蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
ギアノイドの群勢は、地球宙域へと近づいていた。
静かに。
確実に。
後戻りは、もうできない距離まで。
最後のブリーフィング
ヴェスペリオン、作戦室。
各国の指揮官。
エースパイロットたち。
人類の中枢戦力が、ここに集まっている。
誰もが無言。
空気は張り詰めていた。
映像が映る。
スクリーンに映し出される。
それは――
“壁”。
無数のギアノイド。
幾重にも重なり、層を成している。
突破を拒む、防壁。
その奥。
かすかに見える、巨大な影。
「……あれが中枢?」
誰かが呟く。
声は小さい。
だが、全員に届いた。
ゲンゾウが前に出る。
視線を一切逸らさず、言い切る。
「作戦は単純じゃ」
一拍。
「外縁部を突破し――」
「中枢へ到達」
「破壊する」
言葉は、あまりにも簡潔。
だが、その裏にある現実を、誰もが理解している。
成功確率。
生還率。
どちらも――語る必要がない。
「配置を確認する」
「第一艦隊は外縁突破の支援」
「第二、第三は防衛線の構築」
役割が、機械的に割り振られていく。
感情は介在しない。
ただ、最適解だけが並ぶ。
そして、最後。
僅かにゲンゾウの声が大きくなる。
「ブラウフリューゲル」
その名が出た瞬間。
空気が変わる。
ゲンゾウがブリーフィングルームの端を見据える。
全員の視線が、そちらを向く。
ブリーフィングルームの端で腕を組み、壁にもたれかかるように立っているユーヤへ視線が集中する。
今までユーヤが連合軍関係者と顔を合わせることはなかった。
だが今回は最後のブリーフィング。
自身の役割を確認する為、ユーヤはブリーフィングに参加していた。
(青年?あんなに若いのか…)
(あれが蒼の英雄?)
(まだ子供じゃないか…)
困惑。
期待。
依存。
覚悟。
すべてが混ざった視線。
ゲンゾウの指示が飛ぶ。
「ブラウフリューゲル…中枢を破壊せよ」
静かな宣告。
誰も異論を挟まない。
挟めない。
それが唯一の突破口だと、全員が理解しているから。
「……了解」
ユーヤは短く返答。
それだけ。
躊躇も、反発もない。
まるで――当然のように。
この瞬間、ユーヤは、
完全に“切り札”となった。
代替のきかない存在として。
ブリーフィングが終わる。
誰もその場に残ろうとしない。
軽口はない。
雑談もない。
これは――
“帰還を前提としない作戦”。
誰もが、それを理解している。
一方、地上。
自宅、静かな部屋。
ナツキとエリスが向かい合っている。
「……最後の便が出るわ」
落ち着いた声。
だが、その奥に緊張がある。
「連合艦隊に補給物資を届ける地上便」
「向こうで受け渡して、すぐ帰還する」
一拍。
「…ユーヤに会える、最後のチャンス」
沈黙。
エリスは動かない。
言葉もない。
揺れている。
はっきりと。
分かっている。
行けば――何かが終わる。
戻れなくなる。
でも、行かなければ――
もう、会えないかもしれない。
「……無理にとは言わないわ」
ナツキは静かに続ける。
「でも…」
一瞬、言葉を選ぶ。
「後悔だけは、しないで」
エリスはゆっくりと顔を上げる。
その目は。
まだ揺れている。
決めきれていない。
それでも――
逃げてはいない。
言葉は出ない。
出せない。
だが、その瞳の奥で、何かが動いている。
迷いと、覚悟が、せめぎ合う。
宇宙では。
決戦が決まった。
誰が行き。
誰が散るか。
すべてが、合理的に。
非情に。
決められた。
そして地上では。
まだ、選択が残されている。
感情による選択が。
それぞれの。
“最後”へ向けて、動き出した。