蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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1章⑱蒼の極光

戦いは――終わっていなかった。

黒い異形は、崩れながらも。

なお――

“再生”していた。

『再構築反応確認!』

『損傷、回復しています!』

 管制室がざわめく。

信じがたい光景。

フルバーストで半壊したはずの機体が、ゆっくりと。

だが確実に、形を取り戻していく。

「……しつこいんだよ」

ユーヤの声は、静かだった。

想定内。

しかし。

「……確実に倒しきるには…」

その再生速度は、常識を逸している。

 

圧が増す。

黒い異形が動く。

一直線に、ブラウフリューゲルへ。

速い。

これまでとは、比較にならない。

「――怒り?…違うな…最大の脅威と認識したってとこか」

ユーヤは構える。

だが、違う。

何かが決定的に違う。

重い。

まるで空間そのものが、押し潰されるような圧。

『ユーヤ!距離を取って!』

ナツキの声が響く。

だが。

ユーヤは、動かない。

「……いや」

短く、否定する。

「ここで決める」

 

視線を落とす。

背部ユニット――ヘクステッドキャノン。

最大火力。

切り札。

だが。

発射中は――完全に無防備。

「……切り札は有る。だが問題は使いどころ…。」

それは、判断ではない。

覚悟だった。

 

戦域全体へ通信を飛ばす。

「全機、聞け!」

ユーヤの声が、戦域全体に広がる。

「これから最大火力を使う」

一瞬の間。

 戦場が息を止める。

「その間――」

わずかな沈黙。

「……時間をくれ」

 

数秒。

重い沈黙。

そして。

『了解だ、任せろ!』

『守り切る!』

『お前を信じる!』

各小隊より通信が入る。

小隊が前へ出る。

損傷した機体。

弾薬も尽きかけている。

それでも――退かない。

誰一人として。

 

ユーヤは、深く息を吸う。

「……行くぞ」

翼、展開。

背部ユニット、解放。

ヘクステッドキャノン――展開開始。

 

 

【挿絵表示】

 

 

重い駆動音。

機体が空間に固定される。

無機質な機械音声が響く。

『機動ロック確認』

『チャージ開始』

粒子が収束していく。

光が集まり、密度を増す。

空気が震える。

いや――空間そのものが、軋む。

 

国連軍機が防衛戦に入る。

量産機が、次々と被弾する。

『くっ……持たねぇ!』

黒い異形が迫る。

止めきれない。

それでも。

前へ出る。

盾になる。

「まだだ……!」

時間を、削り出すように。

 

ブラウフリューゲルのコックピット。

静寂。

ただ、チャージだけが進んでいく。

長い。

あまりにも長い。

一秒が、引き延ばされる。

「……頼むぞ」

小さく、呟く。

誰にともなく。

 

そして突破される。

黒い異形が、防衛線を突破する。

一直線。

ユーヤへ。

 

『ユーヤ!!』

ナツキの叫び。

だが――動けない。

 

無機質な機械音が告げる。

『チャージ、最終段階』

あと、わずか。

ほんの一瞬。

黒い異形が、目前に迫る。

腕が振り上げられる。

回避不能。

直撃コース。

 

その瞬間、

『チャージ完了』

ユーヤの目が、開く。

迷いはない。

ただ一つ。

「――ヘクステッドキャノン……」

一瞬。

世界が静止する。

すべての音が消える。

そして――

「――ファイアー!!」

 

放たれる。

蒼の極光。

圧倒的なエネルギーが、直線となって空間を貫く。

光ではない。

それは、現実そのものを削り取る奔流。

黒い異形。

抵抗する間もなく。

存在ごと、呑み込まれる。

消滅。

欠片すら残さず。

極光はそのまま、遥か彼方へと突き抜けていく。

 

 

そして静寂が訪れる。

音が、消える。

誰も言葉を発せない。

そこにあったはずの敵が。

完全に――“存在しない”。

 

ブラウフリューゲルコクピット内。

警告が走る。

『出力低下』

『粒子残量、急減』

ユーヤは、ゆっくりと息を吐いた。

「……終わったか」

 

蒼い機体が、空に浮かぶ。

その背には、なお残る光の残滓。

戦場の誰もが、理解する。

これは、ただの兵器ではない。

――決戦存在。

戦いを終わらせるために現れた、“極光”。

 

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