蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
空は――地獄のような戦場だった。
国連軍バスターアームズ隊は、後退を余儀なくされている。
『押し切られる!』
『防衛ライン、突破されます!』
悲鳴にも似た通信が飛び交う中――
“あれ”が、いる。
黒い異形。
ただ静かに、空に浮かんでいるだけの存在。
それだけで、戦場の均衡は崩壊していた。
誰も近づけない。
誰も止められない。
絶対的な“死”が、そこにあった。
その時、
――空が裂けた。
蒼い光が、一直線に戦場へと突入する。
閃光。
衝撃。
そして、影。
「――ブラウフリューゲル、お前の力を見せてみろ!」
次の瞬間。
爆発的加速。
残像を引き裂きながら、蒼の機体が戦場を駆け抜けた。
『なっ――!?』
「何だ、あの速度は!?」
誰一人として、追えない。
次元が違う。
それはもはや、“機動”ではなく――現象だった。
ブラウフリューゲルが、空中で反転する。
一瞬の静止。
次の瞬間、機体各部が展開。
新装備――ライフル。
レールガン。
収束ビームキャノン。
すべての砲門が、同時に敵を捉える。
「――フルバーストショット!!!」
放たれる。
閃光。
轟音。
そして――弾丸の雨。
無数のビームが空間を焼き裂き、
レールガンの弾丸が一直線に貫く。
複数砲門による同時射撃。
だが、その軌道は乱れない。
すべてが、精密に制御されている。
ビームが、敵群を飲み込む。
弾丸が、逃げ場を奪う。
当たる。
当たる。
当たる。
次々と、小型ギアノイドの反応が消えていく。
光の中で、敵が“数”を失っていく。
その光景を見ていた、国連軍のパイロットが呟く。
『……いったい、何が起きているんだ』
理解が追いつかない。
ただ一機の攻撃で、戦場の一角が消し飛んでいく。
ユーヤは、静かに呟いた。
「……これで、少しは余裕ができただろう」
その声に、昂りはない。
ただ、状況を処理するような冷静さだけがあった。
ユーヤに、迷いはない。
一直線。
ただ標的だけを見据え、黒い異形へ突き進む。
「――いくぞ」
ブレードライフル、ブレードブラスターを構え、狙い撃つ。
そして更に加速。
黒い異形へ急速接近し、ブレードライフルを叩きつける。
斬撃――
直撃。
火花が散る。
黒い装甲が、確かに裂けた。
『損傷確認!?』
『傷が入った…』
管制がざわめく。
あの個体に。
“傷”が明確に入った。
反撃がくる。
黒い異形が動く。
――消失を疑うほどの高速軌道。
だが。
「遅い」
ユーヤは振り向かない。
背後。
背部ガトリングで牽制する。
わずかに黒い異形がひるむ。
ビームシールド展開。
直後、衝撃。
完全に受け止める。
そして、そのまま弾き飛ばす。
即座に、レールガン(レイヴン)を全門展開。
叩きこむ。
「――落ちろ!」
連射。
爆発。
黒い異形が、大きく吹き飛ぶ。
『出力上昇!制御限界に接近!』
警告が響く。
だが。
「……問題ない」
ユーヤは淡々と応じる。
しかし、機体が軋む。
速すぎる。
強すぎる。
限界を、確実に踏み越えている。
それでも――止まらない。
「――行け!」
ブレードビット、射出。
三方向からの同時斬撃。
さらに――
スローイングブレードナイフ改を投擲せずそのまま射出、
別軌道から突撃。
完全包囲。
だが。
黒い異形は、それすら回避しきる。
「……そこだ!」
ユーヤはすでに読んでいる。
その回避先を。
そこへ――
ブレードブラスターの狙撃。
直撃。
爆発。
今度は、確実に効いている。
ブラウフリューゲルが圧倒し始める。
戦場の空気が変わる。
『押し返してる……?』
『あの一機で……』
一番の問題の黒い異形が後退したことで、崩れかけていた前線が、立て直されていく。
だが、ユーヤの視線は、ただ一つ。
黒い異形。
「……終わらせるぞ」
翼、展開。
収束ビームキャノン(レーヴァテイン)、レールガン(レイヴン)、
同時展開。
「――落ちろ!」
――フルバーストショット
一瞬の静寂。
次の瞬間。
全砲門、一斉発射。
光の嵐。
精密に制御された破壊が、ただ一点へと収束する。
レールガンとビームの雨。
逃げ場はない。
そして収束したビーム、レーヴァテインが黒い異形に突き刺さる。
直撃。
爆発。
そして沈黙。
煙が、ゆっくりと晴れていく。
そこにあったのは――
黒い異形。
しかし。
その躯は、半壊していた。
崩れ落ちていく。
『撃破……!?』
オペレーターが声を漏らす。
誰もが、息を呑む。
ユーヤは、静かに息を吐いた。
「……まだ、原形をとどめているのか」
だが、機体各所に警告が走る。
負荷は限界寸前。
それでも。
蒼い機体は、空に立っている。
戦場を見下ろす、蒼の翼。
その輝きは、かつての白ではない。
覚悟の色。
蒼。
そして――
人類は、初めて理解する。
あれは、“兵器”ではない。
――希望だ、と。