蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
削れている。
確実に。
だが――
足りない。
ブラウフリューゲルは中枢へ、なおも食らいつく。
斬撃の跡は増え、外殻はわずかに崩れ始めている。
それでも――
倒せない。
(決め手が……ない…)
ユーヤの呼吸が乱れる。
肺が焼けるように痛む。
身体は、すでに限界を超えている。
それでも――止まれない。
計器へ視線を落とす。
背部ユニット。
ヘクステッドキャノン。
最後の火砲。
残された、唯一の“切り札”。
(これしかない)
結論は出ている。
(距離をとって減衰した火力では意味がない…)
(至近距離からの直撃が必要…)
だが――現実は厳しい。
チャージ、そして発射。
その間、機体は完全停止する。
この戦場で。
この距離で。
それは――
“死”を意味する。
中枢の触腕が蠢く。
間合いを詰めることも、距離を取ることも許さない。
隙を与えない。
絶対に、撃たせない。
そう言わんばかりに。
(撃てない……!)
引き金に指をかけたまま、止まる。
わずか数秒。
それが、遠い。
あまりにも遠い。
ヴェスペリオン艦橋。
そのすべてを見据える男がいる。
ゲンゾウは目を細めた。
「……なるほどのう」
状況を、冷徹に見極める。
必要なものは、ただ一つ。
“時間”。
ほんの数秒。
それだけでいい。
そして――決断する。
「総員、退艦準備」
静かな声が、艦橋に落ちた。
一瞬。
誰もが動きを止める。
意味を理解するまでに、わずかな時間を要した。
「……艦を…ヴェスペリオンをぶつける」
それは――
紛れもない、特攻。
「なにを……!」
「正気ですか!」
騒然とする艦橋。
だが、ゲンゾウは揺るがない。
「他に手はない」
感情を排した断言。
「一直線の航行」
「人員は不要」
「ワシだけで十分じゃ」
わずかな間。
そして、静かに告げる。
「奴に、撃たせる。それ以外に勝ち筋は無い!」
沈黙が落ちる。
誰もが理解している。
それが、最善であることを。
だが――
「……待て」
別回線。
低く、強い声。
他艦の艦長たちだった。
「それは俺たちの役目だ」
声が重なる。
「旗艦が突っ込んでどうする」
「指揮が消えれば終わる」
「ここは残るべき場所だ」
冷静で、そして残酷な判断。
「艦載機を失った艦がある」
「もう戦えない艦がある」
「なら――」
一拍。
そして、誰かが言う。
「そういう艦こそ、前に出る」
淡々と。
まるで当然のように。
命の使い道を、選び取る。
そこに迷いはない。
ゲンゾウは目を閉じる。
わずかな沈黙。
そして――
「……任せる」
一呼吸。
「……すまん」
役割が、移る。
命を使う役目。
未来を繋ぐための、最後の楔。
複数の艦が、前へ出る。
ボロボロの艦。
傷だらけの艦。
それでもなお、進む。
その進路に、迷いはない。
一方、蒼い閃光はまだ駆けていた。
しかし――――
とうとうブレードライフルが砕け散る。
限界が来た。
もう武装は一つのみ。
後がない。
崖っぷち。
「っ…クソ!」
(…ここまでなのか…)
その時—―――
ブラウフリューゲルに通信が入る。
「蒼の英雄!お前こそが人類の希望だ!」
「道は作る。行け!」
「――撃て。終わらせてくれ!」
「我らが英雄!あとは頼んだ!」
短い言葉。
すべてを託す声。
戸惑うユーヤ。
「連合艦隊……!? いったい何を――」
ハッとする。
その意図を、理解する。
ユーヤは歯を食いしばる。
理解している。
何が起きるのか。
何を、自分が背負うのか。
それでも――
目を逸らさない。
「っ……了解!」
人類は。
命を使って。
未来を繋ぐ。
その数秒のために。
すべてを、賭ける。