蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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3章㊳真実

人類文明を支える根幹。

エネルギー革命をもたらした奇跡の資源。

それが――ギアノイドの死骸だった。

「我々と完全に同質のエネルギー、これほど美味な食事はない」

カインはそう言った。

「全宇宙を探したとしても、我々にとってこれ以上のご馳走は存在しないだろう」

誰も反論できなかった。

人類は今までギアノイドを恐れていた。

だが真実は違う。

人類はギアノイドによって今日まで生かされていたのである。

人類はそれと知らず、そのエネルギーを使用していた。

その事実が明かされた瞬間、人類とギアノイドの歴史は、誰も予想しなかった形で一つに繋がったのである。

 

会議室に広がるどよめきの中で――ただ一人、ゲンゾウだけが目を閉じていた。

驚きではない。

確認だった。

――(全てリョウイチ君の言った通りか…)

次元粒子の正体。

それは彼にとって、初めて知る事実ではなかった。

脳裏に、過去の記憶が蘇る。

――薄暗い倉庫。

静かな夜。

向かい合う二人。

「……お義父さん」

リョウイチの声は、どこか疲れていた。

「やはりこれは、私の罪です」

ゲンゾウは何も言わず、ただ聞いていた。

「次元粒子の正体を知った上で、私は利用した」

声が、わずかに震えている。

「人類を救うためとはいえ……それでも」

一度、言葉が途切れる。

「私自らが説明すること……それが、贖罪かと……」

静寂。

時計の針の音だけが、やけに大きく響く。

やがて、ゲンゾウが口を開いた。

「……いや」

短く、しかしはっきりと。

「君は、すでに“死んだことになっている”」

リョウイチが顔を上げる。

「それに」

ゲンゾウの声は、静かに重い。

「これは君一人の責務ではない」

一歩、踏み出す。

「人類全体が選び取った道じゃ」

視線が、まっすぐ向けられる。

「責任というのはな、若い者が背負うものではない」

一拍。

「こういうものは――年寄りの仕事じゃ」

わずかに口元が緩む。

「あとは任せておけ」

リョウイチの機械の身体が、かすかに震えた。

「……お義父さん…」

 

――そして、現在。

ゲンゾウはゆっくりと目を開いた。

どよめきはまだ収まらない。

混乱。

動揺。

否定。

それらが渦巻いている。

だが、

「――静まれ」

その一言で、空気が凍りついた。

声は大きくない。

だが、圧倒的な重みがあった。

「今更、次元粒子の正体を知ったところで同じじゃ」

誰も言葉を挟めない。

「我々は、それによって生かされてきた」

一歩、前へ出る。

「その事実を、まず認めるべきじゃろう!」

沈黙。

やがて――

「……確かに……」

「……事実だ……」

小さな声が、ぽつりぽつりと漏れる。

混乱は消えない。

だが、暴走は止まった。

理性が、かろうじて戻ってくる。

ゲンゾウはそれを確認すると、再び場を見渡した。

「さて」

声が、場を引き締める。

「人類の状況、ギアノイドの正体、次元粒子の正体――」

一つ一つ、区切るように。

「必要な情報は、ほぼ出そろった」

視線が全員をなぞる。

「異論はあるか?」

――ない。

言葉は発せられないが、それは明確な同意だった。

ゲンゾウは頷く。

「では」

一拍。

「これから“どうするか”が問題じゃ」

その言葉に、再び空気が張り詰める。

逃げられない問い。

そして、最も重い選択。

ゲンゾウは、ゆっくりとギアノイドへ向き直った。

「確認する」

その声は、これまで以上に鋭い。

「ギアノイド側は、次元粒子を欲している――」

一瞬の間。

「その認識で、間違いないな?」

「そうだ」

カインが即答する。

迷いはない。

その一言で、会場が再び揺れる。

だが今度は、誰も声を荒げない。

ただ、息を呑む。

ゲンゾウは続ける。

「つまり――」

言葉を選びながらも、逃げない。

「あなた方の要求は、“次元粒子の返還”ということになるのか?」

その瞬間。

誰もが理解した。

それが意味するものを。

次元粒子は人類の生命線。

それを差し出すということは――

文明の崩壊。

社会の停止。

そして、緩やかな滅亡。

会議室の温度が、下がったように感じられる。

誰かの喉が鳴る音が、やけに大きく響いた。

逃げ場はない。

選択肢も、まだ見えない。

すべては――

ギアノイドの返答にかかっている。

 

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