蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
誰もが、言葉を失っていた。
カインの説明は、あまりにも重く――そして、あまりにも鮮烈だった。
蒼き英雄が成し遂げたもの。
ギアノイド過激派の撃破。
そして、人類とギアノイドを繋ぐ“橋”となったこと。
もはや――偉業としか言いようがない。
静まり返る会場の中で。
ただ一人。
ゲンゾウだけが、わずかに口元を緩めていた。
(よくもまあ……ここまでやりおった)
胸の奥に込み上げるのは、驚きでも、呆れでもない。
純粋な――誇り。
(あやつめ……)
かすかに息を吐く。
その目には、確かな歓喜が宿っていた。
その時、
「――我々は」
カインの声が、再び場を引き締める。
「この場において提示すべき情報は、すべて提示したと判断する」
淡々と、しかし揺るぎなく。
「以後は――人類側の判断を待つ」
それだけ告げると。
ギアノイドたちは、一斉に席へと戻った。
まるで、すでに役目は終えたと言わんばかりに。
残されたのは――選択だけ。
ゲンゾウが、ゆっくりと口を開く。
「……しばし、時間をもらおう」
カインは即答した。
「いくらでも待とう」
その一言に、焦りは一切ない。
ただ、信じているようだった。
人類の選択を。
――そして、討論が始まる。
だが、
それは建設的なものとは言い難かった。
「責任はどうする!」
「リスクが高すぎる!」
「いや、これは機会だ!」
「罠かもしれない!」
声がぶつかり合う。
責任の押し付け合い。
決断の先延ばし。
混乱、困惑、希望、疑念――
あらゆる感情が渦を巻く。
そして、
「……いい加減にしろ!」
低く、鋭い声が、それらすべてを断ち切った。
ゲンゾウだった。
その一声で、会場が凍りつく。
「くだらん話はやめろ」
圧が、場を支配する。
「今考えるべきは一つだ」
一歩、前に出る。
「ギアノイドの提案を――受け入れるか、拒否するか」
それだけ。
それ以外は、すべて枝葉だ。
沈黙。
誰も反論できない。
「……今一度、考えろ」
静かに、だが深く響く声。
「ギアノイドという地球外生命体を拒絶するのか」
一拍。
「それとも――」
わずかに視線を上げる。
「蒼き英雄が示した通り、対話を受け入れ、共存の道を選ぶのか」
言葉が、突き刺さる。
「今こそ――決断する時だ」
完全な静寂。
誰もが、己の内と向き合う。
やがて、
「……決をとる」
ざわめきが、わずかに戻る。
ゲンゾウは小さく息を吐いた。
「やれやれ……」
(答えなど、最初から決まっておる)
自らの中では、すでに結論は出ていた。
孫が示した未来。
その光明を、否定する理由など――ない。
「では――」
時間が来た。
ゲンゾウが、宣言する。
「提案を受け入れる場合、賛成を」
表示装置に、結果が集計されていく。
(まあ、ある程度は反対が出るじゃろうな……)
現実的な見立て。
(その時は、抑え込まんとな……)
だが、
「……ん?」
次の瞬間、
ゲンゾウの思考が、止まった。
表示された結果は、
――拒否 0
――賛成 168(全数)
「……なん…じゃと?」
思わず、声が漏れる。
誰もが、同じ表情をしていた。
信じられない、という顔。
だが――
それは紛れもない事実だった。
人類は、今。
一つの答えを選んだのだ。
ゲンゾウは、しばし呆然とし――
やがて、ゆっくりと息を吐いた。
「……まあ」
小さく呟く。
「全員が納得したわけではあるまい」
それでも。
「それでも――」
視線を上げる。
「大きな一歩、か……」
そして、
その場の全てを背負う者として。
はっきりと、宣言した。
「――決はなされた」
立ち上がる。
「次元リアクター管理局所長、並びに人類代表として告げる」
声が、会場全体に響き渡る。
「我々人類は――ギアノイドの提案を受け入れる」
一瞬の静寂。
そして、
「人類は、ギアノイドとの共生を選択する」
その言葉と同時に――
誰かが立ち上がった。
そして、拍手。
ひとつ、またひとつと広がり――
やがて、会場全体を包み込む。
拍手。
拍手。
拍手。
人類の選択が、刻まれた瞬間だった。
無論――
この決断に、すべてが賛同するわけではない。
外では、反対の声も上がるだろう。
混乱も、軋轢も、生まれる。
それでも、
それでもなお――
これは、確かな一歩だ。
未来へと進むための、
最初の一歩だった。