蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
目覚めた時、視界には白い天井が広がっていた。
消毒液の匂い。
規則的な電子音。
意識がゆっくりと浮かび上がる。
「……ここは」
声が掠れる。
「次元リアクター管理局の医療棟…」
静かな声が返る。
視線を向けると、そこにいたのは――エリスだった。
「……無事だったか」
ユーヤの第一声。
エリスは一瞬、驚いた顔をする。
そして小さく、しかし確かな声で呟く。
「……ばかぁぁ……自分の心配してよぉ…」
「……ごめん」
ユーヤは少し目を閉じる。
「……負けたな」
悔しさが混じった声。
でも、心は折れていない。
「でも…」
ゆっくりと目を開く。
「次は勝つさ」
迷いのない声。
エリスは何も言えなかった。
(もう戦わなくていい…)
本当はそう言いたかった。
数日後。
ユーヤはまだベッドの上にいた。
身体のダメージは大きく、無理はできない。
「……退屈だな」
ぼそりと呟くと、すぐに隣から声が返る。
「ダメ」
エリスはベッド脇の椅子に座り、軽く腕を組む。
「ちゃんと治すのが先」
「分かってるよ」
「分かってない」
少しだけ頬を膨らませるエリスに、ユーヤは視線を逸らす。
「……悪い」
素直な謝罪。
「……いいよ」
小さく笑うその顔に、ユーヤは少しだけ安堵した。
夕方。
窓から夕陽が差し込む。
静かな時間が流れる。
エリスはそっとユーヤの手を握った。
「……ねえ」
「ん?」
ユーヤは少し迷うが、その目を向ける。
「怖かった」
その一言に、力がこもる。
「……帰ってこないかもって思った」
握られた手の温もり。
「……悪い」
何度目かの同じ言葉。
エリスは首を振る。
「謝らないで」
少し顔を近づけて、真っ直ぐに目を見つめる。
「……約束して」
「絶対、帰ってくるって」
ユーヤは、逃げ場のない視線に答える。
「……ああ」
静かに、しかし確かに言葉を落とす。
「約束する」
エリスの手が、わずかに震える。
それでも、嬉しそうな微笑がこぼれていた。
その日の夜。
エリスは椅子に座ったまま、ベッドの横で眠っていた。
ユーヤはその姿を静かに見つめる。
「……無理しすぎだ」
小さく呟き、ゆっくりと手を伸ばす。
髪に触れる感触は柔らかく、温かい。
一瞬だけ、そのまま手を置く。
「……ありがとな」
声は小さいが、確かに届く想い。
数日後、ユーヤはベッドを離れ、立ち上がる。
まだ完全ではない。だが、目は確かに前を見ていた。
「……待ってろ」
その言葉の先にあるのは、戦場か、敵か、それとも――未来か。
だが、決意は揺らがない。
再び戦うこと。
勝つこと。
彼は、もう立ち止まらない。