蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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1章⑮動かない翼

静まり返った格納庫。

そこに、完成しているはずの機体があった。

新型フリューゲル。

外観はすでに整い、武装もすべて接続済み。

だが――動かない。

 

技術陣の報告が入る。

「……ダメです」

技術員の声が低く響く。

「粒子供給ラインは正常……ですが、神経接続、応答なし、起動しません」

機体そのものに異常はない。

それなのに、動かない。

「なぜ動かん……」

ゲンゾウが低く呟く。

理論上は、問題ないはずだった。

フリューゲルから移植された中枢。

神経接続回路。

フリューゲルの核。

“動くはず”だったのに――

沈黙している。

まるで、意志を持って拒絶しているかのように。

 

沈黙した翼のコクピットから降り、格納庫の端で、ユーヤはその沈黙した機体を見つめていた。

「……どうしてだ」

誰に言うでもなく、低く呟く。

焦りはない。

だが、手持ち無沙汰だった。

「……やれることがない」

戦えない時間。

準備は整っているのに、機体は動かせない。

初めての感覚だった。

 

通路から足音。

振り返ると、エリスが立っていた。

「……終わった?」

「いや、まだ」

「そっか」

少しの沈黙。

そして、エリスは勇気を出して言う。

「……じゃあ」

「一緒にいよう」

ユーヤは少し考え、頷いた。

「……いいよ」

短く、静かな承諾。

「どこか行くか…」

「うん」

 

街へ出た。穏やかな時間。

空は青く、人々の声がある。

戦争は遠く感じられる。

二人は並んで歩く。

以前と同じ光景。

でも、少しだけ違う――距離が近い。

「……最近、来れてなかったね」

「ああ」

「忙しかったもんね」

責めるわけではない。

ただ、確認するように。

「……ごめん」

ユーヤが呟く。

エリスは目を見開き、首を振る。

「……謝らなくていいよ」

少しだけ微笑む。

「こうして、一緒にいるし」

その言葉に、ユーヤはわずかに視線を逸らす。

 

買い物に来た。食材を選ぶエリス。

「今日はちゃんと作る」

「いつも作ってるだろ」

「ちゃんと、もっと」

少し照れたように笑う。

ユーヤは、それを黙って見ている。

「……楽しみにしてる」

その一言に、エリスの手が止まり、顔が赤くなる。

「……うん」

 

帰り道。

夕焼け。

二人は並んで歩く。

静かな時間が、自然と二人を包む。

そして、エリスが手を伸ばす。

少し迷ったあと、握る。

ユーヤは離さず、しっかりと手を繋ぐ。

それだけで、エリスの胸はいっぱいになる。

「……ねえ」

「ん?」

「今のままでも、いいかもね」

ぽつりと呟く。

「戦わなくても」

一瞬の沈黙。

ユーヤは空を見上げ、静かに答える。

「……そうかもしれない…でも…」

エリスはすぐに理解する。

否定できない。

できるのは、ただ手を握り返すことだけ。

「だから」

少しだけ力を込めて握る。

「帰ってきて」

ユーヤは短く頷く。

「……ああ」

 

格納庫。

新型フリューゲルは、まだ動かない。

完全なはずの機体。

だが、沈黙したまま。

まるで――

“何かを待っている”かのように。

 

 

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