蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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1章㉕限界突破

押されていた。

完全に。

ブラウフリューゲルが。

管理局管制塔に、動揺が広がる。

「ブラウフリューゲルが……負ける⁉」

誰かの声が、震えていた。

あり得ないはずの光景が、モニターに映し出されている。

圧倒的だったはずの機体が、押されている。

その現実に、誰も言葉を失う。

ゲンゾウもまた、戦況を見つめていた。

額に、冷や汗が伝う。

握り締めた拳に、力がこもる。

だが――何もできない。

ここからでは、ただ見守ることしか。

それでも。

視線だけは、決して逸らさない。

「……ユーヤ!」

祈るように、その名を呼んだ。

 

 

戦いは続いていた。

回避。

防御。

反撃。

そのすべてが、わずかに遅い。

ほんの僅差。

だが、その差は決定的だった。

『損傷増加!』

『出力低下!』

オペレーターが悲痛な声で機体状況を報告する。

「……くそっ」

歯噛みする。

だが、状況は変わらない。

 

限界が近い。

呼吸が荒い。

視界が揺れる。

思考が鈍る。

神経接続の負荷が、限界へと近づいている。

「……まだだ!まだ、いける……」

そう呟く。

だが、体が、ついてこない。

意思と肉体が、乖離していく。

 

追い詰められる。

三体が動く。

無駄のない軌道。

完全な包囲。

逃げ場は、どこにもない。

自身の終わりが――見える。

死は目前。

 

「こんなところで、負けられるか!!!」

 

その時。

不意に過去の記憶がよぎる。

意識の奥から、何かが浮かび上がる。

幼い頃の記憶。

夕暮れの帰り道。

隣を歩く、父の姿。

「いいか、ユーヤ」

優しい声。

「どうしてもダメな時はな」

少しだけ、笑って。

「魔法の言葉を使え」

幼いユーヤは、首を傾げる。

「……まほう?」

「そうだ」

リョウイチは、静かに頷く。

「“限界を超える言葉”だ」

 

――意識は戦場へ戻る。

そしてユーヤの目が、見開かれる。

「……魔法…限界を超える…」

思い出す。

あの時の言葉。

そして。

たった一つの単語。

 

震える手。

限界寸前の神経。

すがるように、魔法の言葉を口にする。

「……父さん!」

静かに、だが確かに告げる。

 

 

「――アークレイズ」

 

 

その瞬間――

無機質な機械音が、ブラウフリューゲルのコンソールから静かに、しかし確かに響き渡る。

『音声認識、確認』

『システム、開放』

『アークレイズシステム、限定解除』

『起動します』

――世界が、変わる。

ブラウフリューゲルが発光する。

蒼の光が、焼き切れるかのように弾け――

次の瞬間、そこに現れたのは、光を帯びた、さらに濃密な蒼。

さながら蒼い炎。

圧縮されていたエネルギーが解き放たれ、粒子は奔流となって溢れ出す。

機体各部が悲鳴のような振動を上げ、軋む。

そして――出力は、ついに臨界を突破した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

『なんだこれ!?』

『出力……測定不能!?』

『制御系、追従不能です!』

管制が騒然となる。

だが、ユーヤの意識は、逆に澄み渡っていく。

 

視界が、クリアになる。

ノイズが消える。

すべてが見える。

敵の動き。

軌道。

次の一手。

――遅い。

「……行ける!」

確信。

 

動く。

否。

“消える”。

残像すら置き去りにして。

次の瞬間。

一体目の背後に出現する。

ブレードライフルを、振り抜く。

一閃。

ギアノイドが、抵抗すらできずに切り裂かれる。

 

そして圧倒する。

二体目。

反応しようとする。

だが、間に合わない。

大剣ヴルトガンクを連結。

強烈な斬撃。

装甲ごと断ち切る。

爆散。

 

そして対峙

残るは一体。

指揮個体。

初めて、その挙動に乱れが生じる。

わずかな反応。

だが――

遅い。

「はああああ!」

距離を詰める。

一瞬。

零距離。

ビームソード2本を敵に押し付け直接起動する。

2本のビームソードが突き刺さる。

もはや敵は無力だ。

インパクトショット改、発動。

通常の威力ではない。

濃厚な光が炸裂する。

直撃。

粉砕。

内部から崩壊し、指揮個体が爆散する。

 

そして静寂が訪れる

一瞬で終わる。

あれほどの劣勢が、嘘のように。

戦場に、音がなくなる。

 

蒼く輝くブラウフリューゲル。

粒子はなおも溢れ続けている。

だが、その光は。

こか、不安定で。

どこか、危うい。

力が――制御を超えている。

 

ユーヤは、大きく息を吐く。

「……なんだよ、これ…」

手に入れた力。

圧倒的な優位。

だが、その代償も、その本質も。

まだ、誰も知らない。

 

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