蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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1章㉗違和感

その映像は、すでに世界中へと共有されていた。

蒼く――燃え上がるように輝く機体。

常識を逸脱した機動。

そして。

圧倒的な殲滅力。

沈黙の中、各国首脳は同様の反応を示す。

「……なんだ、あれは」

誰もが、同じ言葉を口にした。

「従来のブラウフリューゲルではない」

「出力が桁違いだ」

「粒子放出量……理論値を超えている」

あり得ない。

だが――

現実だ。

ざわめきの奥に、別の感情が混じる。

疑念。

「……隠していたな」

低い声。

その一言で、視線が集まる。

日本代表。

次元リアクター管理局。

 

緊急会議。

再び招集された代表たち。

空気は、前回とは比較にならないほど重い。

「説明してもらおう」

短い言葉。

だが――逃げ場はない。

ゲンゾウは、ゆっくりと目を開いた。

「……あれは」

一拍。

わずかな間。

「“緊急出力解放”じゃ」

静かな声が、場に落ちる。

「ブラウフリューゲルに搭載された、安全装置の一種」

「限界状況下でのみ発動する、一時的な出力増幅機構じゃ」

嘘ではない。

だが――

真実でもない。

当然のように、追及は続く。

「リスクは?」

ゲンゾウは、わずかに目を細めた。

「大きい」

即答。

「次元粒子を一気に消費する」

「使用後は、戦闘能力が著しく低下する」

事実。

だが。

それだけではない。

場に、短い沈黙が落ちる。

各国代表は顔を見合わせる。

完全には納得していない。

それでも――

「……現状、使うしかないか」

誰かがそう呟いた。

結論は同じだった。

人類には、もはや余裕がない。

 

会議終了。

ゲンゾウにナツキが尋ねる。

「アークレイズシステムの事は…」

ゲンゾウは静かに答える。

「濁して伝えておる。ワシらも知らなかったリョウイチ君の隠し玉などと伝えても、意味はない」

「…そうね」

2人は考え込み、沈黙した。

 

訓練室、ユーヤは一人、体を動かしていた。

軽いステップ。

反応速度。

視界の追従。

――問題ない。

だが。

「……」

ふと、動きが止まる。

違和感。

すぐに確認する。

拳を握る。

開く。

異常はない。

少なくとも――外から見れば。

(……大丈夫だ。動く)

心の中で言い聞かせる。

目を閉じる。

一瞬だけ、思考が巡る。

だが――

(……まだ、大丈夫だ)

結論は、早かった。

 

帰宅する。

扉を開けると、柔らかな光が迎える。

「おかえり」

エリスの声。

それだけで、わずかに肩の力が抜ける。

「……ただいま」

エリスが一歩近づく。

そっと、顔を覗き込む。

「疲れてる?」

鋭い問い。

ユーヤは一瞬だけ言葉に詰まる。

だが――

「……いつも通りだよ」

そう答える。

エリスはじっと見つめる。

数秒。

やがて、小さく頷いた。

「そっか」

それ以上は、何も聞かない。

「今日は早く寝よ」

何気ない一言。

押し付けではない。

だが――確かに寄り添っている。

ユーヤは小さく頷いた。

 

夜。

ベッドに横たわり、天井を見つめる。

眠れない。

体は確かに疲れているのに。

意識だけが、妙に冴えている。

そして――

ふと、思い出す。

蒼い炎。

あの瞬間の感覚。

すべてを超越した力。

「……」

小さく、呟く。

「……もう一回使えば……」

その先は、言葉にならない。

だが。

心のどこかで、理解している。

あれは――普通じゃない。

代償を伴うものであるという事を。

 

 

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