蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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1章⑬失われた翼

重い空気が、会議室を満たしていた。

国際連合・緊急協議。

各国代表の映像が並ぶ。

日本、EU、USA、中華。

誰もが理解していた。

今回の敗北の意味を。

 

会議室。

「まず結論から申し上げます」

次元リアクター管理局、技術主任の声が静かに響く。

「フリューゲルは――」

一瞬、全員の呼吸が止まった。

「修復不可能です」

その言葉は、静かに、しかし重く落ちた。

会議室の空気が、一瞬で沈む。

「……理由を」

EU代表が声を絞り出すように問う。

「機体フレーム、制御系統、粒子循環ラインが完全に崩壊しています」

「再構築には、設計者の知識が不可欠です」

その意味は明確だった。

「……関谷リョウイチがいない以上、再建は不可能か」

誰かが呟く。

否定する者はいない。

 

議論は続く。

「代替案はあるのか?」

USA代表が問いかける。

「量産機の強化しかありません」

管理局技術主任。

「しかし、あの個体には通用しません」

USA代表が眉をひそめる。

だが、誰も“フリューゲルの復活”は口にしない。

それは、もはや選択肢ではなかった。

 

管理局・格納庫。

フリューゲルは、そこにあった。

だが、かつての輝きは失われている。

装甲は剥がれ、内部が露出し、もはや“機体”というより残骸だった。

ユーヤは見上げる。

「……そうか」

短く呟く。

驚きはない。

分かっていた。

あの戦いの時点で。

「もう、動かないんだな」

誰に向けた言葉でもない。

それでも、その声には、わずかな寂しさが混じっていた。

 

その夜・自宅。

静かな食卓。

ナツキ、ユーヤ、エリス。

言葉はない。

みな、空気を読みながら箸を置く。

「……ユーヤ」

ナツキが口を開く。母としての、落ち着いた声。

「もう、いいわ」

ユーヤは顔を上げる。

「あなたは、十分やった」

「……」

視線は落ちるが、心は折れていない。

「フリューゲルは失われた」

「そして、あの敵は……」

言葉を選ぶ。

「今の人類では、対処が難しい」

それは、事実だった。

「だから――」

一瞬の間。

「パイロットは、退きなさい」

静かだが揺るがぬ宣告。

ユーヤは黙る。

隣でエリスが息を呑む。

 

ユーヤはついさっき、次元リアクター管理局で祖父に言われたことを思い出す。

「……ユーヤ」

祖父。朝倉ゲンゾウ。

いつもより、少し柔らかい。

「お前は、よくやった」

「……」

「だがな」

ゆっくりと続ける。

「死んだら、そこで終わりじゃ」

その言葉は重い。

ユーヤの胸に、静かに突き刺さる。

「リョウイチ君も……それを望んではおらん」

ユーヤの目がわずかに揺れる。

 

沈黙。

しばらく、誰も話さない。

呼吸だけが、静かに響く。

やがてユーヤが口を開く。

「……分かってる」

静かな声。

「フリューゲルはもう戦えない」

「俺も、あの敵には負けた」

事実を受け入れている。逃げていない。

「……でも」

顔を上げる。

「まだ、終わってない」

ナツキは目を細める。

「ユーヤ……」

「他に方法があるなら」

「それをやるだけだ」

迷いはない。

 

エリスは、ただ見つめる。

分かっている。

止まらないことを。止められないことを。

「……帰ってくるって約束した」

小さな声。

ユーヤは、その目を見る。

「……ああ…わかってるよ」

短く答える。

それだけで、エリスは何も言えなくなる。

 

 

ユーヤは再び格納庫を訪れていた。

解体され始めるフリューゲル。

切り離される装甲。

沈黙する機体。

それはまるで――

時代の終わりのようだった。

一方で、ユーヤは立っている。

何もない場所に。

それでも、

「……まだやれることはあるはずだ」

その目は、まだ死んでいない。

むしろ――

さらに強く、燃えていた。

 

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