蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
戦線は、崩れ始めていた。
至る所で爆発が起きる。
艦が沈む。
機体が散る。
第一艦隊。
「左翼、崩壊!」
「支えきれない!」
押されている。
明確に、確実に。
第二艦隊。
「防衛ライン維持できません!」
「数が多すぎる!」
報告が次々と重なる。
勝てない。
誰もが、それを理解し始めていた。
それでも、その戦場にいる人間は同じことを考えていた。
「……下がるな」
誰かが言う。
「ここで退いたら、終わりだ」
なぜなら、後ろには、地球。
モニターに映る、遠くの青い星。
我らが故郷。
その姿が、薄暗い艦橋の中でひときわ輝く。
誰もが言い返さない。
その一言に、全ての意味が込められている。
「……前に出る」
機体が、重い空気を引き裂くように加速する。
各国のエースたちが、限界を超えて動き続ける。
その身を捧げ、命を賭けて。
だが、現実は容赦ない。
撃墜。
仲間が一人、また一人と消えていく。
「くそっ……!」
一機が落ちる。
二機が落ちる。
三機が落ちる。
止まらない、無情な連鎖。
「蒼の英雄は!? 今どこだ!?」
「中枢に向かってる!」
その一言が、希望でもあり、絶望でもあった。
ここは――
“繋ぐ場所”。
それが役割。
ユーヤを通すための――
壁。
「なら……やるしかないだろ」
笑い声が、震えながら響く。
それでも、その声には決して揺るがない覚悟があった。
「一匹たりとも地球には行かせない!」
複数機が一斉に突っ込む。
爆発。
敵機を巻き込みながら、道を切り開く。
命を使って、道を作る。
それは、決して無駄ではない。
ヴェスペリオン艦橋。
ゲンドウは無言でその光景を見つめている。
歯を食いしばり、拳を握りしめて。
だが、命令は一切変えない。
ここで崩れれば――
全てが終わる。
戦況は、さらに激化する。
押され、削られ、絶望的に厳しくなる。
それでも。
誰一人、逃げる者はいない。
退けない。
後ろにあるものが、あまりにも大きすぎるから。
一方、ギアノイド群勢深部。
ユーヤにも若干の焦りが出始める。
「はああああああッ!」
蒼い閃光が、戦場を裂く。
ブラウフリューゲルは大剣ブルトガンクを二刀、振りかざし最適化個体へと突っ込む。
だが――アークレイズシステムは使わない。
使えない。
(ここで粒子を吐き出しても、じり貧だ……その前に限界時間が来る。本命には届かない……ならば!)
思考を切り捨てると同時に、機体がさらに加速する。
振り下ろされるブルトガンク。
最適化個体は即座に回避行動へ移る――が。
次の瞬間、ブラウフリューゲルが軌道を切り返す。
逃げた先へ、叩き込まれる斬撃。
フェイント。
読ませて、裏を取る。
アークレイズによる力押しができないのなら――
技で上回るしかない。
一体、撃破。
間髪入れず、最適化個体が迫る。
だが次の瞬間、ブラウフリューゲルの死角からブレードビットが射出された。
機体の陰に潜ませていた一撃。
最適化個体に突き刺さり――そのまま爆散する。
「学習するなら……その上をいくまでだ!」
ユーヤの声が、荒い呼吸の中で響く。
一瞬。
最適化個体群が、わずかに後退した。
ほんの刹那の“躊躇”。
だが、それで十分だった。
ブラウフリューゲルが踏み込む。
フェイント。
奇襲。
軌道変化。
波状攻撃。
途切れない連撃が、敵の予測を上回り続ける。
ユーヤの集中力は、すでに極限を超えていた。
視界が研ぎ澄まされ、時間の流れすら遅く感じる。
これまで苦戦していた最適化個体を――
最速で、墜とす。
一機。
さらに一機。
また一機。
墜とす。
墜とす。
墜とす。
力ではない。
純粋な操縦技術と判断速度だけで、ねじ伏せていく。
いくつかの武装を失いながらも、その勢いは止まらない。
そして――気づけば。
最適化個体群は、壊滅していた。
静寂が、一瞬だけ訪れる。
「ハア……ハア……」
荒い呼吸。
限界が、確実に近づいている。
それでも。
ユーヤは、前を見据えたまま呟く。
「……まだだ」
視線の先には、なおも立ちはだかる“本命”。
「……ここからだ!」
ギアノイド中枢個体を睨みつける。
それは、“壁”ではなかった。
圧倒的な質量。
圧倒的巨体。
さらにそこから生えた触手が空間を支配する。。
超巨大ギアノイド。
その姿は、圧倒的で、言葉にできないほどの凄絶さを持っていた。
ブラウフリューゲル。
その前に立つ。
小さい。
その存在は、巨影の前にひとしずくの塵のように感じられる。
(……これが)
理解する。
これまでのすべてが、次元が違うということを。
感じる。
全てが重く、ひしひしと迫ってくる。
途端、触手がブラウフリューゲルに向かってくる。
最適化個体群がいなくなったことで、射線がひらけ先程より密度の濃い触手が複数飛来する。
守りを失った必死の抵抗とも取れるが果たして。
中枢本体との本格的な戦闘が開始される。
飛来する触手のような腕。
縫うようにすべて回避し、中枢本体へ接近。
ブレードライフルの斬撃を叩きつける。
同時にビームソードも最大出力でその巨体を貫こうと押し付ける。
斬撃が、巨大な影を切り裂こうとする。
だが、それでも――“削れない”。
巨大な触腕。
それは、まるで時を引き裂くように振り下ろされる。
紙一重で回避する。
かろうじて、機体は避ける。
だが、反動が強すぎる。
かすっただけで。
機体が、吹き飛ぶ。
「っ……!!」
その衝撃が、体の隅々にまで突き刺さる。
追撃が来る。
間髪入れずに、別の触腕。
さらに強力なビームがユーヤを襲う。
すかさず応戦する。
レールキャノン(レイヴン)。
連射。
触腕と本体に命中。
触腕はひるむ。
だが、それでも――
本体には効かない。
一瞬、ユーヤはその現実を理解できなかった。
(武装がほぼ通じない⁉)
残った次々と武装を使う。
ブレードライフル。
大剣ブルトガンク。
レールガン(レイブン)。
収束ビームランチャー(レーヴァテイン)。
すべて――
通らない。
すべてが無駄に感じられる。
(削れ……!削れ!)
必死にそう思うが、その意志とは裏腹に、
何もかもが虚しく弾け飛んでいく。
削れない。
削れる気配すらない。
警告音が鳴り響く。
収束ビームランチャー(レーヴァテイン)が完全にオーバーヒート。
これ以上は機動力に影響が出る。
レールガン(レイブン)は残弾数が尽きた。
(…これでどうだ!)
距離を詰める。
最大加速、接近し――
インパクトショット改。
最大出力。
だが、
その結果は――
浅い。
あまりにも浅すぎる。
ユーヤは、歯を食いしばる。
「これでもダメなのか⁉」
それでも機体は耐え、もう一度戦い続ける。
反撃が来る。
触腕が飛来。
直撃するがビームシールドで耐える。
反応する暇もなく、次の触腕が再び襲い掛かる。
再びビームシールドで耐える。
しかし、シールドに亀裂が入る。
「⁉」
右腕直撃。
その右腕に一部が、吹き飛ぶ。
宇宙へと消え去る。
「っ……!!」
機体の揺れ、身体の痛み。
すべてが一気にユーヤを飲み込んでいく。
バランスが崩れる。
制御が乱れ、視界がぼやける。
全てが、歪んで見える。
警告音が鳴り響く。
機体損傷。
エネルギー低下。
それでも、ユーヤはその声を無視して進み続ける。
冷静に計器に目を落とす。
残された武装は、
左手に持ち替えたブレードライフル。
だが射撃モードはオーバーヒート寸前。
近接斬撃による負荷で亀裂も生じている。
いつ使用不可能になってもおかしくない。
他には――――ヘクステッドキャノンのみ。
呼吸が荒い。
視界が歪む。
身体も、限界を迎えようとしている。
それでも、まだ。
(……まだだ)
目の前に立つ、巨大な壁。
それを越えるために――
ここで終われば。
すべてが終わる。
だが、ユーヤはそれを受け入れられない。
残されたのは。
1つだけ。
切り札。
そして、ユーヤの手が、最後の武装へと伸びる。