蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
視線が、四体へと集中する。
彼らは、変わらず静かだった。
動揺も、躊躇もない。
ただ――
次の言葉を、選んでいる。
その一言が、世界の未来を決める。
そして、
ギアノイド側の答えが、告げられようとしていた。
静まり返った会場に、低く、再度重い声が落ちた。
ゲンゾウが、ゆっくりと口を開く。
「――次元リアクターの核。過去のギアノイドの遺体の返却……それが望みか?」
その一言で、場の空気が凍りついた。
誰もが理解している。
それを実行すれば――次元リアクタープラントは停止する。
エネルギーは枯渇し、文明は崩壊し、やがて人類は滅びる。
否応なく、その未来が脳裏に浮かぶ。
ざわめきは起きない。
代わりに、重苦しい沈黙が、全員を押し潰していた。
だが――
「否」
カインの冷静な声。
静寂を切り裂いたのは、ギアノイド側の声だった。
「否定する」
はっきりとした拒絶。
顔を上げる者が増える。
「過去の同胞の亡骸。あれの所有権は、すでに我々にはないと認識している」
「……は?」
思わず漏れたとある研究者の1人の声が、引き金のように会場を揺らした。
どよめきが、一気に広がる。
ゲンゾウでさえ、わずかに目を見開いていた。
「では……何を望む?」
低く問い返す。
ギアノイドの代表――カインが、一歩前に出た。
「我々の要求は――」
一拍の間。
「次元粒子の、部分的かつ定期的な譲渡である」
空気が、止まった。
「人類の滅びは、我々は望んでいない」
さらに続ける。
「簡潔に言おう。……次元粒子を、分けてほしい」
――どよめき。
今度は、抑えきれなかった。
誰もが同じ結論に至っていたからだ。
(全て返せ。さもなくば滅ぼす――そう来るはずだった。そう予想していた)
だが、提示されたのは――共存の条件。
あまりにも、拍子抜けで。
あまりにも、人類に有利すぎる。
「……量は?」
ゲンゾウが問う。
その声には、わずかな警戒が混じっていた。
カインは迷わず答える。
「人類が生存に必要とする量、その余剰分で十分だ」
再び、ざわめきが広がる。
「定期的な譲渡が確約されるなら、その量は人類側の事情を考慮しよう」
「……!?」
驚愕が、会場を満たした。
――あり得ない。
――何か裏がある。
――でなければ、こんな条件が出るはずがない。
疑念が渦巻く中、カインは静かに言った。
「信じ難いのも無理はない。だが、これは――」
一瞬、視線が遠くを見る。
「“蒼き翼”と協議した結果、我々が選んだ答えだ」
その名に――
空気が、変わった。
蒼き翼。
そこから連想できるものなど一つしかない。
蒼き英雄。
それを知らぬ者は、この場にいない。
人類側の英雄。
終戦へと導いた存在。
そして――その意志が選んだ結論。
“分かち合うこと”。
誰も、言葉を発せなかった。
ただ、沈黙だけが広がる。
その中で、ゲンゾウは静かに目を伏せた。
(……蒼き翼か…)
脳裏に浮かぶのは、一人の少年の面影。自らの孫。
(やはり――この状況を作り上げたのが…)
ゆっくりと、息を吐く。
「あやつめ……」
かすかな苦笑が、口元に浮かぶ。
「とんでもないことを、しでかしおったな……」
だがその目は――
確かに、未来を見据えていた。