カインが言う。

その声に、皮肉はない。

「理解した」

アベル。

「事実関係に齟齬は見られない」

セト。

「認識として妥当だ」

ヤハウェ。

それは評価ではない。

否定でもない。

ただ、“納得”だった。

そのあまりの率直さに、会場の空気がさらに静まり返る。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。