蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
違和感は、やがて確信へと変わろうとしていた。
朝、静かな食卓。
エリスが手際よく料理を並べていく。
「今日は和食」
どこか誇らしげに言った。
ユーヤは席に着き、短く息をつく。
「……ありがとう」
箸を取る。
一口、口に運ぶ。
「……」
味は、感じない。
だが――
「……うまい」
そう告げる。
エリスは、柔らかく微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、
ユーヤは、それ以上何も言えなくなる。
食事後。
「ねえ」
エリスが小さく首をかしげる。
「さっき、呼んだよ?」
ユーヤの動きが止まる。
「……え?」
「右から」
無邪気な声。
ユーヤは一瞬だけ視線を逸らした。
「……気づかなかった」
かすれるように答える。
「疲れてるのかな」
エリスはそれ以上追及しない。
ただ――
「今日はゆっくりして」
優しく、そう言った。
管理局。
無機質な通路を、ナツキが足早に進む。
迷いはない。
そのまま医療セクションへと向かう。
検査データを確認する。
「ユーヤの戦闘後ログ、全部出して」
職員が戸惑う。
「しかし、副指令――」
「いいから」
鋭い声で遮る。
それは母ではなく、指揮官の声だった。
モニターに並ぶ数値。
身体状態。
神経反応。
そのすべてが――
『正常』
あまりにも整いすぎた結果。
だが、
「……おかしい」
ナツキは低く呟く。
あの動き。
あの反応。
“正常”で説明できるものではない。
「やはりいたか」
背後から、静かなゲンゾウの声。
ナツキが振り向く。
「……お父さん」
「気づいたか」
ゲンゾウはゆっくりと歩み寄る。
「……ユーヤ、おかしいでしょ」
迷いなく言い切る。
「戦闘中は完璧。でも――」
一瞬、言葉を探す。
「……それ以外が、ズレてる」
ゲンゾウは小さく頷いた。
「戦っている間だけ、完成する」
ナツキの目が見開かれる。
「……どういうこと?」
「あくまで推測じゃが、次元粒子による神経補正」
低く、断言する。
「接続中のみ、身体を“補完”している…が…」
「そして神経接続切断後――」
一拍、間を置く。
「“本来の状態”が露出する」
ナツキの顔から血の気が引く。
「……それって……」
言葉が、続かない。
「代償じゃ」
ゲンゾウがはっきりと言い切る。
「力の、な」
怒りがこみ上げる。
「なんで黙ってるのよ!」
ナツキの声が荒れる。
「ユーヤは、何も言ってない!」
2人はしばし沈黙する。
「言えると思うか?」
ゲンゾウの一言で、空気が凍る。
ナツキは言葉を失った。
「自分が壊れていると知りながら、
それでも戦わねばならん少年が、それを口にできると思うか?」
沈黙が落ちる。
「あの人は…リョウイチさんはこの事知ってたと思う?」
「…わからん。じゃが、ブラックボックスに封印されていたという事を考えれば…」
ナツキは目を閉じる。
深く、息を吸う。
そして――開く。
「……止める」
はっきりと告げた。
「これ以上、戦わせない」
わずかに目を細める。
「…できるかの」
静かな問い。
ナツキは迷わない。
「母親として、やるわ」
ユーヤは訓練室にいた。
一人、静かに立っている。
ゆっくりと拳を握り、
そして開く。
問題はない。
――“今は”。
「……次も、来る」
確信があった。
戦いは、終わらない。
同じ空の下。
守ろうとする者。
止めようとする者。
そして――壊れながらも進もうとする者。
三つの意思が、
静かに、だが確実に交錯しようとしていた。