蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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1章⑲均衡の揺らぎ

会議室は、静まり返っていた。

巨大スクリーン。

そこに映し出されているのは――

戦闘記録。

蒼い機体。

そして。

あの一撃。

ヘクステッドキャノン。

光が、世界そのものを書き換えるかのように放たれる。

映像が、止まる。

再生終了。

沈黙。

 

各国代表は困惑の表情を浮かべる。

「……なんだ、あれは」

誰かの呟き。

それが、この場の総意だった。

「報告では“バスターアームズの一機”とされているが……」

「……冗談だろう」

「戦術兵器の範疇を逸脱している」

ざわめきが広がる。

そして。

「……戦略兵器だ」

その一言で、空気が変わった。

「単機で戦局を覆す」

「防衛線という概念を無効化する」

一つずつ、言葉が積み上がる。

「そして――」

わずかな間。

「……制御不能となれば、人類そのものへの脅威となる」

否定する者はいない。

それが現実だった。

 

自然と、視線が集まる。

一点へ。

日本代表席。

朝倉ゲンゾウ。

静かに座している。

まるで――すべてを織り込み済みであるかのように。

 

「説明を求めたい」

EU代表が口を開く。

「“あの機体”は何だ」

「なぜ、これまで存在が秘匿されていた」

続くように、USA代表。

「設計者は死亡したはずだ」

「なぜ、あのような機体が完成している」

さらに。

「……我々は情報を共有しているはずだ」

中華代表。

疑念と圧力が、ゲンゾウへと集中する。

 

ゲンゾウはゆっくりと、目を開く。

「……まず」

静かな声。

「誤解を解こう」

わずかに、空気が緩む。

「“新型”ではない」

「既存機体の改修型じゃ」

ざわめき。

「改修……?」

「そうじゃ」

ゲンゾウは続ける。

「フリューゲルの戦闘データを基に、武装と出力を最適化した」

「それだけの話じゃ」

「“それだけ”で、あの性能か?」

当然の疑問。

ゲンゾウは、わずかに口元を歪める。

「関谷リョウイチの設計じゃ」

一言。

それだけで。

場の空気が、止まる。

納得と、諦観が同時に広がる。

「だが!」

USA代表が食い下がる。

「出力が異常だ!」

「説明可能な範囲を超えている!」

ゲンゾウは、小さくため息をついた。

「……説明は難しい」

「なにせ、設計者はもうおらんからの」

“分からない”。

それを、あえて武器にする。

 

「それよりも」

ゲンゾウの声が、わずかに強くなる。

空気が、引き締まる。

「今、議論すべきはそこか?」

一瞬で、流れが変わる。

「敵は再生能力を持ち始めておる」

「従来戦力では対処不可能」

そして――

スクリーンへ視線を向ける。

「対抗できる戦力が、ようやく一つ生まれた」

沈黙。

現実が、そこにある。

 

「……あれに頼るしかない、ということか」

誰かの呟き。

否定できない。

「依存は危険だ」

「だが、代替がない」

矛盾を抱えたまま。

結論だけが、収束していく。

 

「……ブラウフリューゲルの戦闘データ共有を求める」

「新型機開発への転用を前提とする」

各国が頷く。

ゲンゾウは、わずかに目を細めた。

「……可能な範囲で協力しよう」

“すべては出さない”。

その本音は、口にはしない。

 

会議後、部屋を出るゲンゾウ。

その背は、わずかに疲れている。

「……まったく」

小さく呟く。

「年寄りに無理をさせおって」

自身の孫の戦いぶりを思い出し、更につぶやく。

「…もう後戻りは出来んぞ、ユーヤ…」

「ブラウフリューゲルの性能を世界に晒してしまった…」

誰にも届かない言葉。

戦況、そして自身の孫への心配は尽きない。

 

一方、自宅。

エリスは、テレビを見ていた。

戦闘映像。

蒼い機体。

その戦いを、じっと見つめている。

「……ユーヤ…」

その瞳は、わずかに揺れていた。

 

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