蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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1章⑯分岐点

警報が、管制室に鳴り響く。

『ギアノイド群体、出現!』

『規模、大規模――大型個体多数確認!』

声は明らかに緊迫していた。

 

管制室。

ナツキの声。

「戦況は!?」

「量産機、迎撃中!しかし――」

モニターに映る戦場。

押されている。明らかに。

「……ダメか」

誰かが呟く。

フリューゲルは、もうない。

あの黒い異形も、再び確認されていた。

最悪の状況。

 

一方ユーヤの自宅。

ユーヤは立ち上がった。

警報を聞いた瞬間だった。

「……来たか」

その声に迷いはない。

だが。

「ユーヤ」

呼び止める声。エリス。

静かに、立っている。

「……行くの?」

問いの中には、理解と不安が混ざる。

ユーヤは答えず、視線を外す。

その一瞬、わずかな迷いが胸をよぎる。

 

沈黙。戦わなければ。

でも。今なら――まだ戻れる。

普通の生活に。

エリスと、このまま。

拳が、わずかに震える。

 

エリスは一歩近づく。

「……私は」

小さな声。

「どっちでもいい」

ユーヤの目が揺れる。

戦っても、戦わなくても――

すべてを受け入れるまっすぐな視線。

「……ユーヤが決めて」

その言葉は、委ねるもの。

縛らず、止めず。

ただ――

「……いなくなるのは、やだ」

それだけが、本音だった。

 

そして、決断する。

ユーヤは目を閉じる。

浮かぶのは戦場、仲間、倒れた機体。

そしてエリス。

笑った顔、泣きそうな顔。

胸の奥が、強く打つ。

ゆっくりと、息を吐く。

迷いを、すべて吐き出すように。

そして目を開く。

「……行ってくるよ」

短い言葉。

だが、揺るがない決意。

 

戦況は悪化していた。

オペレーターがモニターから目を背ける。

「持たない……!」

その時、ユーヤが格納庫に入る。

「……間に合うか」

視線の先。

新型フリューゲル。

沈黙する機体。

だが、ユーヤは迷わない。

コックピットへ。

『神経接続、開始』

いつもと同じ――だが違う。

これまで動かなかった機体。

「……理由は分かってる」

小さく呟く。

「足りなかったのは、技術じゃない」

拳を握る。

「俺の方だ」

意識を沈め、機体と繋がる。

 

その奥へ、さらに深く――

 

無意識に神経接続の深度を上げることを躊躇していた。

なぜなら、パイロットをやめる、たとえ世界がどうなってもエリスとの日常に戻る、その最後のチャンスだったから。

そう、ここが分岐点。

 

「……もう、迷わない」

 

言葉にする決意、覚悟。

その瞬間――

『神経接続――深度上昇』

光が走る。

機体が震えた。

『粒子循環、起動』

これまで動かなかった機体が、動き始める。

青い光が、翼のように広がった。

 

「そうだ、俺はお前に名前すら付けていなかったな…」

ユーヤは、静かに呟く。

「……お前の名前は」

一瞬の間。

 

「ブラウフリューゲル」

 

青き翼――その名を与えられた瞬間、機体は完全に応答する。

光の翼が展開し、フリューゲルとは異なる、より深く鋭い存在となった。

『出力、臨界突破』

誰も見たことのない数値が、コックピット内に表示される。

 

オペレーターが見たこともない数値に驚愕している。

「なに⁉これ⁉」

「どうなってるんだ⁉」

ゲンゾウが目を見開く。

「……そうか」

小さく呟く。

「覚悟、か」

ナツキは息を呑む。

「ユーヤ……」

コックピットから、声が響く。

 

「ブラウフリューゲル――出る!」

 

射出。

青い光が空を裂き、蒼き翼が輝いた。

 

その軌跡は、かつての白ではない。

蒼――覚悟の色。

そして、新たな戦いの始まり。 

 

 

【挿絵表示】

 

 






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