蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
突撃が、始まる。
損傷した艦。
武装を失った艦。
戦う力を失ったはずの艦たちが――
それでも、加速する。
突撃する艦から通信が飛び交う。
「全推力、前へ!」
「構うな、突っ込め!」
怒号にも似た声。
だが、その奥に迷いはない。
誰も迷わない。
振り返らない。
役目は一つ。
“勝利への道を作ること”。
鎮座する中枢ギアノイド。
触腕が蠢く。
迎え撃つように、無数に広がる。
そして触腕より放たれるビーム。
衝撃。
爆炎。
艦が削れる。
装甲が剥がれ、火花を散らす。
それでも――
止まらない。
一隻が真正面から、突き刺さる。
直撃。
爆発。
閃光が、戦場を飲み込む。
連鎖するように――――
二隻。
三隻。
次々と。
ためらいなく。
巨体へと、ぶつかっていく。
中枢の外殻が――
大きく、崩れる。
確実に。
深く。
瞬間。
止まる。
世界が、わずかに静止する。
ほんの――数秒。
そして―――
ゲンゾウの声が響き渡る。
「今だ!!撃て!ユーヤァァァァ!!!」
その一言が、すべてを繋ぐ。
迷いはない。
ブラウフリューゲル。
その場で固定。
覚悟は、すでに終えている。
ヘクステッドキャノン、展開。
背部の巨大な2砲門が姿を現す。
両腰に抱え発射体勢へ。
次元粒子、集束。
光が収束する。
空間が、悲鳴を上げるように歪む。
機体が悲鳴を上げる。
フレームが軋む。
ユーヤの身体も――限界を超えている。
意識が、削られていく。
それでも――――
(ここで……終わらせる!)
すべてを、この一撃に。
「ヘクステッドキャノン……!」
一瞬、時間が、止まる。
「――――ファイアァァァァ!!!!!!!!」
極光。
世界が、白に染まる。
圧倒的な光。
すべてを呑み込む奔流が――
中枢へと突き刺さる。
外殻を砕き内部へ。
さらに奥へ。
貫き、抉り、突き抜ける。
巨大な存在が。
内側から、崩れ始める。
構造が軋み、連鎖的に瓦解していく。
静寂が訪れる。
音が、消える。
爆音も、通信も。
すべてが遠のく。
ギアノイドの動きが、止まる。
「……止まった?」
「やったのか……?」
誰かの声が、震える。
張り詰めていたものが、ほどける。
誰もが、ようやく息を吐く。
ユーヤは力が抜ける。
視界が揺れる。
意識が遠のく。
(……やった……)
遠のく意識の中で、崩壊する中枢個体を眺めていた。
光が、消えていく。
ヘクステッドキャノン――
最大出力。
その代償は、明確だった。
砲身は崩壊。
熱量に耐え切れず燃え尽きた。
中枢個体超巨大ギアノイド。
崩れる。
外殻。
内部構造。
すべてが、瓦解していく。
その瞬間。
ギアノイド群の動きが、明らかに鈍る。
「……止まったぞ!」
「効いてる……!」
反撃が始まる。
「全機、反撃開始!!」
人類側が前に出る。
押し返す。
これまでの劣勢が、まるで嘘のように。
残存しているギアノイドが統率を失い次々と落ちる。
連鎖的に、崩れていく。
勝利の後のウイニングランとも思える攻勢。
明かな勝ち。
勝利は疑いようがない。
戦闘中ではあったが安堵の通信が飛び交う。
「やった……!」
「勝ったんだ……!」
広がる。
歓声。
安堵。
張り詰めていた空気が、一気に緩む。
「蒼の英雄が……」
「やり遂げた……」
誰もが思う。
終わった、と。
一方、ユーヤ。
戦域最深部。
その中心にブラウフリューゲル。
機体は――
限界。
武装、全損。
右腕、なし。
砲身、焼失。
コックピットのユーヤ。
意識は遠く、視界は白い。
(……終わったのか……?)
力が抜ける。
制御が途切れる。
既に戦域最深部には敵は残っていなかった。
機体が、宇宙に。
静かに漂う。
ヴェスペリオン艦橋。
歓声の中で。
ゲンゾウだけが、黙っている。
「……なんじゃ…このかんじは…」
小さく、低く。
視線はモニターを見つめる。
崩壊する中枢。
その奥。
何かが――
“おかしい”。
ヴェスペリオン艦橋、オペレーターが問いかける。
「……所長?どうかしましたか?」
「……静かすぎる」
確かに、ギアノイド側は完全に統率を失っている。
単調な反撃動作を繰り返すだけ。
だが――“消えていない”。
直観。
長年の勘が告げる。
まだ、終わっていない、と。
勝利の空気に包まれた戦場で。
ただ一人。
次の“何か”を見つめていた。