蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
フリューゲルは、静かに解体されていた。
装甲は外され、フレームは分離され、かつて空を支配した
機体は、ただの残骸へと変わっていく。
だが、鋭い声が現場を止めた。
「そこは触るな」
作業員の手が止まる。
「……所長」
誰もが、その威圧に身を引く。
朝倉ゲンゾウは、ゆっくりと歩み寄る。
視線の先には、フリューゲルの中枢――コックピットの後方があった。
「……ここは、中枢は…最後じゃ。」
静かな声。だが、その奥には揺るがぬ意思があった。
「中枢……?」
ユーヤが呟く。
ゲンゾウは振り返り、ゆっくり頷く。
「そうじゃ」
「神経接続回路と、フリューゲルの核。
リョウイチ君しか詳細を知らないブラックボックス。
管理局の技術者も再現不可能で下手にさわれん。
なにせ、フリューゲルが次元粒子の補充無しで動いている原理すらわからんのじゃからな。」
そう、本来バスターアームズは次元粒子を貯蔵したバッテリー駆動方式。
次元リアクター管理局はフリューゲルの核を、小型だが次元リアクターと同等のものと判断していた。
時間当たりの生成量に限界はあるが、無限に次元粒子が尽きない異常なバスターアームズ。
その特異性を次元リアクター管理局は秘匿していた。
ゲンゾウが更に続ける。
「あれがフリューゲルの“本体”じゃな」
ユーヤの目がわずかに変わる。
「……あそこが無事だから、俺は生きてるってことか」
「そういうことじゃ」
ゲンゾウはわずかに笑った。
「リョウイチ君の奴、性格が悪くてな」
一番大事なものを、お前のすぐ後ろに置きおった。
一瞬の沈黙。
「……守らせるため、か」
「いや」
ゲンゾウは首を振る。
「お前を守るためじゃよ」
ユーヤは黙る。
「ユーヤ」
声のトーンが変わる。
「一つ、見せるものがある」
地下区画の扉が開かれ、厳重なセキュリティを抜けると――
そこにあったのは、フリューゲルに似た機体。
だが、違う。
より洗練され、より巨大で、そして――“完成形”。
「……これは」
ユーヤは息を呑む。
「フリューゲルの発展型」
ゲンゾウが静かに言う。
「コードはまだ無い」
一拍置き、さらに続ける。
「じゃが、リョウイチ君はこう呼んでおった――“完全なるフリューゲル”とな」
「フリューゲルは、試験機じゃ」
「バスターアームズの基礎と神経接続の検証のための存在」
「だがこれは違う」
「最初から、戦うために設計された機体じゃ」
ユーヤは見上げる。
圧倒的な存在感。
「……なんで今まで使わなかったんだ」
「使えんかったからじゃ」
ゲンゾウは答える。
「神経接続回路とフリューゲルの核を移植せねば動かん」
つまり――
「フリューゲルを壊さねば、完成しない」
ユーヤは理解する。
だから、未完成だったのだ。
「……だがな」
ゲンゾウが端末を操作する。
表示される設計図。
最新の更新履歴が示される。
「ここ最近、図面が更新されておる」
「は?」
ユーヤの目が細くなる。
「誰も触っておらんはずのデータがじゃ」
「……何だそれ」
「分からん。だが、戦闘データが反映され、自動で最適化されておる。」
一拍おいてゲンゾウが告げた。
「まるで――」
言葉が止まる。
「……誰かが、完成させようとしている」
ユーヤは新機体を見上げ、心臓の高鳴りを感じる。
「……乗れるのか」
静かな問い。
ゲンゾウはわずかに目を細める。
「簡単ではない」
「フリューゲル以上の負荷がかかる」
「下手をすれば――」
言葉を濁すが、意味は伝わる。
それでも、ユーヤは即答する。
「……関係ない」
「勝てるなら、それでいい」
暗い区画。
誰もいないはずの場所。
微かな機械音。
小さな多脚の影が、静かに動く。
モニターに映る新機体の設計図。
わずかに書き換えられる数値。
誰にも気づかれず。
静かに、確実に。
“完成”へと近づいていく。