蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
時系列は少し戻る。
宇宙へのバスターアームズ運用が決定された後、別の問題もまだ残っていた。
人類は、すでに後戻りできない段階に入っていた。
国際協議
各国代表。
そして――次元リアクター管理局。
すべての意思決定が、一つの場所に集約される。
逃げ場はない。
「議題は宇宙迎撃作戦の実行についてです」
進行役が告げる。
短い言葉。
だが。
そこに含まれるのは――人類の命運そのもの。
ゲンゾウは静かに宣言する。
「投入可能戦力、すべてを宇宙へ回す」
断言。
迷いはない。
もはや、出し惜しみしている余裕など、どこにもなかった。
「地上防衛は最小限とする」
スクリーンに映し出される。
四つの地点。
次元リアクタープラント本体。
「ここが破壊されれば――戦争は終わる」
勝敗とは別の意味で。
すべてが、そこで途切れる。
「宇宙戦に適応できない機体とパイロットを中心に配置」
「防衛に特化させる」
攻める余裕はない。
守るしかない。
沈黙が訪れる。
誰も反論しない。
できない。
それが、最適解だと理解しているから。
「……では、宇宙でのバスターアームズの拠点…母艦はどうする」
誰かが問う。
それは当然の疑問だった。
宇宙で戦う以上“拠点”が必要になる。
管理局技術担当が操作する。
スクリーンが切り替わる。
そこは現在非稼働の工場。
そこに鎮座する――巨大な船団。
無数の宇宙船。
だが、その姿は、未完成だった。
武装が未搭載のものも確認できる。
「かつてのギアノイド迎撃計画の遺産です」
バスターアームズによるギアノイド迎撃以外に、次元粒子を利用した戦艦の艦隊運用で地上と宇宙でギアノイドを迎撃するプランが過去にあった。
誰もが知っている。
そして、いつの間にか、忘れられていたもの。
「バスターアームズの運用でギアノイド迎撃が可能と判断された後に、計画は凍結」
「以降、長期間放置されていました」
不必要と判断され、時間だけが過ぎた。
「これらをバスターアームズの母艦として改修します」
言葉は淡々としている。
だが、その意味は重い。
「格納庫拡張」
「射出カタパルト追加」
「近代兵装の後付け」
「急ピッチでバスターアームズの母艦能力を持った宇宙戦艦へ転用します」
「……間に合うのか」
中華代表の静かな声。
低い声。
誰もが思っていること。
管理局技術師の回答。
「間に合わせます」
即答。
そこに根拠はない。
だが――意志はある。
ゲンゾウも、静かに口を開く。
「こいつも使う」
別の映像。
現れる、一隻の巨大艦。
それは他と明らかに違う。
洗練された船体。
最初から“戦うため”に設計された存在。
各国代表は戸惑いを見せる。
「これは⁉」
ゲンゾウが詳細を告げる。
「そもそも艦隊運用によるギアノイド迎撃計画も関谷リョウイチ発案の計画じゃ。バスターアームズ計画を最優先とする方針が決定されたことで頓挫していた」
「この巨大戦艦は関谷リョウイチが当時設計した、主力となるべくして設計された宇宙戦艦じゃ」
「完成には至らなかったがな」
「現状一艦のみ。」
未完成のまま、眠っていた兵器。
「艦名…『ヴェスペリオン』」
会議出席者がざわめく。
(やはり、リョウイチ君は…戦場が最終的に宇宙に広がることをも予測しておったのじゃろうか…)
内部構造は完全に次世代の宇宙戦艦だった。
専用整備区画。
高出力補給ライン。
特殊カタパルト。
すべてが、とあるバスターアームズのために最適化されている。
「そうこれは…フリューゲルの性能を最大限引き出すための艦じゃ」
「ブラウフリューゲル専用母艦として運用する」
各国からはさらにざわめきが広がる。
だが、反対の声は出ない。
ただ理解する。
それが、人類の“切り札”であると。
誰もが理解した。
ゲンゾウは誰にも聞こえない声でふとつぶやく。
「…これも想定の範疇か?…リョウイチ君…」
そしてゲンゾウは一拍おき、事前に決心していた事項を告げる。
「戦艦ヴェスペリオンを旗艦とし宇宙連合艦隊を編成する!」
「…そして、戦艦ヴェスペリオンの艦長並びに連合艦隊司令をワシ自らが務める!」
各国首脳が驚きの声を発する。
「なんだと⁉」
「自らが戦場に出るのか!」
「正気か!?」
驚くのも無理はない。
ゲンゾウは次元リアクター管理局所長。
つまり実質的な世界の権力者である。
それが自ら戦場に出る。
いや、それも当然。
この作戦が失敗したら人類は終わりなのだから。
それほどまでに人類は追いつめられている。
「…承認する」
各国が承認する。
それが最善だと理解したから。
準備は進む。
工場。
停止していた宇宙船が、再び息を吹き返す。
外装が剥がされ最新鋭のものへ。
内部が組み替えられ最適化。
最新の武装が取り付けられていく。
眠っていた艦
それを起こす。
人を守るために。
そして――戦いの場へ旅発つため。
整備員。
パイロット。
誰もが無言で作業する。
無駄な言葉はない。
恐怖はある。
誰もが理解している。
これが何を意味するのか。
それでも。
手は止まらない。
一方、自宅。
静まり返った部屋。
エリス。
窓の前に立つ。
動かない。
見ているのは、星空。
その向こう。
まだ見えない戦場。
ユーヤが赴く場所。
何も言わない。
表情も変わらない。
まるで、感情が消えたかのように。
でも、その瞳は。
わずかに揺れている。
恐怖か。
不安か。
それとも――覚悟か。
過去の遺産。
人類は。
捨てたはずの希望を。
戦うために、拾い上げた。