蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
警報は、再び鳴り響いた。
『ギアノイド反応、接近!』
だが――
今回は、明らかに違う。
『高密度反応……複数!』
空気が変わる。
出現したのは、前回と同系統の編成。
“指揮個体”を中核に据えた、統制型部隊。
無数のギアノイドに囲まれた個体が――四。
数だけ見れば多くはない。
だが、放たれる圧が、まるで違う。
「……またか」
ユーヤは静かに呟いた。
出撃シークエンスが開始される。
ナツキが心配そうにユーヤへ通信を入れる。
「ユーヤ…気を付けて…」
「…わかってる、ブラウフリューゲル、出る!」
蒼い光が空へと駆け上がる。
まずは雑魚の排除。
戦線を維持するため、国連軍機の負担を減らす。
ライフル。
レールガン(レイヴン)。
収束ビーム砲(レーヴァテイン)。
同時展開。
「フルバーストショット!」
閃光が走る。
正確無比の射撃。
小型ギアノイドが、次々と撃ち落とされていく。
その精度は――明らかに、以前よりも研ぎ澄まされていた。
「すげぇ……」
国連軍パイロットが思わず漏らす。
ユーヤは呼吸を整える。
(……こんなのは前座だ)
視線はすでに、“本命”へ。
本命を見据える。
すぐに理解する。
――勝てる。
だが。
“楽ではない”。
敵の連携は、さらに洗練されている。
反応速度も高い。
「……ちっ」
被弾。
回避が、わずかに遅れる。
(このままだと……押し切れない)
冷静に分析する。
長期戦は不利。
ならば――
あの力。
脳裏に浮かぶ。
蒼い炎。
そして。
失われた味覚。
消えない違和感。
「……」
一瞬、迷う。
だが――
『味方機ロスト!』
連合軍機が一機、爆散する。
その光景で、十分だった。
「⁉……迷っている時間はない」
そして起動する。
「――アークレイズ!」
蒼い炎が、弾けた。
粒子が溢れ出す。
世界が、遅くなる。
「……見える」
すべてが。
完璧に。
反撃が始まる。
一体目。
ブレードライフルで踏み込み、斬撃一閃。
至近距離からブレードブラスター。
消滅。
一瞬の出来事。
間髪入れず、ブレードビットを展開。
二体目の動きを止める。
ブラスターを腰にマウントし、ビームソードとライフルで斬り込む。
ビットが退路を封鎖。
回避不能の連撃。
撃破。
三体目。
ビームソードを投擲。
本来の用途ではない。
だが――
一直線に飛来する。
まるで追尾するように。
しかし、迎撃され、叩き落とされる。
だが、その一瞬でいい。
すでに間合いは詰まっている。
「――インパクトショット改」
蒼光、炸裂。
煙が晴れる頃には、敵影は消えていた。
そして――
最後の一体。
指揮個体。
反応する。
だが。
遅い。
大剣(ヴルトガンク)二刀。
一直線。
迎撃など――不可能。
「終わりだ」
十字の軌跡。
指揮個体が、断ち切られる。
勝利、完全勝利。
圧倒的な力。
その光景を、皆が見ていた。
「すごい……」
「すごいぞ!あれがいれば勝てる!」
「人類はギアノイドなんかに負けたりしない!」
歓声が上がる。
だが――
険しい表情を崩さない人間がいた。
ゲンゾウ。
(回復時間が必要……本当にそれだけか?)
ナツキ。
(あの子、あんな戦いをして本当に大丈夫なの?)
ブラウフリューゲルは帰還する。
何事もなかったかのように。
動きは完璧。
異常なし。
――機体に乗っている間は。
収容。
神経接続、カット。
その瞬間。
視界が――歪む。
「……?」
違和感。
右は、見える。
だが。
左が。
「……っ」
何も映らない。
完全な暗闇。
瞬きをする。
変わらない。
左側だけが――
“消えている”。
そして、理解する。
(……これが、代償か)
静かに受け入れる。
驚きはない。
むしろ――納得。
夜。
家。
「今日はね、新しいレシピ試したの」
エリスが嬉しそうに笑う。
ユーヤは、それを見る。
右目で。
左は――見えない。
だが。
気づかれないように、自然に振る舞う。
「……楽しみだな」
席に着く。
わずかに位置を調整する。
欠けた視界を、補うために。
一口。
味は、ない。
視界も、欠けている。
それでも。
「……うまい」
そう言う。
エリスは、嬉しそうに笑う。
――それでいい。
夜。ベットに横になる。
鏡の前。
ユーヤは、自分を見つめる。
右目。
正常。
左目。
開いているのに――何も見えていない。
「……」
小さく、呟く。
「……まだ、いける」
それは、決意か。
それとも――
“諦めの始まり”か。