蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
警報は、低く鳴っていた。
これまでとは違う、どこか異質な音。
『エネルギー反応、検出』
『降下地点、日本近海』
『……反応数、一』
管制室にざわめきが広がる。
「一体……?」
少なすぎる。だが――
「……異常値だ」
オペレーターの声が震える。
「出力、過去最大反応を上回っています!」
一体で、群体以上。
一見すると人型にも見える黒い異形。
その意味は――
格納庫。
ユーヤはすでに機体へ向かう。
「情報は?」
ナツキが答える。
『単体。だが規模不明』
『これまでのデータに一致しない』
「……新型…最適化個体なのか?」
『分からない。でも――』
一瞬、言葉が止まる。
『嫌な感じがする』
珍しい言い方だった。
ユーヤはコックピットへ滑り込む。
『神経接続、正常』
「フリューゲル、出る」
射出。光の翼が展開する。
戦場。
日本配属の連合軍バスターアームズ小隊が迎撃に入る。
だが、空は静かだった。敵が、いない。
「……どこだ」
センサーを最大にする。その時――
「――っ!?」
視界が歪む。
“そこにいた”。
突然、目の前に。
黒。これまでのギアノイドとは違う。
金属質の外殻。無機質な形状。
そして――“静かすぎる”。
次の瞬間、小隊反応はロストし通信も途絶した。
管制室のモニターには、ただ黒い海と空だけが映っている。
「な、なんだ……?」
若いオペレーターが声を震わせる。
「小隊、応答しろ!返答を!」
連合軍指令室のベテランが必死に呼びかけるが、返事はない。
「全機、スクランブル準備!対象確認!」
別のオペレーターが叫ぶ。
画面には、わずかに揺れる黒い影。
次元リアクター管理局の空気が、一瞬で凍りつく。
「……一体で、群体以上の出力……?」
誰かがつぶやく。
「確認中……いや、異常よ。過去のデータとまったく一致しない!」
ナツキが眉をひそめ、椅子から立ち上がる。
「所長どうすれば…」
オペレーターの声がさらに震える。
「落ち着け。まずは状況を正確に把握しろ。」
ゲンゾウが叫ぶが、口調の裏に動揺が見える。
「……一体で、連合軍小隊全滅か」
別のスタッフが息を呑む。
フリューゲルが戦域に到着する。
「……一体か」
ユーヤは構える。ライフル。
「――ッ!」
発射。直撃。だが――
「……効いてない?」
装甲に傷一つない。
次の瞬間、消える。
「なっ――」
背後。衝撃。フリューゲルが吹き飛ぶ。
『ユーヤ!?』
「……速い」
姿勢制御、再捕捉。
しかし、視界に入らない。“見えない”。
「どこだ……!」
次の瞬間、上空。振り下ろされる一撃。
回避。だが掠る。装甲に深い傷。
『損傷確認!』
ユーヤは歯を食いしばる。
「やるじゃないか……」
だが、恐怖はない。むしろ、集中が深まる。
フリューゲル、全開。光の翼が広がる。加速、残像。
互いに高速戦闘。
だが――
「……追いつかない」
相手の方が、わずかに上。
それでも――
「なら――」
イフリート展開。チャージ。放つ。直撃。爆発。
煙が晴れると――“無傷”の敵。
「……なに!?」
理解が追いつかない。その瞬間、敵が動く。
一瞬で距離を詰める。ユーヤは反応するが、間に合わない。
衝撃。フリューゲルが大きく弾かれる。
『ユーヤ!!』
ナツキの叫び。
ユーヤは息を吐く。
「……ぐっ⁉…くそっ…」
その言葉には、わずかな動揺が混じっていた。
空に対峙する二つの存在。
白と、黒。光と、影。
均衡は、崩れかけている。
ユーヤは構える。
「……倒せるか」
初めて浮かぶ疑問。
だが、その答えは、まだ出ない。
戦いは、続く。