蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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1章㊲青き星を背に

その日。

空は、異様なほど澄んでいた。

まるで――何も起きていないかのように。

 

巨大な発進施設。

急ピッチで完成された地上の宇宙港。

かつて、宇宙進出という夢を担った場所になるはずだった場所。

人類が“未来”へ向かうために作った門。

だが今は――

戦場へと繋がる、ただ一つの出口。

 

カウントダウンが始まる。

管制オペレーターの指示が飛ぶ。

『各艦、発進シークエンス開始』

無機質な音声。

感情はない。

だが、その言葉が意味するものは、あまりにも重い。

 

各国の艦が並ぶ。

改修された船団。

急ごしらえの武装。

無数のバスターアームズを搭載した艦影。

整然と並ぶその姿は――人類最後の艦隊。

 

その中央。

ひときわ異質な艦。

静かに佇む。

他を従えるでもなく。

ただ、そこにあるだけで中心となる存在。

「最終チェック完了」

「ブラウフリューゲル、格納完了」

 

ゲンゾウはは艦橋。

外を見据えながら、静かに立つ。

「……行くぞ」

誰に向けた言葉でもない。

だが、すべてへの合図。

 

「ヴェスペリオン、発進せよ!」

 

轟音。

大気を震わせる重低音。

だが、高度が上がるにつれ――音は消えていく。

空気が薄れ。

振動が途切れ。

世界から“音”が失われていく。

重力から解放される艦体。

静かに浮かび上がる。

その後に続く。

各国の艦隊。

 

上昇する。

雲を突き抜ける。

白が流れ去る。

青が、次第に薄れていく。

そして――黒へ。

境界を越える。

 

宇宙空間。

静寂。

完全な無音。

何もない空間。

だが、そこには確かに“戦場”がある。

 

 

地球が窓の向こうに広がる。

青い星。

光をまとい。

確かにそこに在る。

あまりにも美しい。

あまりにも、遠い。

 

格納庫。

ブラウフリューゲルの前。

ユーヤはその背後にある景色を、見ている。

何も言わない。

ただ、目に焼き付けるように。

(……これが)

一瞬。

思考が止まる。

(帰る場所)

その言葉は、浮かんだだけで消える。

(俺が守る…)

 

目を閉じる。

わずかな時間。

今にも泣きだしそうな、金髪の少女を思い出す。

 

そして――目を開く。

もう、見ない。

振り返らない。

戻れるかどうかも、考えない。

それが、ユーヤの選択。

前へ進むための、唯一の方法。

 

一方、地上。

エリスは屋上。

空を見上げている。

遠い。

小さくなっていく光。

それが何か、分かっている。

 

何も言わない。

呼ぶこともない。

ただ――見ている。

 

胸の奥。

わずかな違和感。

静かな波紋のように広がる。

理由は分からない。

だが、確かにある。

「……遠いよ」

ぽつりと呟く。

距離だけではない。

もっと別の、何か。

 

宇宙、地球外周軌道。

艦隊は列をなす。

まだ戦闘はない。

補給。

編成。

最終調整。

すべては――決戦のために。

静かに、確実に、準備が整っていく。

 

青き星を背に。

人類はあわただしく動く。

帰る場所を後ろに置いて。

もう戻れないかもしれないという気持ちを抱いて。

それでも、進むしかない。

 

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