蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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1章㉙崩れる均衡

違和感は、もはや誤魔化せる段階を過ぎていた。

 

緊急会議再び。

各国代表が、再び一堂に会する。

視線の先には、例の戦闘記録。

――蒼く燃え上がる機体。

ブラウフリューゲル。

アークレイズ状態。

「……また、あの光だ」

誰かが呟く。

「使用頻度が上がっている」

「リスク管理はどうなっている?」

疑念は、もはや隠されもしない。

だが――

「……それでも、あれがなければ持たない」

結論は、変わらなかった。

人類は、追い詰められている。

そして。

“あの力”への依存は、確実に深まっていた。

 

出撃前、再びギアノイドの侵攻。

格納庫。

ユーヤは、ブラウフリューゲルを見上げていた。

片目だけの視界。

欠けた世界。

それでも――

「……やる」

迷いはない。

「ユーヤ」

ナツキの声。

振り返る。

その一瞬。

ナツキは見逃さなかった。

わずかな“視線のズレ”。

「……大丈夫なの?」

静かな問い。

母として。

指揮官として。

「問題ないよ」

即答。

淀みがない。

だからこそ――不自然だった。

少し離れた場所で、ゲンゾウがそれを見ている。

「……ユーヤ」

誰にも届かない声が、零れる。

 

ブラウフリューゲル出撃シークエンスが始まる。

神経接続が開始された瞬間、光がともる。

両目ともはっきり見えている。

ユーヤは悟った。

(乗っている間は元に戻る…そうか…なら問題ない…)

欠落の回復。

その条件はブラウフリューゲルとの神経接続の有無。

その状態にユーヤは1人納得していた。

誰にも気づかれずに。

 

ブラウフリューゲルが出撃する。

 

今回の敵は――

中規模群体に、進化型を加えた編成。

数で押し潰す構成。

「……いくぞ」

戦闘開始。

 

機体が動く。

数が多い。

だから――削る。

砲門、一斉展開。

「フルバーストショット!」

閃光。

敵が次々と撃ち落とされる。

百発百中。

精度は、さらに研ぎ澄まされていた。

ユーヤの身体が蝕まれていることなど、感じさせないほどに。

戦場では――完璧だった。

蒼い光をまとい、空を裂く。

ユーヤの動きに、迷いはない。

片目の不利も。

違和感も。

存在しない。

すべてが、正常。

いや、それ以上。

「……見える」

敵の軌道。

空間の流れ。

すべてが手に取るように分かる。

だが、それでも数が多い。

連合軍が押し込まれていく。

 

(このままじゃ、押し切られる)

判断は早い。

もはや、躊躇はない。

「――アークレイズ!」

蒼の炎が弾ける。

世界が、変わる。

すべてがクリアになる。

すべてを凌駕する。

「……行ける」

 

超高速戦闘。

一気に数を削る。

圧倒的制圧。

その戦いぶりに、管制室には安堵すら広がる。

「いける……!」

「押し返してる!」

だが――

「……おかしい」

ナツキが呟く。

「……うまくいきすぎじゃ」

ゲンゾウもまた、低く言う。

強すぎる。

――あまりにも。

 

終結、戦闘終了。

敵、殲滅。

完全勝利。

だが、ユーヤの内側では――

何かが、確実に削られている。

そんな感覚だけが、残る。

 

格納庫。

ハッチが開く。

ユーヤが降りる。

その時。

ふと。

音が――消える。

「……?」

(……聞こえない)

意識を向ける。

右側。

何もない。

音が、存在しない。

静寂。

完全な断絶。

(……耳か)

理解する。

受け入れる。

もう――驚きはない。

 

「ユーヤ」

ナツキが呼ぶ。

反応が、遅れる。

ほんの一瞬。

だが――決定的。

「……聞こえてない?」

今度は、右側から。

「ユーヤ!」

反応が明らかに鈍い。

ユーヤは気づき、ゆっくりと振り向く。

「……何?」

自然を装う。

だが、遅い。

その違和感は、隠しきれない。

ゲンゾウは、すべてを見ていた。

静かに目を閉じる。

「……ユーヤ……お前……まさか……」

 

夜、帰宅する。

エリスが楽しそうに話している。

ユーヤは聞く。

左耳で。

右は――聞こえない。

それでも、笑う。

「……そうなんだな」

会話は成立する。

だが、わずかにズレる。

ほんの少しずつ。

確実に。

 

深夜。

ベッドの上。

天井を見つめる。

右目は見える。

左は見えない。

左耳は聞こえる。

右は聞こえない。

「……」

小さく呟く。

「……まだ、戦える」

それだけが。

今のすべてだった。

 

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