蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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1章⑨君の隣

久しぶりの休日だった。

警報は鳴らない。呼び出しもない。静かな朝。

キッチンには、エリスの姿があった。

「……よし」

完成した料理を見て、小さく頷く。今日は、少しだけ気合

を入れていた。理由は単純。

「ユーヤ、起きて」

部屋の扉をノックする。

「……ん」

眠そうな声。数秒後、扉が開く。

「おはよう」

「ああ、おはよう」

いつも通りのやり取り。だが、今日は違う。

「今日、休み?」

エリスが先に言う。

「ああ」

「……出かける?…一緒に…」

一瞬の間。ユーヤは少し考える。

「……いいよ」

その一言で、エリスの表情がほんの少しだけ明るくなった。

 

街へ出た。

復興都市は、穏やかだった。人々の笑い声、並ぶ店。

戦争が遠く感じる時間。

二人は並んで歩く。

距離は、いつもと同じ。

でも、エリスの歩幅は少しだけ小さい。

ユーヤに合わせているのではなく、“離れないように”だった。

「……最近、忙しいね」

ぽつりと呟く。

「ああ」

「大変?」

「まあな」

短い会話。だが、エリスは少し俯く。

「……寂しい」

小さな声。ユーヤは足を止める。

「……ごめん」

それだけ。だが、エリスは顔を上げる。

その一言で、少し救われる。

 

カフェ。

二人は席に座る。窓の外、青空。

「これ、おいしい」

エリスが微笑む。ユーヤはそれを見る。

「そうか…よかった」

静かな時間。だが、エリスの視線はずっとユーヤに向いていた。

「ねえ」

「ん?」

少しだけ勇気を出す。

「……危ないこと、しないで」

まっすぐな言葉。ユーヤは一瞬だけ黙る。

「…無理…だな…」

正直な答え。エリスは少し眉を下げる。

「……知ってる」

分かっている。だからこそ、次の言葉が出る。

「でも」

一歩、近づく。

「……帰ってきて」

その距離は、今までで一番近い。ユーヤはその目を見る。 

真っ直ぐで、逃げ場がない。

「……ああ」

それしか言えなかった。だが、エリスは少しだけ笑う。

 

帰り道。

夕焼け。二人は並んで歩く。ほんの少しだけ、手が触れる。

一瞬だけエリスは驚く。

でも、離さない。そのまま――そっと、手を握る。

弱く。でも、確かに。ユーヤは何も言わない。

振りほどかない。

それだけで、エリスの心臓は大きく跳ねる。

「……ユーヤ」

「ん?」

言葉が出そうになる。でも、飲み込む。

「……なんでもない」

まだ言えない。でも、もう止められない。

 

夜。エリスは1人ベッドの上で枕を抱えていた。

自分の胸に手を当てる。

ユーヤと手をつないだ時のように心臓の鼓動が早くなる。

 

「…ユーヤ……………好き」 

 

 

【挿絵表示】

 

 

小さな声。誰にも聞こえない。

だが、確かにそこにある想い。

それはもう――止まらない。

 

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