蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
宇宙は、静かに広がっていた。
人類に時間はない。
訓練が再開される。
複数の機体が展開する。
各国エース部隊。
選び抜かれたパイロットたち。
理想的な編隊――のはずだった。
「編隊、散開!」
「右セクター、カバーに入る!」
連携訓練。
だが、どこか噛み合わない。
動きの差。
反応の差。
そして――
一機の存在。
皆視線はブラウフリューゲルへ。
蒼い翼が閃く。
加速。反転。射撃。
すべてが無駄なく、完璧に連鎖する。
仮想敵を圧倒。
撃破。
撃破。
撃破。
「……速すぎる!」
「合わせられない!」
エースたちでさえ。
追いつけない。
連携が、崩れゆく。
調整の必要がある。
「蒼の英雄に合わせるな!」
「各自、自分のペースを維持しろ!小隊行動を欠かすな!」
指示が飛ぶ。
だが、誰もが分かっている。
無理に合わせるより――任せた方が速い。
「あいつがいれば、勝てる」
小さな声。
だが、確かに全員の心に届く。
空気が変わる。
ゆっくりと、確実に。
勝利の軸。
戦術の中心。
それが――一機に集まる。
ブラウフリューゲル。
ユーヤもその変化に気づいている。
だが、何も言わない。
(それでいい)
否定する理由も、必要もない。
「訓練終了。各機帰投せよ」
命令が下る。
連携は未完成のまま、各機が帰投する。
格納庫では整備員が動き回る。
機体の装甲を拭き、武装を確認する。
ユーヤはコクピットより降りる。
だが――
その瞬間。
視界が揺れる。
平衡感覚が狂う。
右手の痺れはさらに強く、
周囲の音は遠く、膜を隔てたように響く。
(……大丈夫だ。戦っている間は問題ない)
軽く息を吐く。
壁に手をつく。
呼吸を整える。
一拍。二拍。
だが――戻りきらない。
顔を上げる。
何事もなかったように歩く。
誰も気づかない。
いや――
離れた場所にゲンゾウ。
すべてを見つめている。
「……背負わせすぎたか…」
小さく呟く。
だが、止めはしない。
止めれば――終わる。
ギアノイド大隊はもうそこまで迫っていた。
距離は、確実に縮まっている。
決戦はもうまじかに迫っていた。
人類は。
一人の少年に。
べてを預け始めていた。
その代償を。
誰も知らないまま。
ゲンゾウはユーヤに声をかける。
「ユーヤ…」
「なんだよ、じいちゃん。…なんかあったか?」
「…いや……大丈夫か?」
「…ああ…問題ないさ…それより時間が無いぞ。
連合軍機の、連携精度を上げることを考えた方がいいんじゃないか?」
「…そう…じゃな…」
ゲンゾウはそれ以上何も言えなかった。
(もっとましなことは言えんのかワシは…大丈夫かと聞いたら、こやつは大丈夫と答えるに決まっとるのに…)
ユーヤは淡々と告げる。
「整備が終わるまで少し休むよ。その後、すぐに訓練を再開する」
「…そうか」
ユーヤは去っていく。
その背中をゲンゾウは立ち尽くして、見つめる事しかできなかった。
時間は待ってはくれない。
決戦の時は迫りつつあった。