蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
ざわめきは、まだ収まらない。
否――むしろ広がっていた。
困惑と警戒、そして微かな期待が入り混じり、会場は異様な熱を帯びている。
その只中で、カインは再び一歩、前に出た。
「更に提案を行う」
その一言で、空気が張り詰める。
「次元粒子の定期譲渡。その過程において――」
静かに、しかし確実に言葉を重ねる。
「我々ギアノイドは、人類が現状有していない技術の提供も可能である。人類側の要望次第ではあるが」
――どよめき。
先ほどとは質の違う、鋭い動揺。
誰もが息を呑む。
「例えば――」
カインの視線が、会場の一角へ向けられる。
「我々が搭乗させてもらった宇宙用移動機械、ならびに地上用移動機械」
一瞬の間。宇宙輸送機と車の事だ。
「あれらの次元粒子使用効率には、明確な“無駄”があると認識した」
ざわめきが、一段と強くなる。
「その修正案、ならびに技術体系を提供することができる」
――会場が揺れた。
驚愕が、今度こそ抑えきれない形で噴き出す。
(効率改善……だと?)
(エネルギー問題の根幹に関わる……)
(それを、無償で……?)
誰もが疑念を抱く。
だが、それ以上に――理解してしまう。
それが実現すれば、人類の技術水準は一段どころではなく跳ね上がる。
カインは、さらに続けた。
「加えて――」
その声音が、わずかに低くなる。
「我々は、有機生命体である人類の構造解析を、すでに完了している」
解析の経緯および方法については述べない。
必要が無いと判断している。
淡々と告げる。
その裏にあるものを、あえて語らない。
解析の経緯について、心当たりがあるのはゲンゾウだけだった。
カインの言葉は止まらない。
「その結果として、人類が現在、治療不能としている疾患――ならびに重篤な損傷の修復に対し、我々ギアノイドの組織を用いることで、代替機能としての補完が可能である」
――静寂。
完全な沈黙が、会場を支配した。
音が消えたかのような、重い無音。
(不治の病……が?)
(治る……?)
(身体の欠損すら……?)
誰一人、すぐには反応できない。
あまりにも、現実離れしていた。
あまりにも――都合が良すぎた。
ギアノイド側は、それ以上は語らない。
だが、
(……すでに実証済み、か)
ゲンゾウだけは、察していた。
しかし、ゲンゾウは疑問を投げかける。
「……なぜだ」
その声は、かすれていた。
「なぜ、そこまでする」
問いは、誰の胸にもあった。
「次元粒子の分与、技術提供、医療技術……」
「いずれも、人類側に利益が偏りすぎている」
疑念が、言葉となって溢れる。
「我々に都合が良すぎる」
「対価として釣り合わない」
そして――核心。
「真意を、お聞かせ願いたい」
視線が、一斉にギアノイドへと向けられる。
カインは、しばし沈黙した。
その沈黙は、拒絶ではない。
選んでいるのだ。
どこまで語るかを。
やがて――
ゆっくりと、口を開いた。
「……我々の真意は――」
その言葉が紡がれる直前。
会場の誰もが、息を止めた。
人類の未来を左右する“理由”が語られる。